いい加減にしろ。
「お…さわさん…。」
私の名前を呼んだのはどちらだったのか。
判別出来ないくらいには私は冷静さを欠いているようだ。自己分析出来るくらいには冷静だけども。
背後のライバルちゃんの方へ体の向きを変更。現状結花ちゃんとの話し合いは困難、このまま騒ぎ続ければ必ず神田先生が来る。来た時に彼女がいれば間違いなく被害を被るし、庇いながら対峙するとか無理。
よって導き出される答えは。
「ここは私が代わるから、学校から5分くらいのところにある喫茶ハノンのマスターを呼んできて欲しいの。」
「え?」
「お願い、急いで。」
いきなり近所のオッサン呼んでこいなんて意味不明だろうけど、彼しか打破できる人間がいないので許してくれ。
小声で伝えて強引に彼女の向きを変え背中を押す。困惑気味な視線をもらったけど、口パクで"お願い"だけを伝えて背後に向き直る。
「お待たせ。ここからはオネーサンが相手をしてあげよう。」
「あの人から聞いたの?」
「中身については。久しぶりだね、結花ちゃん。」
ふざけてるような口調になってしまったが致し方ない。余裕があるように見せて少しでも向こうに動揺を与えたいからね。相手は大人の着ぐるみを纏った元18歳だ。大丈夫、私なら出来る。
「色々聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
「貴女に言うことなんてないわ。」
「勝手にこっちへ連れてきておいてそれはないんじゃないかな?麗君にも迷惑かけちゃってるし。」
「貴女がお兄ちゃんの名前を呼ぶな!」
淡々と返されたから少し手強いかと思ったけど、麗君の名前を出した途端コレですよ。どれだけブラコンなの。
「いや、そうは言っても婚約者だし。それ以前にずっと麗君って呼んでるし…。」
「アタシは認めてない!」
「いやいや…。お義母さんとお義父さんにもちゃんと許可もらってるし…。結花ちゃんとも仲良くしたかったんだけどな…。」
「絶対嫌!」
この光景国立君が見たら卒倒するんじゃないかなぁ。もう完全にワガママ言ってるガキだよね。18歳ってこんなに子供なんだっけ?この世界の高校生と比べてもだいぶ幼いというか。
なんでここまで拗らせてるのかって問われれば、麗君のせいなんだろうけど。ご両親は少ししか時間を共にしていないけど、特に結花ちゃんを甘やかしている感じではなかったし。寧ろ甘やかしすぎている麗君を嗜めていたからね。歳を重ねるごとに彼のシスコン度は低下してきていたけど元がだいぶ高めだったから、周りから見ればハッキリとシスコンと分かるレベルだったし。
「こんなことしても麗君は喜ばないって思ったりはしないの?」
「喜ぶに決まってるでしょ?お兄ちゃんは昔から彼女とよく喧嘩して辛そうだったもの。貴女だってそうなんでしょ?」
「私と麗君は基本喧嘩しないよ。」
この子、自分が喧嘩の原因って分かってないのか。こんなに残念な子だったなんて。
「病院で苦しくて苦しくてもう駄目って思った時にあの人が現れたの。助けてあげるって。幸せにしてあげるって。だから貴女がやってたゲームの世界に連れてきて、貴女がお気に入りのキャラクターとくっついて帰りたくないって思ってくれれば貴女だけ残してアタシは戻ってお兄ちゃんを独り占め出来るって思ったのよ。なのに全然そんな素振りないし。相澤と揉めた時はこのまま目覚めなければって思ったのにすぐ元気になるし。お気に入りのキャラクター奪っても傷付かないし。本当にムカつく。」
特に誘導することもなくベラベラと喋る目の前の存在にだんだん腹が立ってきた。
例え私がいなくなったって、麗君はきっとまた違う人と人生を共にするだろう。幸せになる為に。それを邪魔していいわけがない。例え妹であろうと。
相澤さんだって友人だと知らないとはいえ、勝手に消していいわけがない。
どうして理解しようとしてくれないのだろう。
挙げ句自分だけは戻るだって?
「ふざけるな。」




