第73話 貴族の矜持 -side Tartz-
俺はターツ。
ユニオ侯爵家の長男だ。
貴族として生まれてきたことを誇りに思っているし、貴族として恥じない生き方をしたいと常に考えている。
最近転入してきた奴は王家に取り入ろうとしているように見える。
どううまくやったかは分からないが、陛下の信も厚いようだ。
貴族の世界はそのようなものではあるが、俺はそういうやり方は好かない。
父上も、おじい様も、代々の家を清く正しく守ってきた。
偉大なる王家に仕え、民を豊かにしてこそ貴族だ。
そんな家に生まれたからこそ、自分が貴族として生まれたことを誇りに思えるのかもしれない。
だから俺は開始早々に奴を吊るし上げようとした。
だが、まさかの事態になった。
姫殿下が彼を庇うような言動をなされたのだ。
そんな馬鹿な!?
姫殿下すらも取り込んだというのか?
奴は俺に対してはヘラヘラ笑いかけてくる。
フン。
そんなもので俺は騙されんぞ。
とりあえず無視することにした。
奴はすぐに女子たちと意気投合したようだ。
人たらしなのだろうか?
それとも何か理由が?
もし。もしも俺の心配が杞憂で、ただの良い奴だった場合は?
その時は謝罪をしよう。
しかし、その心根を見極めるまでは油断せず監視していようと思う。
そろそろ夏の休暇が始まるといった頃。
俺はものすごく不愉快な場面に遭遇した。
「おい、泣いてんじゃねえよ」
「こいつだっせー」
「弱い癖に反抗的な目ぇするからだよ」
「あー臭え臭え」
いじめというやつだ。
自分の立場に胡坐をかき、そして自らの品位を貶める、唾棄すべき存在だ。
まさかうちの学級でこんなことが行われているとは思わなかった。
俺の視線に気が付いたのか、一人が声をかけてきた。
「ユニオさんも混ざりますか?こいつの父親、陛下の怒りを買った大馬鹿者ですよ」
確かにその話は聞いたが、それでいじめをしていれば、それはその父親と同じように陛下の怒りを買うだろう。
何より貴族として、男として恥ずかしい。
「俺はそういうのは好かん。お前らもあまりみっともない真似をするな」
助けてやってもいいんだが、こういうのは自ら立ち上がらないとダメだ。
助けを求めるにしろ、反旗を翻すにしろ、その者の意志が大事になる。
それに彼、ドゥームの誇りを傷つけることにもなりかねない。
だから俺は釘だけ刺して立ち去ることにした。
「やめ、やめてください」
未だドゥームの悲鳴が聞こえる。
ああ、胸くそが悪い。
いじめ現場の踊り場が見えなくなりそうな位置に来た時、奴が現れた。
「やめろ!何をしているんだ!」
助けるのか。
しかし、それは彼のためにはならない。
「はあ?新参者のくせに意見するわけ?」
「男の魔法使い如きが俺らに敵うと思ってんの?」
男の!?
そうか、奴が例の雷の魔法使いか。
それで陛下からの信頼があるのか。
いや、それよりも俺が疑心に駆られ過ぎたか。
少し考えればわかりそうなものを、なぜ気づかなかったのか。
己の間抜けさに辟易する。
そうしている間にも、いじめをしていた者たちが魔力を体内に巡らせる。
校内で何をやっているんだ。馬鹿者どもが。問題になるぞ。
くっ。
さすがに止めるか。
――しかし。
「風の結界?」
奴――レイは風の結界を張っていた。
発動が早い。
俺の出る幕はないか。
「っ。この程度!」
しかし、彼らはレイには近づけない。
「くそっ!」
見事なものだ。
男としてのハンデを感じさせない魔法だ。
「チッ。もういいわ。白けた」
そう言って彼らは帰っていった。
「大丈夫?立てる?」
そう言ってレイは手を差し伸べる。
だがしかし、ドゥームはレイの手を払いのけた。
それに、その前にものすごい憎悪のこもった目でレイを見ていた。
レイはそれに気づかなかったようだが……。
やはり彼の誇りを傷つけてしまったか。
最後の方は完全に逆恨みだったが。
ドゥームが去っていったので、俺はレイに話しかけることにした。
レイの心持ちは少しわかった気がする。
「なぜ助けた?」
「助けるのに理由が要りますか?」
なるほど、こういう奴か。
「そうだな。理由は要らない。だが、そのせいで彼の誇りは傷ついた。我らは貴族だ。次は気を付けるといい」
俺が忠告すると、レイは驚いた表情をした。
「そんな風に忠告していただけるとは思いませんでした」
「俺もお前が助けに入るなぞ、思いもしていなかった」
だが――
「完全に信用したわけではないが、お前のことは多少分かった。いきなり吊るし上げようとしてすまなかった」
俺は腰を折った。
「い、いえ。頭をお上げください!」
「ただし、お前がもし国に、王家に叛意を見せた場合は覚悟しておけ」
俺がそう言うと、レイは真剣なまなざしで俺の目を見て頷いた。
そうか、やはり俺の杞憂だったか。
俺も人を見る目がないということか。
そういう目も、もっと磨かないとな。




