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七つの国に架かる橋《加筆修正作業中》  作者: くるねこ
番外編 ノクティス
44/60

12






 朝から書類の山の前に座るゲラダ王子はにこやかに私を迎えるが私の顔は機嫌が悪いと言いたげで、


「ノクティスは何で機嫌が悪いんだ?」

「先ほどまではそんなことなかったのですか?」


なんて、聞こえるように言うため顔すら向けてやらないとばかりによそを向く。

向いた先に数枚の写真が飾られており、幼い王子とギーがいた。

私の記憶にあるギーよりももっと幼い、表情もなければ感情もなさそうなその顔はあの、飄々とした態度とは真逆だ。

隣の写真はアヌビス様と一緒、さらに別のモノは最近の写真の様だが、若い女性と写っていた。

なんだ、恋人いるんじゃない。

そう思いながら見ていると


「ノクティスと同じでチョコレートの好きな妹だよ。公務はほとんど不参加で、表に出ることが少ないから知らない人がほとんどだよ。」


ああ、妹がいると言っていた。

リリアもそんなことを言っていた。

彼女が花を飾る区画がちょうど王女の私室も含まれるとかで仕事終わりにお茶をしたり、チョコレートをもらってくるらしい。


「お美しい、妹君ですね。」

「亡くなった母によく似ているから、陛下は嫁に行かせたくないようで、アヌビス様の嫁探しが終わったらオリーブの婿探しが待っている。行儀ばかりで疲れるよ。」

「……母?」


と、口にしてしまったが聞かない方が良かったことだろう。


「ああ、ノクティスの年齢では知らないのか。私の母はアヌビスやオリーブと違うんだ。」

「顔は、よく似ておられると私は思うのですが……」


フォローになっていない。血が半分違うという話をしているんだ。

陛下に似ているのだとしたら当たり前……いや、陛下にはあまり似てないかも、成人の祝いの時に挨拶しただけのため確証はないが似ていない。

隣にいた王妃様にはすごく良く似ていたと思うなんて口にしたらもっとダメだろう。

そもそも、母親が違うにも関わらず、ゲラダ王子の母と似ているとはどういうことだろうか。

なんて聞けばいいか、聞かない方がいいのだろうが、頭の中で言葉を探すがいい物がない。


「私の母と義母は双子なんだ。だから似ていてもおかしくない。」


そういうことか、よかった。

いや、よくはないのだが

「王妃暗殺未遂が起きたとき、母は亡くなり、その意志を継いだのが義母なんだ。陛下は二人とも愛していたし、二人を妃として迎える予定でいたけれどこの国はケティーナの王家と違って一人の夫に一人の妻が基本だからね。義母は母が公務に出られないときの代役として城に使えていたんだけど……ってこんな話をしている場合じゃない。」


