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目をつむっている間に寝てしまったのか、気が付かない間に机の上には飲み物と軽食が置かれていた。
腕時計を見ると三時間ばかし立っていた。
飲み物には結露が付いており、冷やした飲み物を用意してくれたのにすっかり温く、水っぽくなっていた。
気分は大分良くなった。
めまいはない。
立ち上がると体のだるさはあるけれどこれなら帰れるだろう。
パーティーは明け方までの予定、途中で帰る客も少なく、馬車の渋滞はないはずだ。
お屋敷の者に見られることもないだろう。
クリスタルに一言かけたいが会場に戻れる気がしない。
机に置かれたベルを鳴らすとすぐにメイドが来てくれた。
「いろいろ用意していただいたのにすみませんがだいぶ気分も良くなったので帰ります。迷惑をかけてしまい、申し訳ありませんでした。」
「いいえ、ご一緒に来られたスペールディア家の令嬢に何か伝言はございますか?」
「先に帰るお詫びと、羽目を外しすぎないようにと」
「かしこまりました。ご自宅まで護衛を一人置付けします。少々お待ちください。」
メイドはそういうと部屋を出ていった。
護衛を付けるほどの人間ではない。
断るタイミングもなく、一人で帰って途中で倒れてもきつい。
ここは言葉に甘えよう。
そう思い、待っていると部屋がノックされる。
「はい」
返事をし、ドアが開くとそこにはゲラダ王子についていた側近の羊のテリーがいた。
「ご気分はいかがですか?」
「はい、おかげさまで幾分楽になりました。」
「遅れましたが私はゲラダ王子側近、オーギューム。以後、よろしくお願いいたします。ノクティスは薬屋で寝起きされているというお話ですがスペールディア家へお送りせずともよろしいですか?」
「はい。薬屋までで大丈夫です。よろしくお願いいたします。」
城の裏口から出ると教会のすぐ脇に出た。
ここを通るからゲーラ……ゲラダ王子はちょくちょく店に来ていたのだろう。
ここに出るのなら薬屋なんて目の前だ。
「ここまでで大丈夫です。」
「いえ、王子から家までしっかり送るように、家の灯りが消えるまで見て帰るように言われていますので」
「そう、ですか……。」
次合うときは殴ってやろう。
お茶にすごく辛い物を入れてやろう。
クッキー味無しにしてやろうなんて思いながら店に入ると
「あら、早かったのね。って、顔色悪いわよ。閉店準備は終わってるからもう寝なさい。」
「今日も着てもらってありがとうございました。」
看護師を見送り、高い位置でまとめていた髪をほどくとさらに楽になるが癖がすごい。
オーギュームさんは店の中を見渡し、
テキストの山を見たり、
小物入れにしているチョコの箱を見たり、
ドライフラワーになった花束を見たりと
何か物珍しい物でもあったかと思ったが、すべてゲラダ王子からの貢ぎ物だった。
そのゲラダ王子も目的はクリスタルだったと聞くと私は外堀を埋めるために親しくさせられていた、ギーだってもしかしたら、昔からクリスタルと決めていたのかもしれないと思うと頭が重くなっていく。
「早くお休みください。」
この人はギーのこと知っているのだろうか。
ギーが屋敷で捕まっているといったところで信じてはもらえないだろうか。
でも、お屋敷のことなら把握していると思われるかな。
でも、あの女性が誰だか私は知らないし、そういえば、この力のことは他言できない。
ギーには悪いが今は様子を見よう。
体調が戻ったらお屋敷に行こうと決め、オーギュームさんに寝るというと店を出ていったため鍵を閉め、電気を消すと奥の納戸の電気を付ける。
着替えも全部置いたままのため結局行かないとなと思いつつ、パジャマに着替えてベッドに横になる。
気が付けば朝だった。
疲れているのだろうか。
確かに試験勉強で徹夜していたこの一か月、近況一週間はパーティーのためにダンスの練習やマナーの確認をしていったためお店の閉店も気持ち早くし、スペールディア家でレッスンを受けていた。
娘とともに行く付き添いも招待されている以上、家名にかかわることだからとレッスンの先生もつけてくれたが私は確認だけでだいたい終わる。
