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第54話 消し去りたい記憶

「さて、他に報告は?」


 宰相がスルラに聞く。


「ございません」


 わかってはいたけど、スルラは内緒にしてくれるらしい。

 まぁ王様とか、宰相にはすぐに話すことになりそうだけど。


「では、次に……」


「待て」


 宰相が話を次に進めようとしたのを、王様が止めた。


「タキンチ村のレイ。そなたの魔法と存在を、国の抑止力として利用したい。構わぬな?」


 僕は片膝をついたまま、頭を下げ、返事をした。


「ハッ!仰せのままに」


 ついにハッ!をする時がきたわ。ハッ。


「感謝する」


 王様はそう言い、宰相に目配せ。


「では次に、ラーンクへの対応ですが、何か意見のある者はいますか?」


 ラーンクか。

 あの国がやったのが確定したわけじゃないけど、状況証拠としては十分だよね。

 しかし薬物に宣戦布告無しの奇襲かぁ。

 この世界の決まりごとには全然詳しくないけど、強く禁止されている行為なのは間違いないようだし、他の周辺国からの立場、悪くならないのかな?

 

 ん?あれ?

 てか、これ、僕がここで聞いてていい話なの?

 村を出てからというもの、巻き込まれ体質になっていませんか?


「各国に文を送り、糾弾するための署名を集めるのが良いかと」


 魔法の実演の時に一緒に来ていた白い毛髪に白いカイゼル髭、厳しい表情をずっとしている上級貴族の一人がそう意見を述べた。

 日本にいる時はよく『遺憾砲』とかニュースで見たけど、こっちではあれほどスピーディーにはやれないよなぁ。


「他に意見は?」


「あのぉー」


 僕は場違いな声を出しつつ、そろりと手を上げていた。


「レイ殿か。発言を許可します」


 宰相が許可を出してくれたので遠慮なく言わせていただこう。


「糾弾すると同時に、セテラム返還の要求と、今後数十年、セテラムへの不可侵条約を結ばせるのは、あの、いかがでしょう?」


 最初は勇んで意見を言おうとしてたんだけど、どんどん尻つぼみになっていった。

 なんで僕、意見なんてしようとしちゃったんだろう。

 素人の子供の意見なんて、誰も相手にしないだろうに。

 それが証拠に、

 シーン。

 この沈黙よ。


 あ、でもどうなんだろう?

 セテラムは落とされたわけだし、国のトップもたぶん、無事じゃないよね?

 代わりに(まつりごと)をやれる人っているんだろうか?

 薬物で国内はボロボロって話だし、色々大変そうだよなぁ。


「あ、あの。素人の平民が出しゃばってすみませんでした!」


 僕は恐怖と羞恥で顔を上げられなかった。

 素人なのに阿呆なんじゃないか?

 あーーーーーー!あーーーーー!あああああああああああ!

 消し去りたい!

 みんなの記憶から今の言動を消し去りたい!


「いえ。それよりも、理由をうかがってもよいですかな?」


 意見を言っても良いのだろうか?

 

「えっと、セテラムと我が国は直接接しているわけではありませんが、我が国の守りの面でも、ナウォックの守りの面でも、セテラムという緩衝国があるのとないのとでは責められ易さに違いが出そうだなと感じました」


 みんな黙って聞いている。

 沈黙が怖い。


「今回のことに関して、各国の署名がしっかり集まれば、ラーンクは立場がなくなったということになるわけですので、そこに付け込んで不可侵条約も結ばせてしまいましょう。攻めてこられない間に、セテラムを元の国力に戻せばその後も安心かなと思いました」


 宰相が王様の方を向く。

 ああ、嫌だなぁ。

 また粗相をしちゃったなぁ。


 と、王様が笑い出した。


「ククククク。はははははは。あっはっはっはっはっはっは」


 ああ、もうお腹痛い。帰りたい。


「付け込むだと。ククク。可愛い顔をしてなかなかあくどいではないか」


 今までの威厳のある姿とは違う王様の様子に僕はポカンと口を開けて呆然としていた。


「まずはナウォックの議会に伝令を送り、彼らからラーンクへ要求してもらうよう働きかけましょう」


「それが筋というものであるな」


「はい。うちが要求するのはお門違いと言えましょう。奇襲の件に関しては、別の要求をしましょう」


「更に絞り上げるか。ククク。貴様も悪よのぉ」


 王様と宰相がなんか盛り上がってる。

 てか、王様なのに悪代官してるわ。


 はぁ。すっごく緊張した。

 でも奇襲は未遂だし、付け入ることってできるんかな?


「では今回はお開きとします。各自退出を」


 前回と同じく王族、上級貴族、下級貴族、僕らの順で退出する。


 謁見室から出たと同時に僕は盛大に息を吐いた。


「っだあぁぁぁぁぁ!」


「もーなにやってるんですか。生きた心地がしませんでしたよ」


 メリアに怒られる。

 僕も生きた心地がしませんでした。


「しかし結果的に王に気に入られたようですね」


 それにスルラがフォローしてくれる。


「もーかえりたい」


 僕が泣きごとを言うと、二人は哀れなものを見る目でこちらに視線を向けた。

 

 するとちょうどその時、廊下の角からメイドさんが歩いてきた。

 会釈して通り過ぎようとした僕の耳元で、


「王がお呼びですので、一人でいらしてください。ご案内します」


 と、メイドさんが言ってきた。

 距離が近かったメリアとスルラには当然聞こえていたらしく、手を振られた。


 チクショウ!一緒に来てくれてもいいのに!

 僕はこれ見よがしにハンカチを噛みながらメイドさんの後を追った。

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