人差し指が言うことをきかない。
「それで結局何にしたんだい?」
「…手袋です。」
眉間に寄っているだろう皺を見てマスターが苦笑いしている。事件の後処理が終わったらこの店はなくなると思っていたけどそのままだ。私のお願いに"情報の提供"があるから、此処があった方が便利だろうということだ。
よってバイトも継続、ついでに先日のクリスマスプレゼントについて相談すればいくつか候補をあげてくれた。流石に同じくらいの値段のものは用意出来なかったけど、それなりの品の良さげなお店をマスターがピックアップしてくれたので嬉々としてそのお店に突入した。
結果、この前身に付けてなかったのを思い出して手袋にしたわけだけども。
「普段車に乗ってる人間って手袋使う頻度少なくないですか?」
「彼の場合は貰えれば何でも嬉しいと思うけど?」
「うーん…。」
傍らに置かれたプレゼントを見る。果たして気に入ってくれるだろうか。
今はバイトが終わりカウンターでマスターにコーヒーを貰って寛いでいるところだ。これからこのプレゼントを届けに行くのである。帰宅時間等詳細は篠崎さんに確認したので完璧である。勿論口止めも忘れずに。電話の向こうでニヤニヤしてる顔は容易に想像できたけども。
「ははっ、だいぶ緊張してるねぇ。刺さった槍引き抜いて喧嘩売った根性は何処へいったんだい?」
「それは言わないでください…。」
この話題は結構な頻度で出てきてはからかわれる。誰のせいであんな恐ろしい体験をしたと思っているんだ!
ジト目を向けたら軽く謝られたけど、どうせまたすぐに持ち出されるんだろうな。許せん。
最後の一口を含み財布からちょうどのお金を取り出したらいらないと言われた。"僕からのクリスマスプレゼントだよ"とのことで、ありがたく財布に戻して店を出た。
最寄り駅から電車で10分。それなりに人通りのある駅に到着した頃には少し日が落ちていた。篠崎さんによれば15時まで仕事で16時には帰宅しているそうだ。今日はお店を17時に閉めるとマスターは前々から言っていたし、南條さんは間に合わないと思って来るのを諦めたんだろうな。
前回来た時は車でしかも雪だった為、目的地までの道のりにはやや自信がない。住所聞いておいて良かったとスマホの位置情報で確認しながら思う。
見たことのある屋敷を確認出来たのは歩いて5分くらい経った頃。遠目に車があるのが分かるので帰宅はしているようだ。まぁ今日は残業無しで全力で仕事片付けると篠崎さんが楽しそうに言っていたので、その点の心配はしてなかったけど。
「うぅ、緊張するなぁ…。」
いざ目の前まで来てみるとどうも逃げ腰になる。インターホンに右手は添えられているものの、その指が一向に動かせない。
別に恥ずかしいとかそういうのでは断じてない。あんな高価なものを貰ってしまったから仕方なくお返しをするだけ…!そう、それ以上でも以下でもないのよ私!
「いい加減押したらどうだい?」
「ひぃ!?…あ、篠崎さん…。」
いきなり扉が開いたと思ったら、ずっと見られていたような言い方をする篠崎さんに情けなく声を上げた。凄く楽しそうな顔をしていらっしゃるのを見る限り、私が葛藤しているのを分かってて放置していたな。性格悪すぎる。
「こ、こんにちは?あの、南條さんは…?」
「まだ紫帆さんが来たことは知らないよ。さぁ、貴史の部屋に案内しよう。」
てっきり3人でいる場で渡してすぐに帰れると思っていたけれど、とんだ誤算だ。
2人きりとか、私の身が危ない気がする。




