第95話 星に願いを
「やっぱりここに居た」
「来ると思ってたよ。ううん、待ってたよ」
お風呂タイムが終わって外のベンチに座ってのんびりしてたら芽結が来た。
「たまには二人きりにならないとね」
「そうだね」
ベンチにハンカチ置こうか悩んだけど、使用人さんが綺麗にしてくれているし要らないかな?
芽結が隣に座って頭を預けてくる。
ふわりとハーブの香りが漂う。
こっちの世界のシャンプー替わりのハーブ石鹸水だ。
僕も同じものを使ってるはずだけど、香りに少しドキドキする。
こうやってくっつくのはすごく、本当にすごく久しぶりだ。
二人で静かに星を眺める。
長い沈黙だけれど、特に不安になったりするようなことはない。
話さずとも安心していられる存在。それが芽結だ。
芽結も同じように思ってくれていたら嬉しいな。
「ねえ」
どれくらい時間が経ったか、芽結が声を発した。
「なあに?」
「鈴はさ、あっちに帰りたいって思う?」
「うーん……」
あっちに帰る手段は、たぶんないだろうなぁ。
そんなこと、芽結はわかってるはずだろうし、芽結に未練があるから聞いてきたんだろうな。
「父さんと母さんに一言くらい言っておきたいってのはあるかな」
「……」
僕からも芽結に聞き返す。
「芽結は帰りたいって思う?」
「あたしも鈴と同じ。お父さんとお母さんに勝手に死んじゃってごめんなさい。二人の子供で幸せでしたって……それだけでも伝えたい」
芽結は目に涙を浮かべながら言った。
僕らの願いはきっと叶わない。
そもそも、どうやってこっちの世界に転生したのかもさっぱりわからないんだ。
魂が移動した?
偶然僕と芽結が同じ世界に?
そもそも魂って存在するの?
非科学的すぎる。
でも――
「できるかわからないけど、何か手がないか調べて、考えて、試し続けてみよう。魔法なんて非科学的なものが存在するんだ。何か手段があるかもしれないからね」
まだ知らないダークマターがあるかもしれない。
移動はできなくてもメッセージだけは送れるかもしれない。
光より早い物質があるかもしれない。
非科学的だからってあきらめる理由にはならない。
何より、涙を浮かべた芽結のその気持ちをそのままにはできない。
「頑張るから」
もたれかかってくる芽結の頭を撫でる。
近いとちょっと撫でにくいよね。
「うん……」
芽結は消え入りそうな声で答えた。
ここの星空は、僕たちが知ってる星空とは違う。
自転が逆だから、星の動きも地球とは違う。
あっちにいた時はよく星に願い事をしていた。
こっちに来てからはしなくなったけど、
――芽結と二人で幸せでいられますように。
美しく瞬く星達に、僕はそう願った。




