再来。
繁忙期ツラい。
「はい、これ。」
「ありがとうございます。」
午前だけでバイトが終わってそのままランチをしていた日。
一人でカウンターに座る私の目の前に出されたのは、久しく見ていなかった端末だった。手に取って操作してみるが特に問題もない。電波諸々は勿論、SNSやブックマークしていたサイトは見れなくなっているけど、それ以外は向こうの世界で使っていたスマホのままだ。
「こんな状況になるなら、麗君とメールのやり取りしておけば良かったと思いますよ。」
「確かに。メールなら残っていたかもね。」
メールの受信フォルダを開いて恨みがましく言えばマスターに苦笑いされてしまった。多くはないけど残っているそれは、ほとんどがどこかのお店からのDMだ。
「あ…。」
このスマホが欲しかった本来の目的。ディスプレイには会いたくて堪らなかった人。
これは確か婚約してすぐに同僚がお祝いと称して開いてくれた飲み会だ。締まりのない顔で写ってる私と麗君の手には同じ指輪が光っていてなんとも切なくなる。そういえば、この世界に来た時には手に何も付いていなかった。それを思うと余計に気持ちが沈む。
「大丈夫かい?」
「流石にキツいですよ。でも、懐かしいって思えるくらいには昇華出来てるのかなとは思います…。」
今のスマホの隣に前のスマホを置いて眺めてみる。麗君とお揃いで購入したそれは少々ディスプレイに傷が付いていて、向こうで最後に落としたのかななんてどうでもいいことが浮かんでくる。
「じゃぁきっとそれは彼のおかげかな?」
「…そうですね。認めたくないけど、出会えて良かったのかなって。」
午後から会おうと誘ってきた南條さんはまだ来ていない。30分程前に篠崎さんから連絡があって、会議が長引くから遅れると。何故篠崎さんからなのかとか会議中なのではとか、気にしたら駄目だ。
「それにしても、南條さんがモブですらないって未だに信じられないんですけど。あんなシークレットですとでも言わんばかりのスペック…!ぶっちゃけ南條さんが攻略キャラだったら最推しでしたよ?」
「ははっ、普段からは想像出来ないくらいの気に入りようだね…。」
「やっぱりこの世界がゲームベースっていうのが抜けきらなくて…。表面だけだったら断トツ南條さんですよ。」
「中身は違うのかい?」
「設定にもよりますからね。まぁ紳士なんだろうけど。」
ゲームを薦められた時はまさか乙女ゲームに夢中になるなんて思わなかった。麗君に文句も言われず寧ろ"俺が女だったら絶対コイツがいい"ってノリだったし。麗君の推し?英司でしたよ。
「結局ゲームだって部分は誤魔化したんだろう?」
「逆ハールートはないにしろ、好きに選んで攻略するとか言われても対象者じゃなくても嫌かなぁって。」
「確かに現実にあったら…!」
「ん?どうしたんで…!!」
「誤魔化したってどういうことかな?紫帆、教えてくれるよね?」
あぁ、今日は無事に帰れるのだろうか。




