第一章幕間二 運命の分岐点
旅立って翌々日。
スリリース領南西のケミ村を通っているときだ。
ドンッ。
軽い衝撃と音が響いた。
なんだ?
御者台との間の窓を開ける。
「何がありました?」
「ヘイ。ご迷惑をおかけして申し訳ございません。平民のガキが飛び出してきやがりました。安心してく……」
「今すぐ止めろ!!!!!!」
僕は大声で叫ぶと、
「エナグス!ついてきてください!」
エナグスを連れて馬車を飛び出した。
あれか。
すでに人だかりができている。
様子を見たいけど、僕より軍属のエナグスの方が、けがとかには詳しいはずだ。
「少し、どいてください」
人を押しのけ、移動する。
母親らしき女に抱きかかえられた女の子がいる。
女の子は泣き叫んだりせず、ぐったりしていた。
「エナグス!」
「失礼。少し見させてください」
そうしてエナグスが触診をしていく。
難しい顔をしたエナグスがこちらを向く。
「命に別状はなさそうです。が、肋骨がおそらく二本、折れています。それと、額に外傷があります。頭を打った可能性がありますね」
骨折と外傷と脳震盪か。
この世界のポーションは、よくあるファンタジーのような効果はない。
あくまで自然治癒を手助けするくらいの効果のみだ。
ただ、師匠の元で修業を積んでいた時期に、従来のポーションより少しだけでも効果の高いポーションを作れないか試していた時期がある。
師匠と二人で開発したポーションは、確かに従来品より質が良かった。
でも、あれを使うのか?まだ人には使ったことがないんだぞ?
チラッと女の子を見る。
迷っている段階じゃないか。
くそっ。どこかで自分で試しておけばよかった。
いや、過去の自分を呪う暇があったら行動しろ!愚図な僕め!
「この子の母君ですか?すみません、ポーションを使いたいと思います。従来品より効果は高いですが、副作用が出るかもしれません。使用してもよろしいですか?」
矢継ぎ早に言ったけど、彼女は全てに「はい」と返事をした。
ちょっと強引な流れだけど今はいいだろう。
僕は例のポーションを取り出し、女の子の口元に寄せる。
気絶しているけど飲めるのか?
ゆっくり、少しずつ飲ませよう。
コクッ。コクッ。コクッ。
よし、ちゃんと喉は動いている。
ポーションは空になったけど、効果はまだ出ない。
ああ!もどかしい!
僕は女の子の口元をハンカチで拭きつつ、
「そこの方とそこの方。申し訳ございませんが村長を呼んできてもらえませんか?」
二人指名して指示を出す。
「誰か」とお願いすると人はなかなか動かない。
こういう時は指名してしまう方がいい。
ただ、指名できない時もある。
「どなたか、横幅のある木の板を用意できる方はいらっしゃいませんか?この子が寝られるくらいの大きさです」
「用意しよう」
あまり期待はしていなかったけど、腕を組んで成り行きを見守っていたごつい男が名乗り出てくれた。ありがたい。
「エナグスは、馬車からブランケットを持ってきてください」
ここでようやく僕は母親に頭を下げた。
「うちの馬車がこの子を跳ねてしまい、大変申し訳ございませんでした」
「いえ、お貴族様にご迷惑をおかけし、大変申し訳……どうか、この子だけはどうか……」
なんかすごい勘違いされてる気がする。
「僕は貴族ではありませんし、ご迷惑をおかけしたのはこちらです。本当に申し訳ございませんでした」
そう謝罪すると、母親はあからさまにホッとした表情をした。
エナグスが戻ってきたのと村長が来たのは同時だった。
「お初にお目にかかります、お貴族様。私はこの村の村長です」
いかにも村長やってますって感じの50代くらいの男がやってきた。
「僕は貴族ではありません。タキンチ村の魔法使い、レイと言います」
村長にそう返し、
「トラブルを起こしてしまい、申し訳ございません。更に厚かましくもこんなお願いをするのは心苦しいのですが……」
「どうぞお気になさらず」
ありがたい。
「1~2日、この村に滞在させていただけないでしょうか?それと、この子を安静にさせたいので、それができる場所を抑えたいのですが」
村長は女の子をチラッと見た後、
「かしこまりました。我が家の応接の間をお使いください」
そう言ってくれた。
母親の格好を見た感じ、旅人っぽかったんだよね。
それが村長の視線でほぼ確信に変わった。
ああ、そうだ。
僕はすすっと村長に近づき、
「あそこにある馬車ですが、王国のものです。あの馬車に何かあれば僕もあなたも責任はとれませんので、くれぐれも人が近づかないようにしてください。馬車は村の外に置いておきます」
「いえ、それならば村の中の方が安全でしょう。そちらも承ります」
本当に助かる。
「感謝いたします」
僕は腰を90度に折った。
そこにごつい男が木の板を持って戻ってきた。
「これでいいか?」
ちょうどいい大きさだ。
「感謝します。お代はこれくらいでどうですか?」
そう言ってお金を渡そうとすると、
「いらん」
そう突っぱねられた。
僕は再び腰を折った。
木の板に毛布を敷く。
「では彼女をこの毛布の上に移動させます。あまり動かさないように慎重にやりましょう。3・2・1・ハイ」
女の子を簡易担架に移動させる。
「では、ご案内しましょう」
僕らは村長の案内についていった。
思ったより文字数が進んじゃうので一旦切ります。
本当はもっと物語が進むはずだったのに……。