 机の上にある箱を一つ取り、私の前で開ける。


「候補といえど婚約者のようなものだ。ぜひ、受け取ってほしい。」


それは指輪であったが、私は、


「仕事の邪魔になりますので結構です。頃合いを見て、辞退いたしますので」

「私の許可なく辞退はできない。」

「では許可をください。」

「やだ。」

「どうせ、クリスタルの情報集めで私にかかわっておきながらまだそれを言うんですか。いいじゃない。候補はたくさんいるんだから私一人当日にいなくなっても!」

「店の改装費を借金にするぞ。王家に借金するんだぞ。」


卑怯だ。

そんなこと言ったら私が黙ると解っている。

改装費用や設備投資についてはオーギュームさんに聞いて、早く売り上げで返済してしまおう。

いつまでも候補ではないと解っているのだから、また、クリスタル付きの侍女にはされたくない。


 手を取られ、薬指に収まる指輪だが、そこから長い物が垂れていた。


「いつもは首からかけていればいい。」


指輪はすぐに外され、長い物、チェーンの留め具を外すと私をくるっと半回転させ、首の後ろで止められた。


 また半回転させられ、持っていた白衣を取られるとそれはオーギュームさんの手に渡る。


「やはり少し動きにくそうだな。丈を短くするわけにはいかないがもう少し動きやすい生地で、仕事着にできそうな物を探そう。」


どうやらワンピースを見ているようだった。


「結構、仕事着はいつもの物がありますし、スカート丈はもう少し長くてもいいと思っていますので」


くるぶしが見えるこのワンピースは私の中では短い。

生地がしっかりとしているため風に揺れるということもないのだが、自転車では心もとない。

やはり、あのズボンが楽だ。


「そうか。仕事着を統一し、城の灰魔術師も同じ物にしようかと思っていたんだが、やはりあの服の方が動きやすそうだな。」


あの服、スカートのようなズボン。

生地が薄手のため横幅のあるズボンはスカートと間違えられることも多い。

ゲラダ王子にも一度聞かれたことがある。

最近では布屋で薄い生地を買って少しだけ縫い、腰ひもで結ぶだけの巻きスカートのような、簡単なデザインも思いつき、着替えが楽になった。


「灰魔術師の方が私ほど動き回るわけではないようなら私を基本にしないでください。」

「さっきからよそよそしいな。」

「一発殴っていいなら元に戻しますが」


今度はゲラダ王子が顔をそらす。

思い当たる節があるのだろうからそういう顔をするのでしょう。

と、笑みをたたえていると


 「ゲーラ、書類不備……なんだ、ノクティスか。」


そういいながらノックもなしに入ってきたのは金色の髪が鮮やかなギーだった。

今まで茶色い髪だったと思っていたが急に脱色したのかと驚くが、それ以前に


「あなた、ちゃんとお屋敷を抜けて来られたのね。」

「あ、やっぱりお前が閂外したのか。」


あの後妻は何なの? 


と、言いたいところでやめる。

第一王子付きの公爵家の娘だった。

ここにはゲラダ王子がいる。


「グローリア、ノックをまた忘れているぞ。あと候補とはいえ王妃になる方だ。もっと言葉を丁寧に」

「こいつには無理ですよオーギュームさん」


ギーがグローリアと呼ばれていた。

そしてオーギュームさんにさんを付けていた。

私の知っているギーはノック無しにドアを開けた彼だが、ここでは屋敷のギーではなく、王家につかえるグローリア、まあ、態度はあまり変わらないが


 「二人とも、ノクティスが驚いている。ギーは実は私の部下で」

「知っていますので説明は結構です。」


時計を見ると開店時間を過ぎている。


「店があるので戻ります。」

「昼食は一緒に取れるか?」

「結構です。」


聞かれた言葉を拒絶で返すと王子は肩を動かし、残念だという動作をする。


「夕食前に候補を集め陛下の前へ行く、それなりの服装で頼むが、気張る必要はない。」

「かしこまりました。少々遅れる可能性もございます。その際は先に進めていただき、ぜひ候補から外してください。」

「借金。」

「詐欺師グローリアにでも請求してください。」

「何を⁉ なんで⁉」

話を知らないギーが大げさに反応するが無視して部屋を出る。

ドアを出てから白衣を忘れたことに気付くが夜も来るならいいやとあきらめる。


 なぜかついてくるギーは書類不備で来たのではないのだろうかと思いつつ、迷子にならないためにはいてほしい。


 「なんで俺が地下にいるってわかった?」


その質問には答えません。


と、言いたげに無言でいると


「あの日屋敷に来たなら会ったんじゃないか、後妻の奥さまに」


それも無言だ。

話を始めると確実に閂の話に持って行かれる。


「お嬢様は今日の午後到城予定だ。嫁入り道具持参で来るらしい。」

「まだ決まってもいないのに、気が早いこと」

「どうやら後妻(奥)様(様)が勝手にいろいろ用意をさせたようだが、公爵家が一枚かんでいるのは明らかだ。気を付けろ。あの家は表向きは貴族平民奴隷の身分に寛大だと、陛下の意志に賛同しているということになっているが実態は差別ばかり、使用人もいい家の産まれしか雇わないし、金に物言わす。島の外からピスティアではない馬まで仕入れて、身分以外でも人種差別もする。俺たちはあの家に取ったら醜い生き物なんだよ。」

「貴族の中でも思想が違うのは仕方ないことよ。それをすべて排除していたら国が動かなくなるわ。気を付けるのはあなたの方よ。王家の使いとばれ、屋敷を抜け出し、旦那様の何を暴いたかは知らないけれど、このままクリスタルが王妃になれば、その先待っているのはおそらく死刑よ。」


