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第七十七章 雨中からの贈りもの 5.Over the Rain Bomb(その2)

 ~Side ネモ~


 〝転ばぬ先の杖〟ってやつで、水路の周りに遊水地を造っておこう……なんて考えてた俺だったが、この目で現地を見た事で、考え違いに気が付いた。


 そもそも遊水地ってのは、宅地や農地を洪水から守るため、増水時に堤防から(あふ)れた水を一時的に貯めとく空き地の事だ。(あふ)れた水を誘導して貯め込む事で、洪水被害を肩代わりするわけだから、守るべき宅地や農地より低い土地でなきゃ話にならん。そしてこれに、普段は水が溜まってないっていう条件が付く。


 ところが今度の場合、守るべき場所ってのはまず湿地、次いでそこから流れ出る水路になる。そして湿地だの水路だのってのは、そこが周りの土地より低いからこそ水が集まってるわけだ。

 て事は――だ、水路の脇に(こしら)える遊水地は、最低でも水路と同じくらいか、できればそれより深く造らなきゃならん。……もうこの段階で、湿地からの水が直接「遊水地」に流れ込む可能性が高いわけで、〝普段は水が溜まってない〟って条件をクリアーするのが難しくなる。


 ……遊水地として(かなえ)(けい)(ちょう)を問われそうな話だな。


 それに――だ。現地を見た限りじゃ、果たして増水分を全て受け容れ得る規模の遊水地を造れるか、それだけのスペースがあるかどうかが疑わしい。

 いやそれ以前に、大事な大事な淡水湿地の近くに塩水の池ができるというのが、イネの生育に好いものか。()してこの辺りは、土地の傾斜がほとんど無いフラットな場所なんだ。染み付いた塩分が淡水湿地を侵蝕する危険性だって無いとは言えん。


 ……この辺りに遊水地を造るってのは無しだな。


 となるとここより上流の、できれば対岸側に遊水地を整備するのが好いんじゃねぇかって話になる。増水を対岸側でトラップするわけだ。

 至善の策ではないにせよ、次善の策にはなるだろう。


 幸か不幸か塩川の周りってのは、(かい)(びゃく)以来から度重(たびかさ)なる増水と(はん)(らん)のせいで、土が塩気を貯め込んでる場所が多くある。……てか、(むし)ろ俺たちがいる場所の方が例外で、真水の供給があるせいで塩気が抜けてるだけなんだけどな。

 ま、それはともかく――だ。塩気の()み込んだ場所は普通の植物が育ちにくくって、生えてんのは塩生植物ばかり……なんて場所も多いから、そこの地面をちょいと掘り下げて、塩性湿地(まが)いの遊水地を造っても、あまり目立ちはしねぇだろうって期待してるんだが……


 弟妹(チビ)どもにゃこっちの作業を手伝わせるか。



・・・・・・・・



 合流点まで舞い戻って、猛々しく流れる川を眺めて気が付いた。上手の方に懸かっていた筈の丸木橋は、鉄砲水で綺麗さっぱり流されちまってる事に。


 橋も無いってのに、増水・濁流()直中(ただなか)の川を渡って向こう岸へ……なんてのは、単に馬鹿の所業だよな。

 ()して弟妹(チビ)たちを向こう側へ渡らせる……なんてのは論外の沙汰だ。


 それに、この時点で(えつ)(りゅう)(てい)の設計・整備なんぞした日には、即座に塩水が漏れ出すか、さもなきゃ増水時にも水が堤防を越えないかだ。どっちにしたって失敗だよな。


「遊水地の整備は日を改めてやるしか無いか」


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