呆気なく終わるらしいです。
「何してやがるんですかぁぁ!?」
目の前の顔に右ストレートをお見舞いするが見事にキャッチされてしまった。私マスターを呼んでこいって言ったはずなのに、何でこの人ここにいるの?
「いや、紫帆がキスしてほし「んなわけあるか!空気ぶち壊し!」ははっ、冗談だよ。」
間一髪キスから逃れ、右手が解放されると同時に距離をとる。
緊迫した空気をぶち壊した目の前の爽やか似非紳士、南條さんはヘラヘラと降参のポーズをとっていたが、すぐに真剣な顔で距離をつめて私を抱き締めてくる。
「血塗れ…。」
「そこの槍が綺麗に刺さったんですよ。何故か生きてるんですけど。」
「ゾンビ?」
「それは私も思いました。」
頭を少し動かして向こう側を確認すると、黒のローブにフードで顔が隠れた人が神田先生を拘束していた。抵抗する度にジャラジャラと鎖が音を立てて五月蝿い。その奥には同じように結花ちゃんが拘束されている。
間に合ったのかな。でもマスターの姿が見えない。
キョロキョロと視線を動かせば、奥のフードさんがこちらを向いた。
「遅くなってしまい申し訳ございません。また管理人382番の加護が正常に機能しなかったことも重ねてお詫び申し上げます。」
「382番?」
「僕の名前だよ。」
背後でドアが開く音がしたと同時にマスターの声が聞こえた。南條さんが私を離して隣に立つとやっと視界が元に戻る。マスターの隣には知らない人がもう1人。
「紹介しよう。彼女が君達のいた世界の代理人をしている管理人97番だ。」
「初めまして。この度は私達の対応が不十分により多大なるご迷惑をお掛け致しまして誠に申し訳ございませんでした。先日の大澤様のご要望はこちらで無事処理致しましたのでご安心ください。」
「え、あ、ありがとうございます…。」
自分でお願いしたことなのに滞りなく済んだらしい報告に安堵した反面ショックを受ける。これで本当に麗君とサヨナラになってしまった。顔に出ていたのだろう、左手がそっと隣の彼の熱に包まれた。
「罪人の捕獲にまで協力いただいて感謝のしようがございません。是非お礼をとトップからのお言葉です。」
「お礼ですか?」
「はい。個人への介入は禁忌ですが、特例によりある程度までは許可がおりてます。何なりとお申し付けください。因みに加護は継続しますのでご安心を。」
至れり尽くせりだなぁ。お礼といっても1番叶えたい"向こうへ帰る"は不可能だし、正直願うことは特にないのだけど。
そうしている間にフードさんの1人が神田先生を連れて消えた。中身の管理人を引き剥がした後本物が戻ってくるらしい。ゲームの主要人物だから流石にそのまま存在を消すことは無理だそうで。
そのまま結花ちゃんも連れられていくのだろうか。
「あの、結花ちゃんはどうなるんですか?」
「彼女にも罪状はいくつかありますのでこちらで処理します。」
「処理?」
「元々彼女は死者ですので、最終的には輪廻の輪へ返す予定ですが。」
「え…アタシ死ぬの…?」
こちらの声が聞こえてたらしい結花ちゃんは自分のこれからに絶望していた。既に死んでるから死ぬっていう表現も微妙だけど。少女は2度死ぬ。どこのミステリー小説のタイトルだ。
大人しくしていた結花ちゃんが途端に暴れだす。"アタシは悪くない"とか"義姉さん助けて"とか。さっきまで散々な言われようだったのに凄い手のひら返してきたな。義姉さんとか初めて呼ばれたよ。もう麗君の婚約者じゃなくなっちゃったから赤の他人なんだけど。
ジャラジャラと暴れる音が五月蝿い。黙らせるのは簡単なんだろうけど、如何せんヒロインの体だ。神田先生と同様中身を引き剥がして本物を戻さないといけないから傷付けることも出来ない。隣のフードさんは顔は見えないけど相当イライラしていそうだ。
「お礼のことなんですけど…。」
面倒くさいなと思いつつ、これからもっと面倒なことをこの人達に押し付けてしまうことに申し訳ないと心の中で謝罪しながら、私はその願いを口にした。