脅しではない。

国の歴史書には女王が気に食わないといったそれだけで死刑になる。

王家が法であった時代の話だが、法は王家が決めるモノ、いつでも、何とでも変えられる。

逃げるのならば国外へ、対国まで行けば死刑宣告されていなければおそらく助かる。

隣のナトラリベスへ行けば島の外へ出られるだろう。


 門まで迷わず到着したためギーに軽く手を振り、急ぎ足で店に戻った。


 店前には客が数名並んでおり、


「どこ行ってたんだ。仕入れで何かあったか?」


王妃候補なんて一言も言っていないし、言いたくもないため城から出てくるところを見られなくてよかったと思いつつ、


「ちょっとごたごたがあったの。すぐに開けるから中で待ってて」


待合用に可愛らしいソファーや椅子もあり、カウンターにも椅子を置いたため入ってきた順番にカルテを並べ、必要な薬を出していく。


 朝できなかった配達へ昼過ぎに客が引いたため出発しようとして着替えていなかったことを思い出す。

ズボン姿に着替え、自転車の後ろに乗せ、出発すると見覚えのある馬車が通る。

スペールディア家の最高級の馬車である。


 その後も度々馬車数台とすれ違った。


 思ったよりも順調に終わり、ブルーグレーのドレスに着替えているとお客が来た。

上から白衣を着なおし、接客する。

その後も数名お客が来るため出る時間になってしまったがあきらめた。


 もう夕飯が始まっているような時間、陛下への謁見をドタキャンしてしまったことは良心が痛いが、お客が優先だ。


 お客も引き、荷物を片していると門番が顔を出した。


「どうかしました?」


また脱水かと思ったら


「ノクティスさんを連れてきてほしいとゲラダ王子から伝言でして、店が忙しそうならいいが、戸のことなのですが……」


俺としては命令だから連れていきたいのだという顔をしていた。


「もうすぐ出られるので補給水でも飲んで待っていてください。」


そういうと慣れた手つきで蛇口をひねり、コップに注いで飲み干していく。


 荷物は何もなく、店に鍵をかけて看板を閉店、外出中に回す。


「もし、急患が来たようなら呼んでください。王子に遠慮せず」

「はい。」


門まで歩くとそこにはギーとオーギュームさんがいた。


「お待たせしました。」

「待ちました。」


ギーが言うのに比べオーギュームさんは気にせず一礼すると案内してくれた。


 「陛下の都合で謁見は夕食後になっております。」

「そうですか」


会わないなら会わないで帰りたかった。


「陛下より、通行許可証も出ますのでそれがあれば門番に何も言わずとも出入り可能です。」

「便利ですが、そんなもの渡してしまっていいのですか。」


王妃候補になり、暗殺を企んでいるなんてこともあり得る。


「貴族当主は全員持っていますし、兵や使用人も持っています。さほど問題ではありません。このご時世ですし」


平和な世の中だもんな。


 謁見の間までまっすぐ行くあたり、やはり夕食は終わったのだろう。

家に帰って何を作ろうかと考えてしまう。

目の前の大きな扉が開くと


「王妃候補、ノクティス様をお連れいたしました。」


オーギュームさんは私に付いてきてくれたが、ギーは扉の外で姿を消した。

当たり前か、ここにはクリスタルがいる。


上座に座る陛下と王妃様、椅子はあるが不在の王子、王女と、上座へ上がる階段の途中で立ち尽くしたようなゲラダ王子。


 クリスタル候補は陛下の前に並び、その後ろに数名の使用人を付けていた。

門番に言われたことの意味が分かった。

貴族の娘だろう者は服装で解る。

庶民産まれも服装で解る。

特に使用人として付いているだろう同年代の女性たちは使用人の服装ではない。

この中で、使用人を付けていないのは私だけ、元使用人としては気が楽だ。


 候補の列に並ぶとひそひそと平民産まれの女性が後ろに控える友人たちと話をしていた。


「誰も連れてない。」

「少なからず二人は自分でつけるようにってあったよね?」

「王妃になりたくないわけじゃあるないし」


なりたくないとも、それに最低二人なんて知らない。

ゲラダ王子の口からきいただけだからそんなこと言われてないし、連れてこれる人もいない。


 「これで全員です陛下。」


ゲラダ王子がそういうと隣でオーギュームさんが何か耳打ちをしてきた。


「白衣をお預かりします。」


そう言われ、急いで脱いで渡す。

店に置いてくるのを忘れていた。

ここに来る途中で言ってくれればいいのにと思っているとゲラダ王子が私を見て笑っている。


忙しかったんだよもう!


「ゲラダの妃候補たちよ。これから城で生活し、公務などの仕事にかかわることもあるだろう。国民の代表である意識を持ち、ゲラダをよく支えてくれ。」


その言葉に皆がカーテシーをする横で深々とお辞儀をする。


 その後王子の手から通行許可証を渡され、城にいる間は首から下げているように言われる。

一日に二回も首から下げるモノを受け取る日なんてないだろう。


 謁見が終わり、各自の部屋への案内と使用人は仕事の説明を受けるらしいのだが、


「失礼いたします。ノクティス様、至急、お戻りください。」


門番が急いだ様子で現れた。


「失礼します。」


勢いよく頭を下げ、扉に向かって走る。


「こちらを」


そう言って渡されたのは昼間に忘れた白衣だった。


「ありがとうございます。」


受け取り、羽織ってから


今渡した白衣は?


