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第13話 迷宮攻略③

書き途中のデータが消えたので投稿が遅れてしまいました

申し訳ありません

~灰鐘の迷宮・街の冒険者ギルド~


四人がギルドへ戻ったのは日が傾き始めた頃だった

入口には現地の黒冠が立っており、彼らの姿を認めるなり奥へ向かった。


「シア様、調査隊が帰還しました」


「……なんか結構な騒ぎになってるぅ?」

リュネが不安そうな顔になる

ギルドの様子は彼女たちが出発する前とは明らかに違っていた


入口付近には、迷宮へ向かおうとしていた冒険者たちが集まっている

受付の前には臨時の告知板が置かれ、そこには大きく『迷宮への入場を一時停止する』と記されていた


「……あれぇ? 入れなくなってる?」


「当然だろう」

ヴァルトが答えた

「俺たちが迷宮へ入った時点で、ギルドには迷宮への入場停止の指示が出ている。内部の状況が分からない以上、これ以上の遭難者を出すわけにはいかないからな」


「でも、浅い階層で採集している人たちもいたよねぇ?」


「すでに内部にいた冒険者については、入口へ戻るよう通達しているはずだ。帰還者の確認も並行して行っている」


「なるほどぉ……」

リュネは告知板を見つめる

迷宮の閉鎖は、街にとって決して軽い問題ではない

薬草や鉱石を採取する冒険者だけでなく、魔石を買い取る商人や冒険者向けに物資を販売する店にも影響が及ぶ

それでも、異常の原因が分からないまま人を送り込むよりはいい


「まずは報告だ。シア様がお待ちだ」

ヴァルトの言葉に、四人は奥の応接室へ向かった


扉を開けると、シアとリセルが机に広げられた資料を確認していた

「戻ったか、全員そこに座れ」

シアが顔を上げる


「はい、全員無事に帰還しました。しかし、迷宮内で複数の異常を確認しました」

ヴァルトは姿勢を正し、調査結果を報告し始めた

灰殻狼三体との遭遇

通常とは異なる身体の大きさ

不自然な足跡

魔物の体内から見つかった黒い筋のある魔石


リセルが報告を聞き、質問を挟んだ

「灰殻狼の体内から出てきた魔石は、三体すべてにあったの?」


「いえ、確認できたのは一体です。ほかの個体については、戦闘中に体内を調べる余裕がありませんでした」


「そう。なら、現時点では灰殻狼全体に共通する特徴なのかは分からないわね」


「はい」

ヴァルトは続けて骨の兵士について報告した

古い形式の鎧

錆びた剣

兜の奥で揺れる赤黒い光

そして、第七階層への進入を禁じるという警告

「こちらの呼びかけに対する応答はありませんでした。ただし、侵入者を認識し、明確な敵対行動を取っています」


「何体いた?」


「確認できたのは三体です。奥にさらに存在する可能性があります」


「追跡は?」


「分岐点の手前で停止しました。その後、こちらが距離を取ると、奥へ引き返しました」


シアが腕を組みながら考える

「第七階層を守る存在か……。しかし、三年前の崩落事故と関係があるかどうかは、まだ分からないな」


「そうね、現段階ではそうした仮説を立てることしかできないわ」


「それから、もう一つ報告ですぅ」

恐る恐るリュネが口を開いた

「三年前に失踪した冒険者のものと思われる遺体を見つけたんだよぉ」


室内の空気が変わった


シアが椅子から立ち上がる

「遺体を発見したのか?」


「うん。崩落した石壁の陰に横たわっていたよぉ。装備には冒険者組合の登録印らしきものが残っていた。ただ、損傷が激しくて、その場では身元を確認できなかったの」


「回収したのか?」


「私の収納に入れてあるよぉ。近くに落ちていた金属札も一緒に回収したけど、腐食がひどくて文字は読めなかったねぇ」


シアはしばらく黙ったあとギルドの責任者へ視線を向けた

