第四話 食卓に咲く、小さな革命
数日後の夕刻。
アルステア家の広い食堂には、美味しそうなスープの匂いが漂っていた。
金の燭台の光が、磨き上げられたテーブルをやわらかく照らす。
ミレーユは少し誇らしげにスープを口に運んだ。
――この味この食感、ちゃんと伝わってる。
実は、料理長にこっそりお願いしていたのだ。
「今日の夕食に出すスープには鶏から出る出汁をたっぷり使ってください。それから、サラダには野菜だけではなくて、新鮮な果実やレモン果汁を使ったドレッシングを加えてね」
お肌と体、両方を元気にする“食の美容術”。
痛みを伴わなわず、内側から輝く方法を見つけたい。
そんな想いが、ミレーユを動かしていた。
「ミレーユ、今日もよく食べてるかい?」
朗らかな声でそう言ったのは、父・アルステア公爵。
豪快で優しい、家族みんなの太陽のような人だ。
「はい、お父様。今日もとっても美味しいです」
「それはよかった!」
お父様の隣で、兄・リオネルが静かに微笑んだ。
彼は十三歳。穏やかで落ち着いた雰囲気を持っている。
「ミレーユ。母上の肌、ずいぶん明るくなったね」
「……えっ、お兄様、気づいたの?」
「もちろん。母上はもともと美しかったが、今日はより一段と輝いているね。マリーの顔色もとても良くなっていたからメイド長に聞いたんだ。ミレーユが素敵な魔法をつかったんだろう?」
お兄様の穏やかな声に、ミレーユは思わず笑みをこぼす。
お父様も興味深そうに身を乗り出した。
「ミレーユが? あの“痛い美容術”を?」
「お父様。痛くなくても、人は綺麗になれるんですよ」
ミレーユはまっすぐに父を見る。
「お母様には優しいオイルでマッサージして、あとは食事でお肌を整えるようにしました」
お母様が頬を染めて微笑む。
「ええ、本当に気持ちがよかったの。翌朝にはお肌がしっとりして……鏡を見るのが楽しくなったのよ」
父はしばらく黙ってから、豪快に笑った。
「ははは! 痛みじゃなく食事と癒しで美しくなるとは、我が娘ながら見上げたものだ!」
リオネルがゆるやかに微笑む。
「ミレーユの“手”と“考え”は、きっと人を幸せにするね」
その言葉に、ミレーユの胸がふわりと温かくなった。
この家の中で、小さな“革命”が静かに芽吹いていく。
――痛みではなく、やさしさで美しくなる時代へ。




