そんなものあるわけがない。
「翔は知らないよ。興味ないことには触れてこないからね。」
あちら側のことをこちら側の翔が知りようもないので誤魔化すのはなかなか大変である。あながち間違いでもない返答は返せたと思うけど。
「見てて思うのだけど、彼は北沢先生に随分執着してるわよね。」
「バレバレだなぁ。」
「それと同じくらい、紫帆にも執着してると思うの。」
他のお客さんがいないわけではないのに、随分この空間が静かだ。絢子が真剣にこちらを見て言う言葉が一瞬理解出来なくて首を傾げる。
あの二人がそういう関係になりそうな雰囲気なのはある程度鋭い人間なら気付くのだろう。だけど私?
「別に普通じゃない?幼馴染みってだけで。」
毎日一緒に帰ってるわけでもないし校内での接触だって寧ろ英司の方が多い。最近は英司ですら遭遇することもなく、放課後は言わずもがな。
相澤さんがいなくなってから危険だったのは文化祭くらいで、それ以外での遭遇率はだいぶ低い。このまま大人しくしてれば何かの拍子に向こうに戻れるのではないかという期待がまた沸き上がっている。そうすれば私は平和に過ごせるのだ。
あの時の翔の壁ドンを思い出しては悶え、先生といる翔を思い出しては打ちのめされ、だいぶ参っているのも正直なところ。
もう子供のようにキラキラとした恋愛とかは出来ない。翔と想いが通じ合ったところで、28歳の感覚が抜けないのは分かりきってるし。
「前回は濁してたけど、まだ元彼のことが好きなの?」
「うん、まぁ。」
日は浅かったが婚約者であったのだ。勿論好きである。
「ならいいの。もし紫帆が数本君のこと好きで我慢してるならって思ったけど、そんな感じではないみたいだし。この前ニヤニヤしてたのは思い出し笑いってことにしておくわ。」
その台詞だとバレてるみたいで焦る。まぁ焦らせてボロ出させようとしてるんだろうけど。
「翔の初恋が実るといいなぁ。」
「思ってもいないことを…。」
それは言わないでおくれ。半分くらいは思ってるからさ。
窓の外を見れば色とりどりの葉が路地を鮮やかな風景に変えてくれている。
ゲームでいえばもう後半戦。そろそろ大きな動きもあるだろう。巻き込まれないように観察するのは難しいかもしれないけど、やっぱり間近で見たいとは思う。
それに、隠しキャラのルートに入るならこの時期からだったはず。今まではたいした接触はなかったけれどこれから少しずつ遭遇率が高くなりそうだ。
あぁ、セーブ機能が欲しい。