「遺体の身元確認を最優先にする。医師と鑑定官を手配しろ。装備品も含めて記録を残し、三年前の登録情報と照合させるんだ」


「承知しました」


「それから、迷宮の入場停止は継続する。内部に残っている冒険者がいないか、帰還記録と照合して確認しろ。確認が済むまでは、誰も入れるな」


「かしこまりました」

ガルドが部下へ指示を飛ばすため、部屋を出ていった


リュネはその背中を見送ってからシアへ向き直った

「ねえ、シア様。あの骨の兵士たち、放っておくのは危ないと思うんだけどぉ」


「同感だ。すぐに対処するとも」


「えぇ?どうするのぉ?」


シアはリセルへ目を向けた

「リセル。お前の魔法で、迷宮内部を制圧できるか?」


「可能よ。帝国内にいる限り私の魔法は尽きないもの」


「確実にか?」


「私の『星霧』なら。霧そのものに複数の属性魔法を組み込んで内部へ行き渡らせるわ」


「複数の属性を同時に?」


「ええ。それぞれの性質を分けて、対象や地形に応じて作用させるわ」


リュネが目を丸くした

「えぇ……。そんなことできるのぉ?」


「リセルができると言ってるならできる」

シアが淡々と答えた

「よし。まずは内部の人員確認だ。リセルは『星霧』の展開準備を進めてくれ。発動の判断は迷宮内部の確認が終わってから行う」


「分かったわ」


シアは迷宮の地図を見下ろした


「今日で迷宮内を制圧する。危険を取り除き迷宮内部の状況を把握するための制圧作戦だ。魔物も骨の兵士も全て排除する」


その言葉にリュネは小さく息を呑んだ

先ほどまで、四人でどうにか撤退した相手だ

それを、リセルは迷宮の外からまとめて倒すつもりらしい

「……リセルさんって、そんなことまでできるんだねぇ」


「できることと、やっていいことは別よ」

「だから、力の使い方を間違えてはいけないの」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

灰鐘の迷宮・入口・翌日


迷宮の入口には黒冠達が配置されていた

冒険者ギルドの職員も立ち会い、入場停止の告知を改めて掲示している

入口付近には、迷宮へ入れなくなった冒険者たちが集まっていた


「いつまで閉鎖するつもりだ!」


「こっちは仕事なんだぞ!」


「昨日から採集に行けていないんだ。補償はどうなる!」

不満の声が飛び交う


ガルドはそれらを受け止めながら、ひとりずつ説明していた

「現在、迷宮内部で通常とは異なる魔物と、危険な存在が確認されています。原因が分かるまでは、入場を許可できません」


「だったら、討伐隊を入れればいいだろう!」


「すでに調査と対処を進めています。皆さんの安全を確認でき次第、改めて告知します」


そこへ、シアとリセルが姿を現した。

騒がしかった入口が、徐々に静まっていく


シアが民衆に声をかける

「迷宮内部で異常が確認されたため、現在、入場を停止している。これは一時的な措置だが、安全が確認されるまでは解除しない」


「殿下、いつまで待てばいいのですか!」

冒険者のひとりが声を上げる


シアは正面から答えた

「近日中、早ければ今日中に事態は収束させる予定だ。しかし、内部の確認と危険の除去を行った結果次第で最終判断をする。皆の生活への影響があることは承知している。だからこそ、原因を確かめずに再開するようなことはしない」


冒険者たちは互いに顔を見合わせた

すべての者が納得したわけではない

それでも、帝国が本格的な対処に乗り出していることは伝わったようだった


シアはガルドへ向き直った

「内部に残っている冒険者の確認は?」


「完了しました。入場記録と帰還記録を照合し、昨日までに入った冒険者は全員帰還したことを確認しています。未帰還者については、三年前の失踪者を除き、新たな該当者はいません」


