既視感に気付かない。
「初めまして、先日はありがとうございました。大澤紫帆です。」
「南條貴史です。後遺症もなく無事退院出来たみたいでホッとしました。」
時刻は18時26分。所は喫茶ハノン。マスターの淹れてくれたコーヒーに口を付け冷静になろうと試みる。
なんだこのキラキラ素敵イケメンは!!
心の中は大荒れである。この世界が乙女ゲームということもあり、キャラクターの顔面偏差値が全体的に高めなのは納得できる。どうせなら私も10人中5人が振り返る程度に高く設定してほしかった。
その中でも攻略対象者5人が別格なのも分かる。
でもこの南條さん、それに匹敵する顔面偏差値。隠しキャラは別にいるからその設定もない。私が今回のトラブルに巻き込まれなければ確実に登場しないであろうモブみたいな人なのに。
「おおよその事情は現場にいた彼から聞いてます。お気の毒でしたね。」
「あー…はい。あれはタイミングが悪かったとしか言いようがないです。てっきり彼と一緒にいた女性が現場を収めたと思ってたんですけど。まさか見ず知らずの方に助けてもらってるとは…。」
「あの女性は確か教職の方ですよね。彼女、貴女が倒れた後ずっと放心状態でしたね。」
「うわぁ…本当に申し訳ない…。」
香織先生本当に何もしなかったのね…。南條さんに助けてもらってなかったら処置が遅れて危なかったのかもしれない。うわ、こわっ。
「あっ、それで、その、つまらない物なんですけど…。お礼として受け取ってもらえますか…?」
入院中に篠崎さんに連絡して用意してもらったお礼の品をテーブルに置く。本当は相談だけして自分で買いに行きたかったのだが、予算さえ教えてもらえばお見舞いついでに買ってきてくれると言われてしまい、センスのない自分よりは確実かと思いお願いしてしまった。
中身は結構有名なメーカーの紅茶だった気がする。流石オジサマ。
「っ!?これは…。」
「もしかして紅茶駄目な人でした…?」
なんてこった、別の物を用意しなければいけないらしい。
慌ててテーブルから下げようとすると、その手をおもいっきり掴まれた。
「そんなことありません!僕、ここの紅茶が大好きでして!」
あぁ、そうか成る程…と何かに納得している南條さん。何が成る程なんですか。
まさか篠崎さんの知り合い?とも思ったが、彼には助けてもらった人にお礼をしたいとしか言っていない。
「あの…?」
「あぁ、すいません気にしないでください。好みの物で少しテンションが上がってしまっただけなので。」
それじゃぁ私が納得出来ないと反論したかった。
しかし続けて向けられたキラキラと眩しすぎる笑顔に勝てるわけもなく。
威力が絶大で大ダメージを食らった私は、その笑顔が答えになっていることに気付けなかった。
とりあえず、恥ずかしいので掴んでる手を離してください。
彼はあの人の関係者です。簡単に分かりますよねすいません。




