幕 間 レンフォール公爵の困惑 2.家族会議
~No-Side~
失地挽回の手なら幾つか思い付くが、それをこの場で安易に決めていいものか。ネモという少年が不確定要素として絡んでいる以上、その少年の為人や交友関係を――自分より――知っている筈の、母や娘の意見を聴いてから判断した方が良いのではないか。……レンフォール伯爵夫人の補助として領都に残留する事になった長男からは、王都に戻る前に片付けろと言われそうだが。
そう考えたレンフォール公爵は、この件を家族会議にかける事にした。具体的には、夕食時の話題として持ち出したのである。
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「どうするもこうするも、これは――形式的には――は水産ギルドとその商人の問題でしょう。表向きレンフォール公爵家は無関係です。
「その上で言うのなら、要は根回しをするかしないかの二択でしょう。水産ギルドの要請を退けて良い事など何も無いのだから、要請を呑むしか無いじゃないの」
息子の意見をばっさりと切って捨てたレンフォール伯爵夫人であったが、公爵の言いたいのはそこではない。ネモという少年がその判断を選択をどう見るか。その辺りを確認しておきたかっただけだ。
「愚問ではなくて? 水産ギルドの提案というのは、元を辿れば即ちネモ君の提案なのだから、何れをチョイスすべきかは自明でしょう」
「そこなのですよ問題は」
公爵の斬り返しに怪訝そうな表情を浮かべた母と子供たちに向けて、公爵は自分が抱いている疑問を打ち明ける、いや打ち撒ける。この展開は真にネモのよしとするものなのか、それとも渋々呑まされたものなのか。後者だとしたら、ネモという少年が真に望んでいるのはどういうものなのか――と。
自分――と長男――はネモという少年に遭った……ではなく、会った事が無い。為人が解らないから、その辺りの判断が出来かねる。忌憚の無い意見を聞かせて欲しい――と。
――そう訊き返されて、ドルシラもレンフォール伯爵夫人も考え込む事になった。
伯爵夫人の言ったように、表向きレンフォール公爵家はこの件に関わっていない。ただ、ハラディンという商人を水産ギルドに紹介しただけである。
しかしこれが、レンフォール公爵家の足を引っ張りたい連中にとって恰好の攻撃材料なのは間違い無い。嬉々としていちゃもんをつけてくるだろう。そして、その焦点となるのがネモという少年だとすると、その真意真情を斟酌せずに、先走って根回しに動くのは怖過ぎる……。言われてみれば納得せざるを得ない。
互いに顔を見合わせた後、視線の圧力に押されるように、ドルシラが口を開く。
「……身も蓋も無い憶測ですけれど、ネモさんはご自分で狩った肉に手出しされない限り、我関セズの立場をお取りになると思います」
言のとおり〝身も蓋も無い〟見解に、一同が再び顔を見合わせ……ているところに、ドルシラからの追撃が届く。
「……ですけれど、これは飽くまで私個人の憶測に過ぎません。
「ですので、後日ネモさんに会って確認を取ってから、改めて水産ギルドと調整した方が良いと思います。お父さまが根回しに動くのはその後で」
「……ドルシラの言うのがベターのようですわね」
「……そうするとしますか」
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余談ながら、この日の夕食で初披露された料理長渾身の「ソース・アメリケーヌ」は、参加者全員の絶賛を浴びた上で、そのレシピは公爵家の秘技として秘匿される方針が決定されたのであった。




