第103話 やまない雨
ふらふらする。
世界が歪んでいる。
結局、僕は何も守れなくて、無能で役立たずで無能で、人殺しだ。
ああ、あの声がずっと聞こえる。
僕は――
「鈴!」
「ぁ……」
芽結の声に顔を上げると、そこには芽結の泣き顔があった。
「ごめん……。芽結」
あの声は今もずっと聞こえるけど――
「ちゃんと現実は見なきゃね」
芽結に抱きつかれた。
芽結の柔らかいお腹に顔を押し付ける。
――前もこんなことあったなぁ。
なんて、思ったりして。
少し時間が経って僕が落ち着くまで、みんな黙って待ってくれていた。
「あの子と、あの子のお母上は?」
さすがに野ざらしってことはないだろうけど。
「レイが眠っている間に平民の合同葬儀は終わっている。……残念だが彼女たちだけ特別扱いするわけにはいかなかったからね」
「そっか。教えてくれてありがとう。アルソ」
アルソが頷く。
「出発までにレイが起きたら、レイと一緒にみんなでお墓に行って祈りを捧げようって話をしてたんだ。もちろん行くだろう?」
レッタが聞いてきた。
もちろん行きたいんだけど……。
「恥ずかしながら、身近で亡くなった人って親しかいなくて、作法に拙いんだ。教えてもらえるかな?」
しかも他国だから尚更。
「とりあえず一緒についてくればいい」
短く応えたのはカホクだ。
「じゃあ着替えるね」
しかし出て行こうとしたのはサクラだけだった。
「みっ、みなさん!」
「あの、見られていると着替えられないのですが」
僕がうそぶくと数人がハッとなる。
なぜ気づかなかった。
「ローンさん、なぜじっと見ていらっしゃるのでしょうか?」
芽結も真剣な顔してこっちの顔見てるし。
「気になります」
気になります。じゃねーのよ。
一番お淑やかっぽい言動なのにどーなってんのよ。
あ、ちょっと調子戻ってこれたかも?
「本当に大丈夫?」
ああ、芽結は心配してくれてたのか。
「大丈夫だよ」
頭の中の声はずっと聞こえてるけど。
「やっぱり私残る。みんなは外に居て」
芽結が言うと、みんな出て行く。
「芽結相手でも恥ずかしいは恥ずかしいよ?」
「もう着替えで散々メイドさんに見られてるよ。七日間も寝てたんだから」
何それ恥ずかしい。
いや――。
「一週間も寝てたの?僕」
合同葬儀が終わったって聞いた時からそうじゃないかなと思ってたけど、結構時間経っちゃったんだ。
考えてた日数より多かったけど。
「てか、さっきアルソが王城の一室って言ってた気がするけど、僕みたいな平民がずっと部屋使ってて大丈夫なの?」
「それは大丈夫。恩人の役に立てるのならって、ブイニシャ王は言って貸してくれたんだよ」
「恩人だなんて……」
何も守れなかったのに……。
「鈴。鈴が自分を責めてるのはわかるよ。それで、こんな言葉一つで鈴が自分を責めるのをやめられるなんて思わないけど……」
今日の僕はずっと、芽結に悲しそうな顔をさせ続けているなぁ。
「鈴が助けて、守った命はいっぱいあるんだよ。守れなかったものばかりじゃないんだよ。それを、忘れないであげて」
ああ、泣いちゃいそうだ。
「そうじゃなきゃ、鈴が助けた人だってお礼を言えないじゃない」
声が、少しだけ遠のいた。
まだ声は聞こえ続けているけど、さっきよりずっと圧がない。
そうか、この声は――。