ダンスのステップはクリスタルほど練習もなかったため以前よりも厳しい先生に試験や歩幅を注意された。
背すじはいいようで安心したがヒールの靴になれていないためつま先も踵も痛かった。
これからはいつも通りに戻さないと、もうすぐ合否の通知も来る。
今日も一日いつも通り、あっという間に終わり、お屋敷へ行く足が重い。
お屋敷に入ると知らない女性がいた。頭を下げると
「元奴隷の娘ね。クリスタルをよくああも育てたものね。」
私が育てたわけではない。
育て方なら旦那様に行ってほしいと考えているとこの人、第一王子に就く公爵家の末の妹だった気がする。
ゲラダ王子の婚約者候補の筆頭ではあったが本人たちの気が合わず、幼いころにその話は無くなった。
クリスタルと三つしか変わらない女性。
なぜ、そんな人が後妻に入ったのだろう。
しかも二つも階級が低い伯爵家へなんて、これこそ、外堀を埋めに来ているとしか思えない。
伯爵家からでも十分王家に嫁ぐにはふさわしい。
平民ですら相手が第一王子、王位継承者でなかったら嫁げる文化のある国だ。
近いうちに旦那様の階級も上がるかもしれない。
メイド長とともに行ってしまう後妻様を見送り、クリスタルの部屋へ入ると誰もいなかった。
「あの子は?」
通りかかったメイドに聞くと
「昼に起きてからすっとエステとサウナを行っています。」
やっとやせる気になったのか。
令嬢たちとずいぶん体系が違うということに気付いだのだろう。
「じゃあ、ギーは?」
そう聞くと肩で大きく驚くメイドは
「……昨夜旦那様に急に解雇を言い渡されてしまい、もういないのです。申し訳ありません!」
小走りで行ってしまった。
エステ室へ顔を出すとつやつやムチムチの体のクリスタルがいた。
「あ、ノノ。もう大丈夫なの?」
「ええ、先に帰ってしまって、大丈夫だった?」
私よりあなたの方が心配よ。
「実はね。王子に婚約者候補の一人として城に来てほしいって言われたの。あ、ノノもよかったら一緒にって」
「いやよ。店があるんだから一人で行って頂戴。」
「でも話し相手いないし、ほかにも五人いるらしいから早く蹴落とさないと」
ため息をつき、部屋を出る。
蹴落とす必要はない。
自分がいかにゲラダ王子を愛し、国民を愛し、国益のために働く意思があるかというのを見せるために集められるのだ。
それをわかっていないのかとため息がまた出る。
昔のひとめぼれの方がましだった。
あれでは王子を愛していても国民は愛していないだろう。
クリスタルが選ばれる場合は、それだけゲラダ王子が惚れこんでいる場合のみ、ほかの候補とどれだけ親しいが知らないが早々に退散することになるかもしれない。
裏階段を上がり、使用人部屋を覗くがギーはいない。
空き室を見るがいない。
やはり地下だろうかと見に行くが地熱でムンムンと蒸し暑い地下室は現在使われていない。
でも、目の前のドアは閂がしてあった。
閂を外して私は帰ることにした。
声をかけて余計な勘繰りをされたくない。
使用人の誰かが助けてくれたと思ってくれればいい。
それから数日。
平和な日常が続き、お客以外の訪問者はなかった。
の、だが、
この日は朝早くに設計図を持ったゲーラ基ゲラダ様がずっとしゃべっている。
殴ってやろうと思ったが相手が王子である居間、殴ると捕まる。
いや、普通に殴ってもつかまるが民事で終わるはずだ。
きっと。
王子は入ってくるなり、要件を言い始めたため半分聞き流していると目の前に設計図が広がった。
「お願いだ。妃候補として城に来てほしい。」
「クリスタルに近づく口実に使われていた身としては候補にしちゃったんだからもう必要ないでしょ。」
「だから、それは誤解だって」
「お店もありますので起き引き取りください。」
「営業時間中で申し訳ないと思うが今は客がいないだろう。」
「王子がいれば入ってきにくいです!」
「俺はそこまで嫌煙されるような王子でいたつもりはない!」
どうだか、王子というだけで人が群がり、皆が敬う存在なのだから嫌煙はせずとも恐れ多いものだと思う。
「あと、この店はもう危ない。いつ崩れてもおかしくない。候補になれば移設の補助金を出す。納戸ではなくて店の裏に私室を設けるし、作業台も大きくなる。薬棚だって」
