第88話 森の香り
長い移動だったけど、ようやくサクラの家の別荘に辿り着いた。
馬車の外に出て伸びをする。
あぁ、森とか山の香りがする。
今は厩舎のある裏手にいるんだけど、表には泉もあるらしい。
井戸もある。
みんなで表に移動する。
おお。
思ったよりも広いぞ。
お屋敷で想像するレベルの広さだ。
てか、ログハウスってこんなに広く作れるんだね。
使用人さんたちは先に屋敷に入っていった。
屋敷の手入れ・維持はちゃんとやってあったらしいけど、ベッドメイク等をきちんとしておくためだ。
掃除の確認とかもやるんだとか。
ついて早々に大変だなぁ。
僕たちは待ってる間暇なので、敷地内を散策することにした。
お?
あれはこごみじゃないか?
こごみって本当はなんて名前の植物だっけ?
春の若芽は美味しいんだよね。
山菜とは思えないくらいえぐみがなくて、さわやかな香りにシャキシャキ食感と少しのぬめりがあって、茹でてマヨとかてんぷらとか美味しいんだよね。
ただ、夏である今は食用はできないんだよね。残念。
キノコとかも色々生えてるけど、どれが食用に向くのとか僕にはさっぱりだ。
他にも僕が知らない野草がたくさんあった。
一通り散策して戻ってくると、掃除を終えた使用人さんたちが出迎えてくれた。
メリアと並んで最後尾の僕はみんなの後をついていく。
使用人さんたちの間を通る時はペコペコと頭を下げながら。
そんな僕を見てアルソとレッタが苦笑する。
仕方ないじゃないか。
それに僕は平民なんだからいいのよ。
さて、中はやはり広く、正面には広い階段。そして吹き抜けになっている。
部屋割りはすでに決めてある。
使用人さんたちが荷物を運んでる間に僕らは居間に移動する。
メリアは自分で荷物を持って自室に直行した。
疲れたんだろうね。お疲れ様。
「みんなお疲れ様。慣れない長旅だったから疲れたでしょう。幸いなことにサクラが素敵な別荘を提供してくれたので、甘えてくつろがせていただきましょう。ありがとう。サクラ」
芽結がみんなの労をねぎらい、サクラに頭を下げる。
僕らも頭を下げる。
サクラは恐縮しきりの様子。
「では、夕食まで自由時間に致しましょう。夕食はまたここに集まりましょう」
ここは居間って表現したけど、日本の居間とはやっぱり違う。
今はみんなで長テーブルを挟んで席についている形だ。
いつもとは違って人と人との距離が無駄に広すぎるってわけでもなく、元日本人としてはちょうどいい距離感だ。
「今日はこの国の作法とはあまり合わない料理を用意してもらいますが、作法など気にせずに珍しい料理を楽しんでくださいね」
芽結は一体何を用意するつもりなんだろう。
「部屋には着替えが用意してありますから、ガウン代わりに着てください。着方がわからない人はわたくしのところにいらっしゃい」
まさか浴衣用意したの!?
この如何にも洋風な建物で?
……合わないってこともない……か?
芽結は着付けはできないはずだから、お着物ではないと思うんだよね。
しかし貴族の令嬢に浴衣は大丈夫なんだろうか?
まあ、涼しいし、僕が心配することでもないし、いっか。
それに浴衣って決まったわけでもないし。
「では解散!」
芽結の号令で僕たちは散った。
夕飯は何かなー?
芽結が指示するってことは地球でおなじみの料理かなー?
僕は期待に胸を膨らませて部屋に戻った。




