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異世界魔法、観察してみたら  作者: 猫チュー
第二章 学園編
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第74話 省みない者

 鎧戸が締められ、暗くなっている部屋の中。


「くそっ!くそっ!ちくしょう!あいつ!あいつ!あ゛あ゛あ゛ああああ!!むかつく!むかつくううう!死ね!死ねえええ!!!!!」


 今日も彼――ドゥームは寮の枕にナイフを突き立てる。

 先日枕をズタボロにしてこってり絞られたことはすでに彼の頭にはない。

 なんなら先日よりも激しくナイフを突き立てている。


 しかし、彼の体力ではそう長くは呼吸が続かなかった。


「ハァ……ッ、ハァ……」


 少しだけ手が疲労で震える。

 それすらも彼の憎悪を増幅させた。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!」


 言語にならない雄たけびを上げ、彼はナイフの突き立てを再開する。

 

 彼は己のプライドを深く、深く、深ーーく傷つけられた。

 彼の家は男爵家だ。

 貴族の中では最低位。

 クラスメイトには男爵家の子は多いが、彼の家は先日立場を悪くしたばかりだった。

 

 更に彼には貴族としての矜持はなく、当然意欲もない。

 結果、成績は下の下。

 剣術も下の下。

 貴族の学園であるため、順位が張り出されたりはしないが、彼が落ちこぼれなのは誰もが知っていた。


 そんな彼だから、持ち合わせているのはプライドのみだった。

 ターツ青年のようにプライドを貴族としての矜持まで昇華させられていれば違っていただろうが……。


「レイ!レイ!レイ!レイ!!レエエエエエエエエエエエエエエイ!!!!!!」


 突き刺すだけでは足らなくなった彼は、今度はナイフを横に振り出した。

 枕をレイに見立てて切り刻むと、少しだけ溜飲が下がった。


「ふひっ!フヒッ!」


 更に切りつける。

 

「お前なんか!お前なんか僕にかかればこうだ!こうだ!死ね!」


 魔法使いはひ弱で魔法の発動も遅い。

 近距離での一対一なら剣が有利だと言われている。

 だから彼は勘違いをする。

 自分が勝つ側だと。

 自らの実力も知らず、自らを省みず、自らを律せず、自ら動かない。

 しかしそれすら、自らを顧みない彼には知り得ないことだった。

 自分が正しくて勝つ。

 根拠もないが、それを迷いなく信じていた。


「弱い!弱い!弱い!弱い!弱ーい!」


 なんだか嬉しくなり、調子に乗ってナイフを大振りしていたら、ベッドの木材の部分に刺さって抜けなくなった。


「くそっ!お前も!お前も僕をばかにするのか!」


 今度は木材の部分を切り刻み始める。

 彼はすっかり忘れていた。

 前回枕をズタボロにした時、なぜ絞られたのかを。

 つまり、――この学園の資金はどこから来ているのかを。

 

 否、忘れていたわけではなかった。

 聞いていなかったのだ。

 (なんで僕がこんな目に合わなければならないんだ。それもこれも全部あいつのせいだ。あいつさえいなくなれば僕がこんな目に合うこともないんだ)と、こんな調子だった。


 省みない彼は、いまだに気づかないままだった……。

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