第一章幕間三 ガーライト
パチパチと暖炉の火がはじける音がする。
エナグスは御者のおっちゃん、それと村長と一緒に馬車を停めに行っている。
今回使ったポーションなら、おそらく明日にはかなり良くなってるはずだ。……たぶん。
女の子の母親は黙ったままだ。
僕も気まずい。
容体が急変した時用に付き添っているけど、今やれることはないんだよなぁ。
と、
「ただいま戻りました」
エナグス達が戻ってきた。
御者のおじさんは青い顔をしている。
母親は怒るのかもしれないけど、僕は怒るつもりはないんだけどなぁ。
緊急事態だから大声は出したけど。
「あの時は大声をあげてしまって申し訳ございませんでした。緊急時ゆえ、ご容赦いただきたく」
「ああ、いえっ。滅相もございませんっ!」
この人も普段はお貴族様の御者をしているのだろうし、人を跳ねて止まったら怒られた経験があったのかもしれない。
貴族の権力って怖いよね。
「でも、こちらの方には謝った方がいいかもですね」
そう言って母親の方を見る。
「すみませんでした!」
わあ。
すごい勢いで頭を下げた。
「わ、私は特には……」
母親はそう濁しながらこちらをチラチラ。
「本当にただの一般人なので、僕の事は気にしないでください」
「は、はい」
何か違う話題振ってみるか。
「そういえば、旅人とお見受けしますが、どちらまで?」
「ここの東の村に、死んだ主人の実家と墓があるので、お墓参りに来ていました。今はブイニシャに戻るところです」
藪蛇だった。
「すみません。野暮なことを聞いてしまいましたね」
母親はフルフルと首を振った。
ご主人が亡くなっているのに、子供まで……なんてならなくてよかった。
重症だからよくはないんだけどさ。
あ、そうだ。
「この方たちを一緒の馬車に乗せていくのってできますかね?」
と、エナグスに小声で聞くと、彼は少し考えて、
「……一応、国所有の馬車ですし、厳しいかもしれません。少なくとも、私の判断で許可が出せる案件ではありませんね」
と小声で返してきた。
そっか。
移動しながら経過も見れていいかなと思ったんだけどな。
ちょうどその時、女の子が目を覚ました。
「この指、何本かわかる?」
「……いっぽん」
意識はちゃんとしてそうだ。
「気持ち悪いとか、頭が痛いとか、そういうのある?」
「おむねがちょっといたい」
「ちょっと?すごくじゃない?」
うん。とのこと。
そんな即効性や鎮痛効果はないはずなんだけどなぁ。
子供だから効き目が強いのか?
いや、でも小動物に使った時の効果を目安にしているしなぁ。
どっちにしろ元気があるわけではなさそうなので、安静にしてもらう。
こんなに小さな子には酷かもしれないけど。
そうして二日後。
女の子は走り回れるくらいに回復した。
心配した副作用もないみたいだ。
そして、僕は何故か懐かれていた。
「おにーちゃん!」
僕の足に抱きつく女の子。
にへへへっと笑う。
かわいいなぁ。
でも、いつまでもこうしているわけにもいかない。
折角タキンチ村を早めに出てきたのに、想定外の足止めを食らってしまった。
まぁ、どうしても急がなければならないわけではないんだけど。
村長にはお世話になったお礼を物質的にして、出発することにした。
母親には一応予備のポーションを渡してある。
効き目が強い試作品ではない方だ。
てか、試作品はあれで使い切ってもうない。
どうしても必要なら、作るか師匠の元に戻るかの二択だけど、直近で必要なわけでもないしね。
「おにいちゃんいっちゃうの?」
別れを惜しんでくれる女の子に目線を合わせる。
「今度は走り回るにしても、周りをよく見て気を付けるんだよ。あ、そうだ」
僕は自分のローブに取り付けてあるガーライトのタリスマンを外す。
師匠が僕の旅の安全を願って用意してくれたものだ。
師匠の刻印も入ってる一品ものだ。
「この石はね、お守りなんだ。君が元気でブイニシャに帰れるように、あげるね」
一瞬だけ、師匠の顔が浮かんだ。
いいよね?師匠。
「お礼をいいなさい」
「ありがとう!おにいちゃん」
滞在した3日間の間にお世話になった人たちに別れを告げる。
馬車のステップを踏んで乗り込もうとした時、担架代わりの木の板を持ってきてくれたごつい男が視界の端に映った。
目礼をすると彼は、ニッと笑って去っていった。
なにあれ。格好いい。
「おにいちゃん!またあおうねー!」
女の子が手を振って見送ってくれる。
本当に懐かれたなぁ。
「また会おうね!」
僕も手を振って応えた。
「彼女たちが無事に帰れるといいですねぇ」
エナグスの言葉にうなずく。
僕たちはケミ村を後にした。
ガーライトは第1話で出てきた宝石です。