「よし」

シアはリセルへ頷いた

「始めてくれ」


「ええ」

リセルは迷宮の入口から少し距離を取り静かに目を閉じた

両手を広げ、杖を掲げる

彼女の周囲に紫色の淡い光が灯った

最初は、指先ほどの小さな光だった

それがひとつ、またひとつと増えていく


青白い光


淡い緑の光


赤みを帯びた光


夜空の星を思わせる銀色の光


光の粒は互いに結びつき、やがて薄い霧となってリセルの足元へ広がった


「……『星霧』」

囁くような声とともに、霧が動き始めた

地面を這うように進み、迷宮の入口へ流れ込んでいく


「うわぁ……」

リュネは星霧(それ)にこめられた魔力量に思わず声を漏らした


《星霧》

ただ視界を覆うだけの霧ではない

触れたものの魔力を捉え、空間の形を読み取り術者の意志を遠方へ運ぶための魔法

霧は分岐路を越え、階段を下り、崩落した通路の隙間にまで入り込んでいった

やがて、リセルの周囲に幾つもの魔法陣が浮かび上がる


炎・水・風・土・雷・光


それぞれ異なる属性の魔力が、星霧を介して迷宮の内部へと伝わっていく


「――展開」


その一言を合図に、迷宮の各所で魔法が炸裂した


炎が灰殻狼を呑み込む

奔流が通路を駆け抜け、魔物を壁へと叩きつける

風の刃が群れを切り裂き、岩槍が逃げ道を塞ぐ

雷光が骸骨兵士の鎧を貫き、光の奔流がその身に宿る魔力を焼き尽くす


敵が反応するよりも早く

逃げ道を見つけるよりも早く

反撃のために武器を構えるよりも早く

星霧が届いた場所から、敵の反応が次々と消えていった


骸骨兵士たちも例外ではない

古びた鎧が砕け、剣が床へ落ちる

青白い火を灯していた眼窩が消え、骨の身体が音を立てて崩れ落ちた

あれほど頑なに第七階層への侵入を拒んだ兵士たちも、星霧の前では一体の例外もなく沈黙していく


――ただし


リセルの眉が、わずかに動いた

「……おかしいわね」

迷宮の大半は、すでに把握できていた

通路の形状

魔物の位置

残存する魔力反応

そのどれもが、星霧を通じて明瞭に伝わってくる


だが、第七階層のさらに奥

そこだけは違った

星霧は届いている

空間の輪郭を捉えることもできている

それなのに、肝心の魔法だけが届かない


炎を放てば、途中で掻き消える

雷を走らせれば、見えない壁に阻まれたように途切れる

光を送り込んでも、その先へ進もうとしない

まるで、何かが星霧の働きそのものを拒絶しているかのようだった


「リセル?」

異変に気づいたシアが声をかける


「ほかの階層は制圧できてる。でも、第七階層の奥に一か所だけ、魔法が通らない場所がある」


「通らない?」


「ええ。空間は把握できているのに、そこへ向けた魔法だけが消されるの。単純な結界とは違う。こっちの魔力を押し返しているというより……」

リセルは言葉を切った


「ここから先は私が行く」

シアはそう言い残し、迷宮の入口へ向かって歩き出した。


「待って。ひとりで行くつもり?」

リセルの声が背中に届く


「ああ。場所はわかったなら、私が確かめるのが一番早い」


「でも、第七階層までは――」


「すぐに戻る」

最後まで聞かずシアは入口の境界線を越えた


次の瞬間、姿が消えた

正確には消えたようにしか見えなかった

入口にいたギルド職員が瞬きをしたときには、シアはすでに最初の曲がり角を抜けていた

床を蹴る音が一度だけ響き、壁に掛けられた古い灯具が遅れて揺れる


迷宮の地図は、すでに頭の中に入っている

斥候隊の報告から通路の崩落箇所と分岐を把握し、星霧が検知した魔力反応から

敵が残っていないことも確認できていた

迷う必要も足を止める理由もない

最初の階段へ差しかかると、シアは減速せずに踏み切る位置をわずかに奥へずらした

身体を斜めに傾け、階段駆け落ちる

最後の数段を飛び越えて膝を柔らかく沈めて衝撃を逃がすと、床を蹴る動作へそのままつなげた


