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第2話 異世界の怪物①

――轟ッ!!


黒い槍と白い刃が正面から激突した


凄まじい衝撃が地下聖堂を駆け抜ける

石造りの壁には亀裂が走り天井からは砂埃が降り注ぐ

周囲にいた黒冠の兵士たちは咄嗟に身を低くした


しかし、その中心に立つ二人だけは動かなかった


シアと、数多の世界を渡った異世界人


互いの武器を押し合いながら、

二人は互いに至近距離で相手を見据えていた


先に動いたのはシアだった

「ふッ!」


身体を捻り、白い刃を槍の柄で滑らせて受け流す

そのまま踏み込み、レオンの脇腹へ槍の石突きを叩き込む


――ドゴォッ!!


「おっ……!」

レオンの身体が横へ吹き飛ぶが、

空中で身体を捻って壁を蹴り着地する

「速いね」


「お前が遅いだけだ」

シアが答えた瞬間、男の姿が消えた

「――ッ!」


背後から白刃が振り下ろされる


日蝕が黒い光を放ち、槍から短剣へと形を変えた


――ガキィン!!


シアは振り返らずに背後からの一撃を受け止めた


「……見えてるの?」


「見えていなくても分かる」


シアは身体を沈め、白刃を受け流す

そのままレオンの懐へ潜り込み、拳を叩き込んだ


「戦場では、目だけで敵を見てはいけない」


――ドゴッ!!


再度拳が腹へ突き刺さる


レオンの身体が浮くと、シアはその腕を掴んで投げ飛ばす

――ドォン!!

レオンが地面へ叩きつけられる


「敵の魔力の流れや音、呼吸や気配も感じ取る」

シアが追撃し、黒刃が閃く


レオンは紙一重でそれを避けた


「そして――」

紅い瞳が鋭く細められる

「殺意を見ろ」


レオンは笑う

「なるほど、ただの脳筋じゃないんだ」


「誰が脳筋だ」


「違う?」


「殺すぞ」


「もう殺す気満々じゃん」

レオンが笑いながら踏み込み、再び二人の姿が交錯する


――ガキン!!


――ギィン!!


――ドンッ!!


黒と白の武器が何度も衝突する

その間にも、シアの視線は戦場全体を捉える

崩れ始めた地下聖堂

拘束された反乱分子

周囲にいる黒冠

そして、戦闘の余波によって崩壊し始めた退路


一瞬で状況を判断する

ここで戦い続ければ、召喚に関わった者たちまで巻き込まれる


シアの蹴りがレオンの胸へ突き刺さった


――ドゴォッ!!


男が後方へ吹き飛ぶ


「黒冠」


「はっ!」

即座に返事が返る


「容疑者を連れて退避しろ」


黒冠の兵士たちが一斉に動いた


「そいつらはまだ殺すな、召喚の経緯も、協力者も、全て吐かせる」


「御意!」

黒冠は迷いなく拘束されていた術師や兵士、召喚を主導した貴族たちが次々と転移魔法により連れ出される


「リセルは旧聖堂区全体まで断続的に結界を展開し、黒冠が全員退避したのを確認次第転移しろ」


「承知しました」

リセルの魔力がさらに膨れ上がり、多数の結界が構築される


レオンはそれに一瞬気を取られる

その隙をシアは見逃さない


「よそ見をするな」


――ズガァン!!


短剣からさらに変化した黒い戦斧が振り抜かれ、レオンの身体が横へ弾き飛ばされる


レオンは床を転がりながら受け身を取るも、片膝をついた


「……痛いな」

シアはレオンを追い、踏み込みと同時に戦斧を振り下ろす


レオンは白刃で受ける

――ガキィン!!

受け止めた瞬間、戦斧が消え、武器が変化する

戦斧から鎖へと

黒い鎖がレオンの刃へ巻きつく

「――ッ!」


シアが思い切り腕を引いてレオンの身体を引き寄せ、

膝が突き刺す

――ドゴッ!!


レオンの身体を浮かせるが

「甘い」


空中でレオンの身体から白い魔力が爆発した

――ドンッ!!


シアの身体が吹き飛ばされる

空中で姿勢を立て直し、着地する

靴底が石床を削る


「……なるほど」


シアの紅い瞳が細くなる

今の爆発は純粋な魔法ではない

魔力そのものを爆発させ、瞬間的に推進力へ変換している

「面倒だな」


「褒めてる?」


「もちろん」


レオンが笑うとその周囲に魔法陣が浮かぶ

一つ

二つ

三つ

さらに増える

「なら、これは?」

――バチィィィッ!!

