第53話 雷のような怒声
円卓会議場では沈黙が場を支配していた。
皆、国王が口を開くのを、恐れをもって待っている。
「どう言うことだ?」
しかし、問われた側に返事はない。
その事に焦れたのか、それ以前の問題か。王はキレて怒声を上げた。
「俺はどう言うことだと聞いている!」
ゴン!
同時に響く、卓を叩く音。
イラついた王は怒声と共に拳を卓に叩きつけていた。
会議の出席者は皆、思わず首をすくめたが、何も言えないでいた。
「1万もの兵力を用意しておきながら、死者100人足らずで敗走だと?お前ら、俺を舐めてるのか!?」
「いえ、決してそのようなことは……」
「では何故逃げ帰ってきたああぁぁぁ!!!!!」
ゴゴン!
再びの怒号。
そして今度は両手である。
「し、死者は確かに少なかったのですが、あの混乱では立て直しなど見込めず……」
メリアの狙撃で人中に怪我を負ったハナアカは、その影響で聞き取りにくくなった声で弁明しようとする……が、
「俺は言い訳なぞ聞いていなぁい!!!」
ゴゴン!
またもや両手である。
今度はヤマハマグナが反論する。
「しかし陛下、あのような天変地異は、我々は経験したことがございません!あれはもう、神の怒りなのではないかと」
「……った」
今度は王の怒りは静かなものだった。
すぐに決壊したが。
「今、なんと?」
「では何故貴様らは薬を!奇襲を使った!貴様らが!招いた!ことではないかぁぁぁぁ!!」
ドン!ドン!ドン!ドン!ドォン!
連打である。
彼の怒りの程も知れよう。
しかし彼らが責められるのも、少々かわいそうとも言える。
用意できた兵力では、何かしら策がなければ攻められる算段すら立たなかったのだから。
「しかし、それは本当に神の怒りなどと言ったものなのでしょうか?」
王の側近貴族が発言をすると、王はギロリとそちらを見た。
しかし、彼はそれを意に介せず持論を述べた。
「彼の国は宗教国家というわけでもありませんし、神に守られているなどと言った話も聞きませぬ。過去に、薬物を使った計略で国を落とした歴史でも、別段天罰が下った話など聞いたことがございませぬ」
王は一度深呼吸をして、
「俺も本当はそうではないかと、思ってはいるのだ」
そうのたまった。
本当かよ?
周りの貴族たちの何人かはそう思った。
しかし本当のことなのは間違いなかった。
王は、神なぞ信じてはいなかったからだ。
「だが、理由にかかわらず、こいつらは失敗した。しかもよりにもよって国際法を2つも破って」
「ご安心召され、陛下。薬物に関しては証拠がござい……」
「貴様は黙っておれ!!!!!」
雷のような怒声に、王以外の全員が首をすくめた。
片方は問題ないと言いたかったミカコルスだったが、王の怒声に口を噤まざるを得なかった。
「証拠がなくとも状況的には我が国がやったことだと、どこの国も思う。我が国の立場はどう転んでも悪くなるに決まっている」
王は、はぁとため息をつき、
「敵は帝国やレハチワ、ナウォックだけではなくなるということだ。下手したら他国に攻める口実を与えることにもなりかねん」
と言い、更に大きなため息をついた。
側近貴族も続く。
「レハチワなぞはその2つを口実に、セテラムの返還、他国への協力要請くらいはしてくるでしょうな」
王はわかりやすく片手で頭を抱えて、
「俺の代で東を落とすのは、もはや不可能なのではないか?」
そう、弱音を吐いた。
愚かなミカコルスは、
「きっと再起の時は……」
そう言いかけ、再び怒声で黙らされた。
今回は静かな怒声だったが。
「俺は黙ってろと言ったよな?」
静かな怒声だったが、ミカコルスには雷のような怒声より恐ろしかった。
「お前ら、ともかく、あれだ。領土没収。それ以降の沙汰は追って待て。今日はもう解散だ解散」
もう疲れ果てた王は適当にこの場をまとめてお開きにした。
他の者たちを先に帰らせた王は、唯一残らせた側近貴族に愚痴を吐く。
「疲れた」
そう言って卓に突っ伏した。
完全に素に戻った王に側近貴族は苦笑する。
その鼻に異臭が届いた。
(うん?なんだこの臭いは?)
「今日はとことん飲むぞ。付き合え」
王の言葉に我に返り、頷く。
そうして二人も去っていった。
ある貴族の椅子から水が滴っていることに気づいたのは、掃除に来たメイドだった。
ミカコルス卿の名誉のために、詳細は語らずにおきます!(爆)




