第100話 私の八つ当たりに付き合ってもらおう -side Arsaux-
走る。走る。
今の私にできることをしないと。
レイのことはブイニシャ国王御自らが買って出てくれた。
今頃は礼として迎賓館の客室で寝かされているはずだ。
レイはあれからしばらく泣いていたが、ふと糸が切れたかのように倒れてしまった。
瞳は閉じず、されど何も映さず虚ろだった。
今も心ここにあらずなのだろうか?
私には何もできなかった。
メイ様はレイのことを聞いたらどんな顔をするのだろう?
それを想うと胸がギュッとなる。
メイ様に、私はメイ様にレイをよろしくねって頼まれていたのに……。
本当に、ただただ無力だった。
でも、だからこそ、今、できることがあるのだからしっかりやらないと。
行きには使わなかった魔力を惜しみなく使い、ひたすらに走る。
やがて馬車の姿が見えてくるが……、
「こんな時に!」
いや、こんな時だからだろうか。
馬車は賊に襲われていた。
メリア嬢が上手く牽制しているが、数が数だけに包囲網はじわじわと狭まっている。
「お前達には悪いが、私の八つ当たりに付き合ってもらおう」
一番近くにいた賊の獲物を持つ手を狙って斬りつける。
私の刀はシュッと風切り音を鳴らし、
――パシッ!
手首の骨ごと断ち切った。
ドサッと切断された手が落ちる音がする。
その音が聞こえる前に私はすでに、次の賊に向かって走り出している。
人間、武器を持つ時は基本的には利き腕に持つものだ。
よほど訓練するか、生まれながらの才能に恵まれなければ、利き腕を失った直後はまともな戦闘はできない。
仮に失ったのが利き腕ではなかったとしても、片腕を失ってすぐはバランスが取れなくなる。
手首は首より斬りやすい。
手首の関節を狙うのは、合理的な判断だ。
「ふたり目!」
その直後、私に気を取られた賊が一人、メリア嬢に撃ち抜かれた。
メリア嬢に気を取られた3人に斬りかかる。
「私から、目を逸らすとは、余裕だな!」
一息毎に一人ずつ手首を切断する。
次!
私は残りの賊に襲い掛かった。
敵の数を半分程減らした段階で賊達は逃げて行った。
――ブン!
刀を血払いして、メイ様から賜った懐紙で拭く。
すると、ちょうどメイ様が馬車から出てきた。
「鈴はどうしました?」
私は包み隠さず報告した。
メイ様は深く息をつき、
「わかりました。アルソ、無事に帰ってきてくれてありがとう。急いでブイニシャ王都に向かいましょう」
「レイを守れずにすみません」
私が謝罪をすると、
「アルソが謝ることではないでしょう。それよりも馬車に乗ってください。ブイニシャ王都に向かいますよ」
「御意に」
私が乗り込むと馬車が動き出す。
「鈴。どうか無事でいて」
メイ様の祈るような声に、私の心はまた締め付けられた。