雷撃が走った


シアが横へ跳ぶ

床が爆ぜた直後、炎が横薙ぎに迫る

シアは身を伏せて避けるが炎の上から

氷槍が降り注ぐ

――ガガガガガッ!!

前へ飛んでギリギリで躱す

石床へ無数の氷槍が突き刺さった


その直後突風によって身体が浮きかける

シアは咄嗟に鎖を氷槍へ巻き付け、身体を固定する

「使用する魔法の種類が多いな」


レオンの手が動くと空間そのものが沈んだ

石床が軋み、シアの膝が僅かに沈むが倒れない

「――ッ!」


日蝕が黒く輝いて鎖が消える

次の瞬間

先程よりも巨大な戦斧が両手に収まった

「魔法で押し返す必要はない」


巨大な戦斧を地面へ叩きつける

――ドォン!!

黒い魔力が地面を走る

その衝撃でレオンの魔力操作が僅かに乱れる


一瞬

それで十分だった

シアが踏み込む


レオンが白刃を振るうがシアは避けない

戦斧の刃を盾のように構え、正面から受ける

――ギィィィン!!

火花が散る


シアはさらに距離を詰める


レオンがさらに距離を取って戦斧の持ち手を狙う


それを見てシアは戦斧を手離した


「――なっ」


日蝕が瞬時に変化し、戦斧が短剣へ変わる

シアはレオンの腕の内側へ滑り込んだ

短剣が閃き、レオンの首を狙う


レオンが身体を捻る

黒刃が頬を裂いた

赤い血が飛ぶ

「……!」

レオンの表情から笑みが消えた

シアから距離をとる


シアは止まらず追いかける

短剣を逆手に持ち替え、喉へ突き込む

レオンは首を逸らす

黒刃が首筋を掠める


そのままレオンの手がシアの肩を掴んだ


「捕まえた」

白い魔力が爆発する

――ドゴォォォン!!


シアの身体が床へ叩きつけられ、石床が陥没する

立ち上がるが口から血が流れている

それでも構えは崩さない


レオンが白刃を構える

「まだ立つんだ」


「当然だ」

シアが血を拭う

「この程度で倒れるような鍛え方はしていない」


言い終わると同時にレオンの周囲に再び魔法陣が浮かんだ


雷


炎


氷


風


重力


五つの属性が同時に展開される


地下聖堂そのものが軋む


シアは魔法陣を一つずつ見る

「……見えた」


レオンが笑う


「何が?」


「貴様の癖だ」


シアがレオンへ駆け寄る


雷撃が放たれるが、身体を僅かに傾けて避ける


横薙ぎの炎は跳んでかわす


降り落ちる氷槍は最低限のみ弾いて駆け抜ける


突風は身を任せて飛ばされ、氷槍を足場に勢いつけて飛び込む


直後、身体が重くなるも身体強化の魔法を使って足を止めずに崩れる直前の床を蹴る


五つの魔法を抜ける


レオンの目が見開かれた


「――っ速い!」


シアとレオンの距離が近づくと日蝕が変化する


黒い大剣を両手で握り締めて振り下ろす

「受け止めろ」


レオンが白刃で受ける

――ガァァァン!!

地下聖堂全体が揺れる

レオンの膝が沈む


シアはさらに押し込む

「まだだ」

黒い魔力が膨れ上がる

「貴様の力を見せろ」


レオンの口元が歪む

「……いいね」

白い魔力が爆発的に膨張した

「なら、こっちも本気でいくよ」

衝撃波が炸裂する


シアが後方へ吹き飛び、空中で身体を捻って着地する

手にした大剣が白刃と似た形に変化する


レオンもまた距離を取り、互いに息を整える


周囲には崩壊した地下聖堂

黒冠とリセルはすでに退避していら

残された戦場に立つのは二人だけだった


シアはゆっくりと構える


レオンも同じく構える


もう言葉はいらなかった


次の瞬間

二人が同時に踏み込む


黒と白の魔力が正面から激突する

リセルの展開した旧聖堂区を覆う結界が激しく揺れ、帝都の夜空に巨大な魔力の柱が立ち昇る


帝国皇女シアと数多の世界を渡った異世界人レオンによる本気の戦いが始まった

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