そう言われると気持ちが揺らぐ。
確かにこの店はもう長くはないだろう。
強風ですらきしむ音がするし、最近マグマの動きが活発なのか振動が良くおこる。
そのたびに足りない収納に押し込んだものが落ちたり、本が倒れたり、入りきらない薬草がつるしてある紐が切れたり、この前も薬研が落ちてかけてしまった。
「場所は城門前、そこなら警備の眼もあり、防犯面もいい。ここからもそんなに離れていない。客層も変わらないだろう。」
そう言われても、ここを離れるのかと思うとなんだか気が引ける。
「老夫婦の思い出もあるだろうが君の命と客の命がかかっているのだ。これからは白魔術師の見習いでもあるのだからそれなりの設備も必要になる。」
聞き捨てならないことが聞こえた。
「私、合格したの?」
「その合格に貢献したのは誰だ?」
ああ、もう。
いいよ。
なんでもいいよ。
目の前に合格証などもろもろが置かれていく。
「わかったから、もうあなたの好きにしなさい。任せるわ。」
なんて、なんで言ってしまったのだろう。
「こちらが新たな店舗になります。引っ越しの作業は閉店後に少しずつ行いますか? それとも一日にまとめて?」
「あー、そうですね……。移転の告知はしていないので、まだ移動させるわけにはいかないのですが、少しずつとなると材料や道具が……」
なぜかオーギュームさんが引っ越しの相談に来たのはゲラダ王子が帰って行った翌日の閉店後、主人が昼間に申し訳なかったという謝罪の後に引っ越しの相談がどんどん進んでいく。
「では、王妃候補の到城までまだ一か月ありますので予定を組んでいきましょう。広告による告知で知らせる方が――」
「いえ! 広告なんて大それたことしなくても町中で会いますし、一か月の間に来店する人は多いですから、それでも伝えられなかった方には手紙を書きますし」
「人手が足りなかったら言ってください。お手伝いいたします。」
「何から何まですみません。」
店舗は私があわただしく仕入れと配達にしか行っておらず、ショッピングもまともにしていなかったこの一か月の間に完成していたらしい。
まるで私が断らないと断言されたかのようで癪に障る。
とはいえ、店の中は広く、収納も多い。
作業台も広く、薬棚の引き出しも増えた。
平屋作りかと思ったら上にも下にも階段があり、
「店舗上には洗濯場と部屋が二つ。地下には倉庫として使えるだろう部屋が用意してあります。」
と、いうことなので、地下から見に行く。
もともと、ここは国所有の他国の特産品を扱う店があったらしいが客入りはなく、輸送費で少し高い。
庶民でも小旅行で隣国へ行くこともできるし、貴族なら自分でほしい物を選んで買ってくるだろう。
観光地として盛んなカルミナでは一日に一人来たら良い方だったような店を改装する形で薬屋を作ってくれた。
熱気こもる地下室を倉庫として使うのは薬屋には向かい。
そう思っていたが
「涼しい。」
少し寒いくらいだった。
「ここは王宮の地下までつながるマグマの通らない道の始まりで王宮より少し気温が高いですが薬草でしたらこのくらいでも問題ないかと」
「はい。十分です。」
換気窓が一つあり、覗くと店の裏側が見える。
城前は石作りの道でレンガに比べて厚みがあるせいか、建物の入り口の位置も少し高め、一般の道に面する裏口などでは低く感じる。
その高低差は店と私室の境目に三段の階段の仕切りで分かれているようだった。
地下の天井も階段付近を境に天井が少し低くなったが歩くのに支障はない。
三段の階段を下りる前に二階へ上がる。
屋上というには低いが洗濯を干すには十分、贅沢にもガラス張りでできていて洗濯を干す以外にも温室として使えそうだった。
二部屋は日差しもよく入るため、そのうち下働きでも見習いでも迎え、住まわせることもできそうだ。
そして私室へ向かう。私室も二階建てで洗濯場を通って店舗上の部屋と行き来ができるらしく、そのまま私室へ向かう。
家具はすでにそろえてあり、大きなベッドに浴室はカルミナならではの温泉、クローゼットには町歩きにちょうどいい少しおしゃれなワンピースが数枚と白衣も数枚入っていた。
