向こうにいる彼と彼の妹について。
「テスト前にこんなにのんびりしてていいの?」
「普段からちゃんと勉強してれば問題ないでしょう?」
「まぁそうなんだけどさぁ…。」
テスト約1週間前の日曜日。場所は喫茶ハノン。
今日はお客として絢子と共にランチをしに来ている。連絡もらった時はてっきり一緒に勉強するもんだと思ってたから道具一式持ってきたのに、先に到着していた絢子の身軽さといったら。完全に休日を楽しむ装いでしたよ。
「紫帆に聞きたいことあってね。」
「ん?」
「少し前に元彼の話したじゃない?詳しく聞きたくてね。」
優雅に食後のコーヒーをいただき笑顔を見せる彼女はやはり顔面偏差値が高い。これの3割でいいから分けてほしい。
さて、元彼の話ですか。確かにそんな話をした記憶はあるけれど、
「本当に面白くもなんともないんだけど。」
「いいのよ。紫帆が自分のことを話すのってなかなかないでしょ?気になるじゃない?」
私のことは話せることが少ないからね。なんせ元28歳。
「校内で初めて見た時、凄くカッコいいと思ったの。友達に教えてもらって"麗"って名前だって知って容姿にピッタリで素敵だなって。だからって接点を持つことはなくて所謂憧れみたいな感じだったんだけどさ。」
大学で初めて見たときは本当にテンション上がったのを今でも良く覚えている。当初は麗君には彼女がいたから特に恋になることもなかった。顔が見れればラッキー程度だったのだ。
「それから1年後に同じクラスになってさ。仲良かった男子が実は麗君の友達だって発覚して間近で初接触したんだけど、ぶっちゃけそこまでかっこよくなくて。憧れが木端微塵に吹き飛んだよね。」
なんというか、コレじゃない感が凄かった。もっとキラキラしてるかと思ったらそこまで、みたいな。
「でもそれが逆に親近感持つキッカケになって仲良くなるのは早かったかな。喧嘩中とはいえ彼女いたからやっぱり恋にはならなかったけど。」
「でも結局付き合ったんでしょ?」
「まぁそうなんだけども。喧嘩っていうのが麗君の妹が原因でね。重度なブラコンでお兄ちゃんを取られるのが嫌で結構揉めたみたいよ。妹が歳が離れてるのもあってか、麗君が妹を庇うことが多くて結局彼女が愛想尽かして破局したって。」
麗君と妹の結花ちゃんは10歳近く離れてて。当時小学生の結花ちゃんはだいぶ我が儘で麗君にベッタリだったってお義母さんが言ってたなぁ。
「紫帆もその妹が原因?」
「うーん、どう言ったらいいのかなぁ?その後しばらくは仲間内で楽しく過ごしてたんだけど、麗君って前も言ったように価値観が合ってさ。少しずつ2人で出掛ける回数が増えて、気付いたら2人でいるのが普通になって、付き合おうかみたいな。妹に勿論邪魔はされたけど、元々体が弱かったらしくて入院するようになっちゃってさ。それからはお見舞いに2人で行くとき以外は平和だったよ。」
そのお見舞いの回数が尋常じゃなかったのは、麗君もシスコンだったからだろう。それでも歳の離れた妹を心配する彼に幻滅することはなく、無事婚約まで辿り着けたんだけども。
「でも別れちゃったんだ?」
「しょうがないよね。気持ちなんていつ変わるか分からないし。」
別れてはいないけど、私が向こうに戻れない限りもう永遠に会えないから。急にいなくなってしまった私を彼はきっと心配してるだろう。それともよくあるファンタジーのように時間経過が向こうと違って、まだ数分、数時間しか経っていないのだろうか。
どっちにしろ、現段階じゃ何一つ分からないのだけど。
「紫帆も色々あったのねぇ。妹当時幼稚園児とかでしょ?まぁしょうがないか。」
話を聞き終えた絢子はコーヒーを飲み終えて紅茶を注文していた。聞かせろって言った割に反応薄いな。深く突っ込まれるとボロ出そうだからいいけど。
「ところでその話、数本君は知ってるの?」




