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第五話 優雅に微笑む婚約者

 翌日の午後。

 柔らかな陽光が差し込むアルステア邸の玄関ホールに、上品な馬車の止まる音が響いた。


 「ミレーユお嬢様、お客様がお見えでございます」

 マリーの丁寧な声に導かれ、ミレーユはホールへと向かった。


 「ミレーユちゃん。お会いできて嬉しいわ」

 桃色のドレスを纏った女性が、優雅に一礼する。


 リオネルの婚約者、エレーナ・フォン・カーライル。

 その落ち着いた物腰と柔らかな微笑みに、ミレーユは自然と背筋が伸びた。


 「エレーナ様、本日はようこそお越しくださいました」

 そう挨拶すると、エレーナはふわりと目を細めた。


 「まぁ、そんなにかしこまらなくて大丈夫よ。かわいい妹ですもの」


 そこへ階段からリオネルが姿を現す。

 「エレーナ、ご足労ありがとう。父上も母上もお待ちしているよ」


 「ええ、すぐに伺いますわ。ただ……ミレーユちゃんと少しお話してもよろしいかしら?」


 エレーナは優しくミレーユを見つめ、ひそやかに声を落とす。


 「最近、奥様のお肌が急に明るくなられたと伺いましたの。

  ミレーユちゃんが“なにか”されたのでしょう? よろしければ、お聞かせいただけませんか?」


 ミレーユは一瞬、目を瞬いた。噂が広まるのが早すぎる。


 けれど、エレーナの瞳は純粋な興味と温かさに満ちている。


 「大したことはしておりません。優しいオイルで肌を整えただけです」

 控えめに答えると、エレーナは頬を輝かせた。


 「まあ……なんて素敵なのかしら。やっぱり、あなたには特別な才があるのね。

  よろしければ、わたくしにも施術をお願いできますか?」


 その瞬間、リオネルが穏やかに微笑む。

 「エレーナは努力家なんだ。ミレーユの才能を、きっと誰より大切にしてくれる」


 ミレーユは胸の奥が温かくなるのを感じ、小さく頷いた。


 「……はい。エレーナ様のお役に立てるのであれば、喜んで」


 エレーナは嬉しそうにミレーユの手を取った。

 「ありがとう、ミレーユちゃん。本当に楽しみにしていますわ」


 その微笑みは、春風のように柔らかく心地よかった。


 ――美を巡る小さな輪が、またひとつ広がっていく。

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