既に失言。
あのあと私への口止めは完全に無駄だと思うほどあっという間に先生達の噂は流れていた。学校という閉鎖的な空間で誰にも見られずになんて難しいことがよく分かる。私も気を付けなければ。
翔に関しては遠目で見る限り特に変化はない。この噂を隠れ蓑にでもするつもりだろうか。もしかして先生はその為に神田先生と?いや、そんなに賢くないか。
そう、誰にも見られずになど無理なのだ。
「中学の頃からずっと好きでした!付き合ってください!」
だって私が見てるから。望んで見てるわけではないんだけどね。
図書室から教室へ、帰宅すべく荷物を取りに戻ろうとしていた道中聞こえてきた告白はどうにも既視感があった。ぐっちーの時とは違うもっと別の。
「ごめん、無理。」
バッサリと躊躇いもなく返事をしたその人物にあっという間に疑問が解決する。
これはヒロインが英司とA組の少女のやり取りを覗くイベントだ。
ここで英司の過去が明かされ、2人の距離がやっと縮まる。彼のルートが1番動くのが遅かったはず。
「どうして?昔は仲良くしてたじゃない…。それにあんなに優秀だったのになん「五月蝿い。」」
「アンタ達がそうやって持ち上げるのがムカつくんだよ。俺は兄さんじゃない。押し付けんな。」
ゲームと少し台詞が違うが、怯えながら去っていく少女にその場でしゃがみこむ彼。ここでヒロインが黙って去ろうとすると
「紫帆、もう出てきたら?」
気付かれるのである。まぁ私は去る気なかったけども。国立君の時といい、翔と付き合ってしまったことによって発生することがないイベントを私が代わりに体験するとかどういうことだ。過去とか話されても既に知ってるから反応に困るんだけど。
とりあえず廊下は寒いので図書室に逆戻り。最奥の古い資料が並ぶ棚の横にひっそりと置かれたソファーに座り、沈黙が破られるのを待つ。ここら一帯の郷土資料なんてよっぽどのことがない限り借りるような人は来ないからね。この場所に来るまでに室内の生徒には見られてるから少し心配な部分はあるけど、私と英司が一緒にいるのはよくあることなので変な噂にはならないだろう。
「俺、双子の兄がいたんだ。」
「…うん。」
遂に英司が口を開いた。完全に驚くの忘れたけど大丈夫かな?
「中学の時に事故で死んじゃったんだけど。」
「うん。」
「俺と違って完璧な人でいつも周りからの期待に軽く応えてて。そんな兄さんが大好きで俺の誇りで。だから事故当時は皆が悲しんでた。」
「素敵な人だったんだね。」
中学生でそこまで完璧にこなせるのはゲーム仕様だよね。回想のシーンでお兄さんが崇められてるカットが入った時は思わず宗教かよっ!?って突っ込んだけど。
「少しして皆が向けてくる視線が変わった。双子なんだから俺にもって期待され始めて無理矢理やらされて。誰も俺を見てくれない。俺越しに兄さんを見てた。彼女もいたらしくて、やたらベッタリくっついてくるその人が気持ち悪かった。」
「うん。」
「そのうち全部が嫌になって、姉さんに頼んで一緒に家を出て、少し離れた清蘭に進学した。それでも同じようにここを受験した奴はいたからたまに向けられる視線が気持ち悪かった。」
「勉強したくなかったのは反動ね。」
設定が無理矢理だなぁなんてプレイ時は思ったけど、本人からすれば恐怖だよなぁ。中学生で体験することじゃないよね。発狂レベルだよ。
「今は楽しい?」
「うん。たまにさっきみたいなのあるけど、昔に比べれば。恭介達も何も聞いてこないからありがたい。それに、紫帆がいるから。」
ん?あれ?なんか流れがマズイ方向になってる気がする?
「俺のことちゃんと分かってて何も触れてこない紫帆に凄く安心してた。」
「分かってた?」
「中庭で先生が生徒と揉めてた時、優秀だって言ってたから。どこかで俺のこと聞いたんだろうけど、紫帆は黙っててくれたじゃん。」
「…あー…、うん。」
相澤さんが香織先生呼び出した時か。2人の会話に夢中で失言したことすら気付いてなかったわ。良い方に勘違いしてくれてるみたいだからいいけども、今までの私大丈夫か?
「だから俺、紫帆のこと好きなんだ。」