着地から再加速まで、一呼吸もない

分岐路では足を止めず、壁の傷と床に刻まれた目印を一瞥しただけで進路を決める

次の階層へ続く通路に崩れた石材が散らばっていたが、シアは歩幅を細かく調整して踏める場所だけを選んで駆け抜ける

低い瓦礫を蹴り、高い石塊の縁へ片足を掛けてその反動で次の足場へ移る

身体が空中にある時間を最小限に抑え、速度を殺さずに障害物を越えていった


シアは腰を落とし、曲がり角の直前で片足を踏み込み、身体を壁際へ寄せて鋭く旋回する

靴底が石床を擦り、乾いた音が短く尾を引いた

曲がり切った時点で、次の直線を走り始めている

次の階層へ続く縦穴では、崩れた階段の先が完全に途切れていた


通常なら、残った足場を慎重に伝い、下りる手段を探す場所だ

シアは縦穴の縁を蹴った

身体が宙へ躍る

落下しながら壁の突起へ片足を掛け、角度を変える

反対側の壁へ移り、そこをもう一度蹴る

落下の勢いを横方向への移動に変えながら、縦穴を一気に降りていった

最後は、下層へ突き出した岩棚を蹴って着地

石床に亀裂が走る寸前、シアはすでに次の通路へ踏み出していた


息は乱れていない

呼吸を整えるための時間すら、必要なかった

五分も経たないうちに、彼女は第四階層の奥へ到達していた


普通の冒険者なら、ここまで来るだけでも周囲を警戒し、罠を確認し、階段を探す時間が必要になる

だが、いまの迷宮には動く魔物がいない

リセルの『星霧』が敵対反応を一掃したことで、シアは警戒に割く時間を大幅に削ることができていた

それでも、速度を維持するのは容易ではない

通路の傾斜

石床の摩耗

天井から突き出した岩

階段の段差

それらを一つでも見誤れば、足を取られて勢いを失う

シアはそれらを、目に入った瞬間に処理していた

足を置く場所を決める

次の一歩の距離を測る

身体の傾きを調整する

着地の衝撃を逃がし、その力を次の一歩へつなげる


第五階層へ下りる長い螺旋階段では、壁を蹴って身体を内側へ滑らせた

踊り場を一段飛ばしで抜け、手すりを掴んで急旋回

階段の終端へ着くころには、再び全速力に戻っていた


壁に残る紋様が変わり、石材の継ぎ目には黒ずんだ筋が走っている

足元には砕けた骨と鎧の破片が散乱していた

シアはそれらを踏み越えながら、一瞬だけ視線を落とした

骸骨兵士の残骸

星霧によって破壊されたものだろう

停止した敵の数を数えることはしない

いま必要なのは、異常の中心へ到達することだ

最後の数段を飛び越え、着地と同時に床を蹴る


通路が続いているが、そこから先だけ魔法の流れが不自然に途切れていた

シアはようやく足を止めた

入口からここまで、彼女は一度も立ち止まっていない

息を整えることもなく、壁に手をついて身体を支えることもない


ただ、目の前にある異常を見据えた

星霧の届かない空間

その中央に、何かがある

シアは剣の柄に手を添え、最後の通路へ足を踏み入れた

その先にあったのは、異様に天井の高い石造りの広間だった

床には幾重もの円環が刻まれ、壁面には読み取れない古代文字が並んでいる

そして、広間の中央には黒ずんだ金属で作られた鐘が台座の上に据えられていた


シアはその場で足を止めた

星霧が阻まれた理由は、これだ

鐘の表面を走る黒い筋が、音もなく明滅している

シアは剣の柄から手を離さなかった


「……魔法阻んでいるのはこいつか」

シアは鐘を見据えたまま、静かに息を吐き、一歩鐘へ近づいた

その瞬間、鐘の内側に嫌な気配を感じる

鐘表面の黒い筋が先ほどよりも強く明滅する

音のない鐘が、まるでシアの到来を待っていたかのように静かに応えた


「…………面倒だな」

シアは徐に木剣を構え、力を込めてぶん殴った

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