 なんて聞く余裕もないため急ぎで城の中を進み、店に戻る。


 「どうされましたか?」

「急に、胃が、気持ち悪くて、痛くて、腹が……」


脱水だな。

夜はよくある。

夜中に水分を取らずにいると急は腹痛や吐き気で目を覚ます。

この人物はカルミナの国民ではなさそうだ。

きっと水分をあまり取らずに一日過ごしていたのだろう。


「大丈夫ですよ。すぐに用意しますから楽な体制で待っていてください。」


点滴を用意し、地下に汲んである冷やした水でタオルと絞り、近くに置いてあるこれまた水の入った瓶をいくつか持って戻る。

タオルで体を拭いて、よく冷えた瓶を脇や足の付け根に挟む。


 気づくと気絶か、眠ったのか、規則ただいい呼吸になり、顔色もよくなる。

脱水の客はよくくるため寝かせておくベッドもあるのだが今日はもう客も来ないためこのまま寝かせておこう。

朝に仕入れた分を整頓してしまっていないし、納品分も作っていない。

様子を見ながら作業しよう。






 数日たって、王妃候補が城で生活を始めたようだという話は町でも話題、どこの家の娘か、どこの貴族の令嬢なのかと立ち話を始めると店の中でもお構いなしで長くなる。


「ここは食堂じゃありませんよ。」

「あらごめんなさい。」


にこやかに帰っていくから人が良い。


 閉店作業をして、夕飯を城で食べて、店に戻って、納品を作って、寝る。

そんな日が続いている。

城の私室を使うことはなく、何だったら店が忙しくて門番さんに


「今日は無理です!」


と叫んで、夕飯に出席しない日の方が多いかもしれない。

遅れての参加も多く、だいたい皆が食べ終わるころに入っていくため別席となり、皆がどんな話をしているのかなんて全くわからない。

そのためか


「ノクティス様のみ、ドレスの注文がまだ出して」


と、オーギュームさんがやってきたのはもう晩餐に間に合わないからと納品作業に入っていた時だった。


「ドレスって何ですか?」

「妃候補のお披露目パーティーです。王子の好意にしている方を中心にお招きします。日程はこちら、ドレスの注文をしなくてはならないのでご希望があれば、伺えますか?」


ドレスの希望か。

クリスタルに作ってもらったものよりもシンプルなのが良いのだが、


「軽くて、楽な物で、シンプルな、飾り気のない物で」

「先日切られていたような?」

「できたらあれよりもシンプルが良いです。スカートに布をふんだんに使うような物は動きにくくて、ここに呼び戻されても何もできませんから」


そう言って作業の手を進める。


 「そちらはすべて注文ですか?」


カウンターに籠が七つ、明日配達する先別に作ったら籠へ入れていけるようにと並べてある。

中には注文の伝票も入っており、オーギュームさんが覗く。


「そうです。移転してから配達が増えて、毎日徹夜です。」

「それで、朝食の席には来られないのですね。」

「朝食ですか?」

「何も聞いてませんか?」

「夕食だけでも来るように言われましたがそれ以外は……」


何かまずかっただろうか。

ゲラダ王子も忙しいのかこの店に顔を出したことはない。


「いいえ、私室を使われた形跡もなかったのでまさかとは思いましたが夜もこちらで?」

「この通り」


これ作り終わったら寝ます。

と、言う顔をするとオーギュームさんはなんだか頭を抱え始めた。


「説明が足りず申し訳ありません。そうですよね。ノクティス様は謁見直後に緊急でもどられたのですもんね。」


何だろうかと思っていると作業をしながらでいいからきいてくれといわれる。


 まず、候補は皆、私室が与えられ、そこにある物は自由に使える。

連れてきたメイドの他、城から三名のメイドが付くこと、生活に不便があれば好きに物を後宮してもらってよく、数日後にお披露目パーティーがあるためドレスの注文を早めに出してほしいとのことだったらしい。

私付きのメイドは毎日私室の掃除をしてくれているらしいが全く変化がないため一昨日ぐらいにクリスタルが呼び止め、自分の手伝いもしてほしいと言い出したとかでそちらに向かったらしい。

