第七十八章 土木と建設の日 1.DIY治水計画
~Side ネモ~
鉄砲水の翌日、川の流れも大分収まってきてたんで、川向こうの荒れ地の下検分に行く事にした。勿論好さそうな場所があったら、ちょいと土魔法で細工して、遊水地に仕立てるつもりでいる。
昨日よりは沈静化したとは言え、まだ水嵩は増したままだからな。弟妹たちは無論、祖父ちゃんを連れてくわけにもいかん。俺とヴィクだけなら川を渡るのも何とかなる。
「何とかなると言うが……どうするつもりなんじゃ?」
――って祖父ちゃんが訊くんだが、別におかしな事をするわけじゃない。ステータスにものを言わせて、川を跳び越えるだけだ。万一の時のために、安全保障の手札を一枚切っておくけどな。
「手札じゃと……?」
「あぁこれだ。【施錠】」
【施錠】で川の流れを一時的に止めて、万一向こう岸に届かなかった時にも、濁流に流されないようにしておいた。向こう岸まで跳んだ後、直ぐに【解錠】したけどな。
昨日鉄砲水を止めた時に気が付いたんだ。【施錠】で固めた水の上なら、歩いて渡る事もできるんじゃないかって。ま、強度とか持続時間とかが今一判らんから、ぶっつけ本番で渡るような真似はしない。飽くまで万一の備えってやつだ。
だから……
「お前らにゃまだ早い。真似しようなんて気を起こすんじゃないぞ?」
「うん……」
「わかってる……」
よしよし、聞き分けの良い子は長生きできるぞ。神様からの祝福も戴けるかもしれん……悪神様を除いてだが。
(「……やるかやらんか以前に、できるかできんかが問題じゃろうが」)
(「うん……」)
(「そうだよね……」)
祖父ちゃんが何か呟いてるみたいだが、重要な事ならちゃんと口に出して伝える筈だ。そうでないって事はつまり、俺が気にする必要は無いって事だな、うん。
・・・・・・・・
川沿いの空き地を眺めていくと、遊水地に使えそうな場所があったんで、一帯を土魔法で掘り込んでいく。で、川岸の一部を心持ち低くして、増水時にそこからの溢流が遊水地に流れ込むよう……少なくとも、それを期待できるようにしておく。
結構な広さになりそうだったんで、環境への影響を考えて地表部分には手を着けず、地中の心土だけ抜き取って表土を沈下させるようにしたんだが……遊水地だけで氾濫を防ごうと思ったら、かなりな面積を改変しなくちゃならん気がしてきた。……どうやったって人目に付くな。やっぱり水門で防ぐ事を考えた方が良いか。けど、水門っつってもなぁ……
前世の川にあったような大掛かりなものは論外だとして、基本的には板を落として水路を遮断する形になる。板を嵌め込む溝ぐらいは、まぁ目立たないように作れるとしてもだ、肝心の板をどうするかって話になる。
簡単なのは土魔法ででっち上げる手だが、そうすると多分重たくなって、祖父ちゃん腰をヤっちまうかもしれん。
水門が必要になるシチュエーションを考えると、鉄砲水の危険がある時に、外でギックリ腰を引き起こすって事になる……却下だな。
石の代わりに木で作るって手もあるにはあるが、こっちの世界だと、山は魔獣のテリトリーだからな。気軽に木を伐りに山へ入るなんてのは無理な話で、結果として木材の価値が高くなる。まぁ、木そのものは俺がどうにかしてもいいんだが、そんな貴重な木材で作った板を、どこに仕舞うかってのも問題だ。
使い易さを考えると、現地保管が一番なんだが……誰かに掻っ払われるって事が無かったとしても、そんな貴重な板を外に置くなんざ不自然の極みだ。不審に思われるのは避けられない。そこから芋蔓式にイネの事が露見するかもしれん。……これもナシ寄りのナシってところだな。
そうすると現実的なのは、土砂で水路を埋めるって手しか無い。……弟妹たちの土魔法を鍛える一手だな。




