コイツのは悪意ではないのか。
パンッ。
耳元で響く小さな音と目の前の彼女の様子にある種の感動を覚えた。
「っ!?」
響いた音は別に私がそのまま頬を叩かれた音ではない。寧ろ何かを弾いたようなそれは、元カノの悪意を跳ね返したものだ。マスターから貰った加護がちゃんと発動した音。前回が本当に完全ではなかっただけで問題なく守ってくれるみたいで一安心。
私に攻撃が当たらなかった元カノは何かに耐えるように自らの体を抱き締めて踞った。声にならず漏れた吐息はまるで痛みを我慢するような。
「私は行きますね。」
「おい、コイツどうしたんだ?」
「知りませんよ。急にお腹でも痛くなったんじゃないんですか?心配なら保健室にでも連れていってあげれば?」
「いや、それは遠慮する。」
先程の激情が嘘のように恐怖に支配された表情の彼女をそのまま放置して、授業が終わるまでの時間を潰す為に中庭に足を運ぼうとすると隣から待ったをかけられる。第三者から見ても不思議な状況を適当に誤魔化し押し付けようとするも、国立君はそれを即答で拒否した。
結局彼も放置することに決めたらしい。図書室で昼寝でもして時間を潰すと言っていなくなった。
残された私と元カノ。よく見れば綺麗な顔をしてるのに性格が残念だなんて勿体無い。
痛みが和らいできたのか立ち上がると再び私を睨み付けてくる。
「何したのよ貴女。」
「私が指一本すら動かしていないのは見たでしょう?悪いことしてたバチが当たったんじゃないんですか?」
「…化け物。」
「へぇ、誰が化け物なんだぁ?」
突然した背後からの声に流石に驚く。元カノの顔もヤバいとひきつっていた。
今は授業中のはずなのに聞こえてきた声は酷く楽しそうだ。自分もサボりなのか先にいなくなった国立君を探しに来たのか。きっと今の彼にはそんなこと頭にないだろう。
「お前はいつから化け物になったんだぁ?ほれほれ。」
「ちょっと痛いから!なんで頬引っ張るの!?」
「なんでって、化けの皮剥がせるだろ?」
「あーもー馬鹿野郎!」
怖くて振り返れなかったが、背後から伸びてきた手に容赦なく顔を引っ張られ思わず顔を後ろへ向けてしまう。案の定ニヤニヤと楽しそうな幼馴染み。
「数本君、授業は?」
「あ?恭介とテメェがいないから俺が探してこいってご指名受けたんだよ。てっきり一緒にいるかと思えば何故か俺の可愛い幼馴染みがブスに噛みつかれてるし。」
「…翔に可愛いとか言われるの気持ち悪い。」
「うっせぇその髪引っこ抜くぞ。」
私のポニーテールに伸びてきた手を全力で回避する。彼はやると言ったらやる。
私と戯れてるうちに逃げようとしてる元カノだけど、翔が見逃すはずもなく。
「俺は俺のモノにちょっかい出されるのがすげー嫌いなんだよなぁ。」
「ごめんね!そんなつもりなかったの!」
「俺はこのままサボっからテメェは適当に誤魔化しとけ。俺が教室に戻ったら、覚悟しとけヨ?」
「っ!!」
うわぁ、なんという悪どい顔。文化祭で青くなってたフラ子達もこの顔を見たんだろうな。F組は翔に逆らえないのかな。分からないでもないけど。
最後にもう一度私を睨み付けた彼女は逃げるように消えた。睨まれるくらいなら問題ないけど、翔も見てたからね。
さて私もここから退散…と思いきや、結構な力で捕まれた腕に逃走失敗。というか凄く痛いんですけど!?今はまぁ動きを制限するだけだからだろうけど、さっきの頬は完全に悪意あったよね?なんで防げないのよ?この程度で発動しても色々問題だろうけどさ。
「さぁて、中庭辺りで楽しくお喋りしようぜ?」
あ、私死んだな。
グダグダですね。本当に申し訳ないです。




