お家帰りたい。
カチャリと後ろで扉の閉まる音がした。
見るからに高そうな調度品に囲まれて私達4人は顔を合わせていた。誰一人口を開かず、用意されたコーヒーを啜っている。私は目の前の2人の深刻そうな表情のせいでその味を楽しめていない。隣に座る彼も呼び出されたらしく、現状を理解出来ていないみたいだ。
「もうコーヒーは堪能出来ましたよね?いい加減説明してくれてもいいんじゃないんですか?雪の中僕にわざわざ紫帆を迎えに行かせて、戻ってみればマスターさんもいらっしゃっているなんて。篠崎さんふざけてるんですか?」
我慢が出来なくなったらしい隣の南條さんが彼の前に座る篠崎さんに質問すれば、更に空気が悪くなった気がする。さっきの神田先生といい今といい、ちゃんと説明してくれ。これ以上混乱したら正しい道を選べなくなりそう。
「そうだね。まずは紫帆さん、急に呼び出してすまないね。といっても、君に話があるのはマスターの方なんだよ。」
「それは構わないんですが…、マスターが?用があるならスマホに連絡くれれば良かったのでは?」
もの凄く構うのだが、とりあえず今は大人しくするしかない。私の前に座るマスターはカップを置いて姿勢を正した。
「電話等で片付けられる問題でなくてね。どうやら南條君も事情を知ってるみたいだから篠崎君に頼んだんだ。まさか同じ家に住んでるとは思わなかったけど。」
え?2人ってここに一緒に住んでるの?やっぱり南條さん秘書?執事?あ、南條さんの眉間に皺が…。
「早く本題を。」
ブリザードだ…。家の中なのに吹雪…。
この状態の彼には慣れてるのか篠崎さんは苦笑いしている。うん、2人の話は後で聞こう。
「す、すまない。…大澤紫帆さん、この度は何の説明もせずこの地で暮らすことになったことをお詫びしたい。」
「え?」
「こちらに連れてこられた段階で君を保護しようとしたんだが、なかなか手が出せなくてね。奴がやっと動いてくれたから私の呪いの効力が弱まったんだ。今しかないと思って呼び出させてもらった。」
「マスターは神田先生を知ってるのですか…?」
なんということだ。こんな身近に"私"を知ってる人間が存在していたなんて。ということは、マスターも人を超越した存在なのかな?天使…にしては申し訳ないけど外見がアレなので神様とか?
それにしても、南條さんにその辺は話してないから…と横目で伺えば滅多に見ることはないだろうアホ面をしている。どうしよう、こんな状況だけど爆笑したい。
「正確には彼の体を借りている存在だね。アレは君がいた世界の管理者だ。君の婚約者の妹に叶わぬ恋をしている残念な、ね。」
「神様…みたいなものですか?」
「そうだね。」
「ちょっと待ってください!何訳の分からない話をしているんですか!?」
やっぱり神様的なやつかーなんて遠い目をしたくなったが、南條さんの焦ったような声になんとか留まる。流石に篠崎さんも次元が違う話にはついていけないようで難しい顔をしていらっしゃる。まぁ普通に考えたら頭の可笑しい人達の会話よね。
マスターに説明してないのかと視線を寄越され無言で頷く。すぐに溜め息つかれたけど、私は悪くない。
「彼女は大澤紫帆さん。彼女の婚約者の妹さんである北沢香織先生のワガママで元の世界から弾き出された転移者だよ。」
その瞬間、何かが弾けた音がした。




