第99話 燃ゆる王都 -side Arsaux-
※注意※
とてもとても残酷な描写があります。
苦手な方はブラウザバックを推奨します。
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レイと共に街道をひた走る。
私は身体強化をするか考えたが、レイがついてこれない可能性と、魔力の消費のことを考えて温存することにした。
それでも私は足の速さに自信があるのだが、レイはその私についてきている。
必死なのだろうな。
私もあの子の笑顔に癒された口だ。
間に合うのならば守ってやりたいが……。
すでに何人もの人とすれ違っている。
うまく逃げることに成功した者たちだろう。
同じように逃げていてくれていればよいが……。
ブイニシャ王都にはすぐに着いた。
しかしこれは……。
家々は燃え、人の怒号が響き、子供の泣き声がそこかしこから聞こえる。
しかし敵と思わしき影は見当たらない。
やはりメリア嬢の睨んだ通り個人によるものか。
くっ。
これだけの爆薬。どこで調達したのだ。
ただの一般人が集められる量なのか?これは。
一瞬の思考の末、とりあえず近くにいる者の救助に乗り出そうかと考えたその時、レイが凄い勢いで飛び出した。
風の魔法を自身に当てたか。
無茶をする。
しかしメイ様にレイのことを頼まれているのだ。
私は身体強化をしつつ、レイと一緒に行くことにした。
「ふっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ」
見覚えのある……いや、変わり果ててしまった広場に出ると、そこには襤褸をまとった男が高らかに笑い声をあげていた。
彼の周りには焚火と玉のようなものが山と積まれている。
この国の兵士が包囲しているようだが、近づけずにいるみたいだ。
――この男が下手人か。
男がしゃがみ込み、煤に塗れた腕を動かす。
場に緊張が走るが、男は何かにかぶりつき、吸い始めた。
なんだ、あれは?
――瞬間、怖気立った。
その男がかぶりついていたのは人の――子供の腕だった。
子供の腕にかぶりつき、その血をすすっていたのだ。
急激に襲ってくる吐き気をなんとか耐える。
すると今度は腕を捨て、近くの何かをまさぐった。
そのまままさぐって引き抜いた物。――あれは……眼だ。
眼を口に入れ、咀嚼しだした。
男がまさぐった瞬間、私は見てしまった。
男の近くの何か――子供が死してなお抱え続けていたものを。
あれはレイが師からもらい、女の子にあげたというタリスマンだ。
特徴のある文様。間違いない。
耐えられなくなった私は思わず胃の中の物を吐き出してしまった。
ひとしきり吐き、手巾で乱暴に口元を拭ったところで思い出した。
そうだ。レイ!
レイの方を振り返ると、私が見た事のない表情をしていた。――いや、表情がなくなっていた。
次の瞬間、男が叫び声をあげた。
そちらに視線を向けると、男の右手の小指がなくなり、血が噴き出していた。
すぐに後ろから底冷えするような声がし、男の悲鳴が聞こえなくなった。
「楽に死ねると思うなよ」
そこからレイによる惨殺劇が始まった。
遠くの小さな瓦礫が飛来すると一瞬だけ男の声が聞こえる。
すぐに男の耳がそぎ落とされるが声は消される。
おそらく、例の結界を巧みに使っているのだろう。
そんな光景が繰り返され、男は少しずつ体積を減らしていった。
途中、男が少女の亡骸に手を伸ばそうとしたが、その指は跳ね返されていた。
少女は、たとえすでに息がなくとも、レイが守っているに違いない。
私は……私は何もできなかった。
男の狂気も、レイの怒りも、私には恐ろしすぎた。
メイ様の護衛を申し付けられることもあるが、今の私はただ震えていきさつを見守るだけの無力な存在だった。
やがて男が動かなくなってもレイの怒りは収まらなかった。
どういう意図があったのだろうか?
男の耳はそぎ落としたが、頭部だけは狙っていなかった。
それ以外はズタボロで、最早人の形をとどめていなかった。
それでも少しの間、レイは男を削ぎ落し続けた。
少しして、ようやくレイは手を止めたが、その表情には晴れやかさの欠片もなかった。
抜けた表情で少女の亡骸に近づいて、膝から崩れ落ちた。
しばらく呆然とした後、不意に涙をこぼし、静かに泣いた。
慟哭することはなかったが、静かに泣く姿が、なぜか妙に私の心を締め付けた。
どれくらい時間が経っただろうか?
大量の護衛を引き連れて現れた人物に、私は慌てて頭を下げた。
ブイニシャ国王その人であった。
国王はこちらに目礼した後、頭部だけとなった男を見た。
少し目を見開き、そして目をつむった。
静かになった周囲に、国王の小さな声が響いた。
「ラーンクの貴族、レイゾン・ミカコルス……か」
小さな響きが、私にはとても遠くに感じた。
街の焼ける臭いが、レイの姿が、私の心を締め上げ続けた。




