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異世界魔法、観察してみたら  作者: 猫チュー
第二章 夏休みの雨編

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第100話 私の八つ当たりに付き合ってもらおう -side Arsaux-

 走る。走る。

 今の私にできることをしないと。


 レイのことはブイニシャ国王御自(おんみずか)らが買って出てくれた。

 今頃は礼として迎賓館の客室で寝かされているはずだ。

 レイはあれからしばらく泣いていたが、ふと糸が切れたかのように倒れてしまった。

 瞳は閉じず、されど何も映さず虚ろだった。

 今も心ここにあらずなのだろうか?

 私には何もできなかった。


 メイ様はレイのことを聞いたらどんな顔をするのだろう?

 それを想うと胸がギュッとなる。

 メイ様に、私はメイ様にレイをよろしくねって頼まれていたのに……。

 本当に、ただただ無力だった。

 でも、だからこそ、今、できることがあるのだからしっかりやらないと。


 行きには使わなかった魔力を惜しみなく使い、ひたすらに走る。

 やがて馬車の姿が見えてくるが……、


「こんな時に!」


 いや、こんな時だからだろうか。

 馬車は賊に襲われていた。

 メリア嬢が上手く牽制しているが、数が数だけに包囲網はじわじわと狭まっている。


「お前達には悪いが、私の八つ当たりに付き合ってもらおう」


 一番近くにいた賊の獲物を持つ手を狙って斬りつける。

 私の刀はシュッと風切り音を鳴らし、


 ――パシッ!


 手首の骨ごと断ち切った。

 ドサッと切断された手が落ちる音がする。

 その音が聞こえる前に私はすでに、次の賊に向かって走り出している。


 人間、武器を持つ時は基本的には利き腕に持つものだ。

 よほど訓練するか、生まれながらの才能に恵まれなければ、利き腕を失った直後はまともな戦闘はできない。

 仮に失ったのが利き腕ではなかったとしても、片腕を失ってすぐはバランスが取れなくなる。

 手首は首より斬りやすい。

 手首の関節を狙うのは、合理的な判断だ。


「ふたり目!」


 その直後、私に気を取られた賊が一人、メリア嬢に撃ち抜かれた。

 メリア嬢に気を取られた3人に斬りかかる。


「私から、目を逸らすとは、余裕だな!」


 一息毎に一人ずつ手首を切断する。

 次!

 私は残りの賊に襲い掛かった。


 敵の数を半分程減らした段階で賊達は逃げて行った。


 ――ブン!


 刀を血払いして、メイ様から賜った懐紙で拭く。

 すると、ちょうどメイ様が馬車から出てきた。


「鈴はどうしました?」


 私は包み隠さず報告した。

 メイ様は深く息をつき、


「わかりました。アルソ、無事に帰ってきてくれてありがとう。急いでブイニシャ王都に向かいましょう」


「レイを守れずにすみません」


 私が謝罪をすると、


「アルソが謝ることではないでしょう。それよりも馬車に乗ってください。ブイニシャ王都に向かいますよ」


「御意に」


 私が乗り込むと馬車が動き出す。


「鈴。どうか無事でいて」


 メイ様の祈るような声に、私の心はまた締め付けられた。

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