絆されるにはまだ早い。
甘い雰囲気ってどうやったら書けるんですかね。語彙力と表現力が切実に欲しい。
「存在していなかったからこそ、紫帆と出会って紫帆を好きになれた。こんなに素敵なことはないよ。」
「っ!?」
なんだこれなんだこれなんだこれ!?
至近距離で見る南條さんはうっとりとした顔でこちらを見ている。そのくせ瞳には激情を含ませていて、心臓を鷲掴みされそうになる。
「なんで、そんな、愛の告白みたいな…。」
「まさにその通りなんだけど。」
この前から言ってるじゃないか、とクスクス笑われてるが反応出来ない。そしていつの間にか腰に腕が回されていて逃げることも出来ない。
「最初は紫帆のこと嫌いだったんだよ。」
あの直後やって来た事務員さんに急かされるように学校を出て向かったのは誰もいない喫茶ハノンだ。今日は先程までのゴタゴタで既に営業は終わっているけど、マスターから合鍵は貰っていたのでお邪魔させてもらっている。更に勝手にコーヒーも淹れているけど、何かしていないとまた捕まってしまいそうで。いつもよりぎこちない動きで淹れたそれは、マスターが飲んだら怒られそうな出来だった。
「篠崎さんと僕が親戚なのは知ってる?」
「いや、初耳です。雰囲気とか似てるなーって思ったことはありますけど。」
「小さい頃から篠崎さんとは過ごしていてね。あぁ、別に両親がいないとか不仲とか、そういうのはないから。ただ篠崎さんに気に入られて、僕も彼といるのが好きだったから。だから彼の仕事をサポートしたくて今の生活をしているんだけども。」
なるほど。子供の頃からあのお屋敷で過ごす時間が多くてそのままってことかな。建物の大きさからして使用人みたいな人が絶対いると思っていたけど、ほとんどの家事は南條さんがこなしているらしいし。掃除で業者が入るくらいとか。まぁあの広さは流石に1人じゃ無理か。
「僕はこの仕事に誇りを持ってる。篠崎さんは本当に凄い人で、あの人に認められて働けるのが嬉しかった。僕以外に傍に置く人間も今までいなかったのが余計僕は優秀な人間だと思わせた。」
「あー…、そこで私の登場ですか。」
「帰宅して楽しそうに紫帆の話をするから。しかも高校生だなんて、僕のプライドが傷付いたよね。」
思わずすいませんと謝れば、謝るのはこっちだと言われてしまい更に居心地が悪い。
「更に言ってしまうと、あの人あろうことか僕と紫帆の孫が見たいとか言い出して。」
「はぁ!?」
「流石にあの時はぶん殴ってやろうかと思いましたねぇ。」
カップから中身が溢れる勢いでソーサーに戻す。ガチャガチャと音が五月蝿くなってしまったがそんなことはどうでもいい。割れたら申し訳ないけど。
結構な爆弾発言をあのオジサマはしてくれちゃってたらしい。出会いから振り返ってみても気に入られるようなことをした心当たりはない。
諸々を考えても私に好意を抱けるわけがないのはよく分かった。
「ん?じゃぁあの日は私だと分かってて助けたんですか?」
「いや、あれは完全な偶然。休日だったから篠崎さんにバレないように紫帆の観察をするつもりでここに来ようと思ってたんだ。その途中で修羅場に遭遇して助けた女の子が紫帆だって知ったのはお友達が駆けつけた時だね。」
「友達?あぁ、絢子か。」
「身元確認で少し話したんだよ。ちょっとビックリしちゃって、とりあえず連絡先は病院に渡してそのまま帰っちゃったんだ。」
確かに篠崎さんにバレたらニヤニヤされそうだもんね。それにしても、絢子から何も聞かされてないんだよなぁ。他にも色々話したんじゃないかって邪推してしまう。明日あたり問い詰めようか?駄目だ、きっと返り討ちに遭うからやめよう。
「結局どの段階で、その、好きになったんですか?」
「自分で言いながら照れないでよ。あの修羅場の時からだよ。」
え?確かに衝撃的な出会いではあったかもしれないけど、会話すらしてないのに?一目惚れされるほどの顔面偏差値でもないのに?
私の疑問は伝わったのか南條さんが苦笑いしている。そのまま少し躊躇った後、言いづらそうに口を開いた。
「今まで異性に触れることってあまりなかったから。その…柔らかくて良い香りなんだって思って…。ごめん、変態みたいで。」
大丈夫、変態なのは既に分かってるから。