さすがに仕事着などは今ある物を使うとして城へ行くのにそんな恰好ではいけない。
そもそもズボンだし
「こんなものまで用意していただいて……」
「王子が勝手に選んだものなので気に入らなければ捨てるなり、必要な方に差し上げるなり、好きになさって構いませんので」
「さすがにもったいない。」
それに、気に入らない物ではない。
私の服装を見ることの多かったゲラダ王子だからこそのチョイスだろう。
派手でもなく、地味過ぎず、単色で私が好きな紺色や深緑といった色が多いが白や明るいグレーのワンピースもある。
寝室から階段を下りると中二階という場所だろうか。
店の階段より半分ほど下りたところに机や本棚が並んでいた。
本はもう入っていて開くと薬草や医療とは関係のない小説だった。
王室の歴史や島・他国の歴史書もあり、人のことをちょうどいい橋渡しにしておいてこんな本を置くなんて、と思いつつ、興味があるのは確かだ。
特にウィーンドミレに関して、母が教えてくれなかったことも知りたいことはある。
机には真新しいペンにインク、レターセットが数種類、紙やファイルも近くの棚に入っている。
中二階から降りるとリビングで大きなソファーとダイニングテーブルのセットはともに四人掛け、そんなにここに人を呼ぶ予定はないのだが、と、思いつつ、中二階下にあるキッチンを覗く。
老夫婦の店にあった簡易的なキッチンとオーブンに比べしっかりとした設備で私は料理人かといいたいが、この話がオーギュームさんには通じないため抑える。床がさらに低くなっており、なんでかと思っていると裏口のドアを開けて分かった。庭である。
家庭菜園や植木を育てることもできるだろう広い庭があった。そこにも四人掛けの丸いテーブルとイスが置かれている。
中に戻り、食器棚を見ると四人分用意されていて、ふと、私とゲラダ王子とギーの分かと納得する。
三人分揃えるなら四人分予備である方がいいと思ったのか、それとも四つセットなのか知らないが想定人数が分かった。
それならダイニングテーブルの椅子もソファーのサイズもわかる。
オーギュームさんに店まで送ってもらい、告知の看板を出す。
老朽化に伴う移転。
日取りは一か月後、病院の方にも相談してしばらくは一人借りておこうかなと考えつつ、借りるなら城にいるという見習いにしようかとも思うが個人によって作り方は違う。
特に王宮の灰魔術師は国王陛下や王子たちも口にする物を作るため私が使う物より幾分高級な物を使っているだろう。
その証拠に王室御用達の薬屋は貴族が使うような高い店だ。
本格的な引っ越しをする前に材料を多めに仕入れ、向こうの店舗へ置き、どちらでも受け渡しができるようにしようか。
悩む。
この店舗は貴族の生活区に近いこともあり、王室御用達の薬屋が使えないがその周辺に住んでいるような人の利用が多い。
店舗の移動で困るのは貴族街に隣接した場所に暮らす人、そういう人達はだいたいが使用人やその家族。
旦那様のように良い貴族の家に使えると旦那様や奥さまの計らいで白魔術師に見てもらい、灰魔術師が薬を届けに来てくれる。
私も何件か回っている。
配達には少し遠いがお客の生活圏を思うと移転は悪い話では全くない。
告知を書きなおし、二週間後から半分ずつ営業すると書く。
確か、度々頼んでいる看護師が寿退社すると言っていた。
一か月ぐらい手伝ってくれるだろう。
連絡を取ると早めの退社をしたそうですぐに手伝ってくれることになった。
「急によかったんですか? 病院の方も」
「実は妊娠して、安定期に入ったこともあって続けようと思ったんだけどどうも腰痛に時々目眩もあって、続けるの難しいかなって思ってたのよ。でも、出産にはそれなりにお金かかるし、旦那の稼ぎだと自宅出産になりそうだしね。声をかけてもらってよかったわ。」
「知らずにいろいろお願いしてしまってすみません。」
「いいのよ。気にしないで、ここなら座っていられるし、旦那が職場近くだからちょこちょこ様子見に来るって、病院ではできなかったからって」
心配でも病院にいるなら安心だと思うのだが、何て口にしないがそんなこと言いたげな顔をすると笑われる。
「今まで通り、常備薬は棚に入っていますし、話の長いお客はすぐに返しちゃっていいので、何だたら私のいる方の店舗へ案内してもいいですし」
