第64話 向けられる視線
午前の授業が終わり、一段落。
薬学は今日のところは、師匠の元で習ったこと以上の内容ではなかった。
まぁ、仕方ないね。
というわけでお昼である。
ここの学園は貴族子息・子女が通うだけあって学食も豪華らしい。
色々不安な学生生活だけど、これは楽しみだなー。
本当は芽結と一緒に食べたいけど、あんまりベタベタしすぎるのもどうなんだろう?
よく思わない人もいるだろうし。
そう思った僕は一人で学食に向か……おうとしたところでふと自分に向けられる視線に気づいた。
そちらをチラ見する。
他のクラスメイトは大半がすでに移動中だ。
だけど、視線の主は未だ一人で席に座っていた。
僕と視線が合ってもまだこちらを見ている。
……というより睨んでる?
特に接点はないはずだけど、なんだろう?
僕は日本人的なお辞儀をぺこりとして食堂に向かった。
食堂に着いたけどこれは……。
なんだこの広さ。
貴族の家の子が在籍しているとはいえ、ちょっと広すぎじゃないか?
そもそも、1学年の人数は35人2クラス分しかない。
15歳で入学、5年で卒業なことを考えても70×5で全校生徒350人前後だ。
それプラス教師だとしても広すぎる気がする。
逆に不便じゃね?
僕がそんなことを考えてる間にどんどん席が埋まっていく。
やばい。
ボッチ飯するのによさそうな場所ちゃんと確保したかったけどもうなさそう。
てか僕以外にもボッチ飯する人それなりにいるのね。
貴族の家の子だとしても、社会性を少しでも身に着けさせるためなのか、食事は自分で運ぶスタイルらしい。
椅子に座ったら勝手に出てくるタイプだったら緊張して食事どころじゃないだろうし、助かった。
でも、食事の量とかもすごいし、それに合わせてトレーで運ぶのではなく、みんなワゴンで運んでる。
自分の食事運ぶのにワゴン使うって見たことも聞いたこともねーよ。
でもそうか、この広さはワゴンで運ぶ都合もあるのかもね。
そんなわけでワゴンを受け取り、食事ももらいに行く。
何やら呪文のようなお品書きの説明を受ける。
なんだこれ……。
あーでも、こうやって説明されるのは、食材の味を覚えるのにはいいのかも。
ボッチ席は空いてないので他に人がいなさそうなテーブルに着く。
てかテーブルもやたら広いよ。
グループになって食べてる人がほとんどだけど、少し距離ができちゃうよね。
まぁ、とにかく今はごはんだごはん!
手を合わせて小さくつぶやく。
「いただきまー」
「こちら、よろしいでしょうか?」
え?
思わず横を見るとそこには三人のお嬢様方。
ローンと一緒のグループだったシノカ、クイザ、カホクだ。
全く知らない人が来たんじゃなくて良かった。
もしかして僕に気を使ってくれたのかな?
……そんなわけないか。
「ああ、僕の隣なんかで良ければいくらでもどうぞ」
おどけてそう言うとクイザにクスクスと笑われた。
おお、お嬢様っぽい。
「そんなにへりくだらなくても結構ですのに」
そう言いつつ三人は慣れた手つきで食事を並べていく。
「ここの学食って自分で配膳するスタイルなんですねー」
「すたいる……が何かはわかりませんが、そうですね」
「私はなんでもいいわ!」
「この方が効率的だから賛成だわ」
僕の疑問にクイザ、シノカ、カホクの順で答えてくれる。
「僕は配膳なんてしてもらっちゃったら緊張しちゃうので助かりますね」
そう言った僕に、クイザはクスクス笑う。
「なんですか?それ」
笑ってもらえたなら何よりだ。
ウケ狙いじゃなくて本心だけれども。
さて、改めていただきますをしよう。
「いただきます!」
この際だから「いただきます教」の布教をしよう。
両手を合わせていただきますをすると、狙い通りシノカが食いついた。
「それ、何?」
「これは僕の故郷の風習で、美味しく食べますよーっていただく命に感謝をする儀式ですよ」
「へえ!いいじゃない!私もやるわ!」
「わたくしもやろうかしら?」
「非効率的……だけど、いい風習ね。真似させてもらうわ」
三名様、入信でーす。
くっくっく……。
このまま世界征服まで目指そうではないか。
「そういえばメイ様もやっていましたわね」
さすが芽結。抜かりないようだ。
そう思いながら僕はスープを口に運んだ。
その後も僕らは学友らしく、談笑しながら昼食を取ったのだった。