必要ないため、自分で時々片しに行こう。






 それからというもの、なんだか客入りが増えた。

評判だといわれるとうれしいが納品が間に合わなくなるのではないか、材料が足り舞くなるのではないかとぎりぎりの日々が一か月ほど続いた。

近いうちにあると言っていたパーティーについて何も言われない。

と、言っても、私が全く城へ立ち入ってないからだろう。

そのせいか、時々門番が様子を見に来てくれる。

忙しいため補給水も持って行けない今、勝手に飲みに来てもらう状態だ。






 今日はやっと落ち着いた。

客は引いたが夕方の今はご飯時ということもあり、一時的に手が空く時間でもある。

市場も飲み場へ変わっていく時間、材料屋はもう閉まってしまっただろうか。

確か少し離れるが卸問屋があったはず。

量が多くなるがそこまで行こうか。

でも、量が多いと種類が買えない。

悩んでいる間にドアが開いた。


「いらっしゃいませ。」


入ってきたのはスモックを着た若い男性が二人来た。


「ノクティス様でよろしかったでしょうか?」


何だろう、嫌な予感がする。

嫌ではないが城でほくそ笑んでいそうな男の顔が容易に想像できる。


「そうですが、そのスモックは城の灰魔術師見習いの方ですか?」


第二門を過ぎたところで時々見かける服装、オーギュームさんに聞いたら見習いだと言っていた。


「はい。ゲラダ王子から明日よりここを手伝うように言われまして、挨拶に参りました。僕はシルバ」

「自分はモウスといいます。よろしくお願いします。」


勢いよく下げられた頭、年齢は十五歳から十八歳といったところだろうか。

テリーではなさそうで、人間の様だ。


「よろしく、来てもらったのはすごくありがたいのだけど、急にどうして?」

「ゲラダ王子が全く合う時間が取れないとおっしゃり、一番下っ端の自分たちを手伝いにもらいたいということで、何もまだできないのですが、よろしいのかと聞いたらノクティス様の近くで薬をつくるなら、予備知識がない状態の方が覚えやすいとおっしゃられて、それで」


モウスが説明してくれた。

ゲラダ王子も心配してくれたのだろう。


 「そうだったの。今日は難しいけど、明日からは夕飯に間に合うように調整するわ。」

「よろしくお願いします。今日は何かすることございますか?」


モウスはなんだか堅苦しい気がする。

そうだな。

仕事頼みたいのは仕入れだが、


「でも、仕事が明日からでしょう。今日は挨拶に来てくれただけでいいわよ。あたしはペンとノートを持ってきてくれればあとは往々説明するわ。」

「……解りました。では、明日また来ます。」

「お疲れ様です。」

「お疲れ様。」


 二人が帰っていくのと入れ違いで客が数名入ってくる。

仕入れには行けそうにない。

材料がぎりぎりだが、納品分はある。



 翌朝、仕入れに時間をかけたかったため納品を早めに終わらせよう。


 大きな病院は深夜も人がいるため、早朝でももちろん誰かしらいる。

小さな病院は深夜いないことも多いがだいたいが自宅兼病院も多く、診察準備で朝早い時間にはもう起きている。

貴族の屋敷も同様、使用人は早朝には出勤、起床し、主人のために準備しているため早くから伺っても問題ない。


 市場が出るのは畑の収穫後、漁から戻ってきてからということもあり、配達を早めに行っても食品はない。

でも、薬草などの材料屋は乾物が多く、卸問屋が小分けで販売してくれる。

早朝でも確かテントを出していたはずだ。


「おはようございます。」

「おはようノクティス、今日はいつもより早いな。」

「材料が底をつきそうなんです。今日は多めに買いたくて」


メモを見せると顔をしかめられた。


「いつも同じような物がなくなっていくな。砂糖や塩をこんなに使うことあるか?」

「補給水を作っているので消費が早いんです。」

「これとか、これも、よく買うなら大袋にしたらどうだ?」

「自転車に乗りきらないので持ち帰れないんですよ。」


自転車を見ながら言う。

荷台に棚を付け、納品場所別の籠が積めるよういにしてあるが材料は乗せにくい。


「当日は無理かもしれねえがこうして来たときに言ってもらえればまとまった数なら届けるぞ。城への納品もあるから、目の前ならついでだ。納品は毎日あるしな。」

「いいんですか?」

「ああ、配達料は少ない時はもらうが、多ければサービスだ。」

「ありがとうございます。助かります!」


今日は必要な物を買い、明日からは見習いたちにメモを持たせてお遣いに来させよう。

ついでに食品も買ってきてもらえれば朝食をもう少し凝った物が作れる。

最近はサンドウィッチばっかりだ。


 食材も買い、急いで店に戻る。







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