「わかったよ。それじゃあ、あまり使わない物から移動の準備しましょうか。」
いくつかの籠を用意し、荷物を詰めていく。
家具という家具はなく、作り付けの棚に押し込んでいる物が多いためそれを一つ一つ出して、捨てる物と持っていく物に分ける。
その間にもお客は来るため応対し、作業に戻る。
ゲラダ王子はあの日以降来ない。
クリスタルの機嫌取りでも、もしくはほかの候補のところにでも行ってしまったのだろう。
半分営業に移り、納品の薬を作る作業が格段に上がる。
作業台の上いっぱいに道具を出していてもどれも邪魔にならない。
材料を乗せるワゴンもあり、至れる尽くせり、ゲラダ王子も白魔術師であるからに、必要な物や同線は解っているのだろう。
「いらっしゃいませ」
「いつものこっちにあるか?」
「大丈夫ですよ。」
湿布のおじいちゃん。
この店のすぐ裏におばあちゃんと住んでいることもあり、楽になったと一番喜んでいるような気がする。
数名の常連、時々来る客に混ざり、新たな顔の客も来るようになった。
城周辺は薬が高い、粗悪品も多いといわれているため評判を聞いてきたと言われるとうれしい。
以前の店舗も少しだけ客が来る。
移転のお知らせをいつの間にか広告として小さな紙に判で押されたものをオーギュームさんが届けに来た。
伝えていなかったにも関わらず両方の店舗が営業中という辺りも書かれていた。
広告の紙を渡し、移転を知らせていくと一か月経った頃にはほとんど客はこなくなった。
表の看板を見て、新店舗へ来る人も多い。
「もう手伝わなくていいの? 引っ越しもあるでしょ」
「はい。でもこれ以上は旦那さんの心労の方が心配なので」
一時間に一回見に来るという旦那さんは少しやせた気がする。
だからこれ以上はお願いできない。
引っ越しもあと少し、一人で何とかなる。
移転日前日の夜、まるで夜逃げの様だと思いつつ、荷物を荷台に乗せていくが一回で運ぼうとした私がばかだった。
重くて動かなくなっていた。
「何やってんだ?」
聞き覚えのある野太い声はキノミだった。
一緒にいるムシコブも手を挙げて挨拶してくる。
「二人とも何しているの、こんな時間に」
「リリアから明日が王妃候補が城に上がる日だって聞いたから引っ越し代返だろうなっておもって、手伝いだ。」
「ありがとう。助かるわ。」
荷台を二人が引くと簡単に動く。
「荷物はこれだけか?」
「うん、あとは必要な時に取りに行けばいいし、もう運び込んであるから」
「なんだ。一足遅かったのか。」
ムシコブが残念そうに言うが
「いいえ、十分助かってるわ。私ひとりじゃ、この荷台動かなかったもの」
「こんな軽い物が動かないとか、ひ弱だなノノは」
いいえ、キノミが屈強すぎるんです。
私は普通の体格です。
と、言いながらすぐに新店舗についた。
「きれいな店じゃねえか」
「ゲラダ王子が建ててくれたからね。門番さんたちともずいぶんと仲良くなったわ。」
補給水を時々差し入れる。
一度具合が悪いと城の医務室より近いからと店に来た門番の一人を休ませた。
熱気が町中は少ないとはいえ、蒸し暑いこの国ではただ立っているだけでも倒れる。
補給水で回復したため一日二回、朝夕で交代しているため持って行くようにしている。
この補給水用のタンクが店に設置されており、蛇口をひねればいくらでも飲める。
残量もわかりやすくなっているため補充もしやすい。
荷物を運びこみ、夕飯の残り物だが煮物を持って行ってもらった。
翌朝、片付けは中途半端、でも睡眠は大事だし、仕入れへ行かないといけない。
仕入れの後に謁見するとして今日は紺色のワンピース姿に白衣を着て自転車に乗って市場へ向かう。
市場で薬草などを買って帰り、一端店に置くと開店にしてしまうのだが、外出中として城へ歩いて向かう。
徒歩十歩もないのだが、門番に挨拶をし、簡単には行ってしまうがいいのだろうと思ったが、城の広場といくつかの建物は一般開放地区で王室主催のパーティーもここで行われる。
その奥に城があるのだが、手前は主に執務や国立図書館などがあり、身分証がある人しか入れない。
後ろ側の背の高い建物が王家の住まいである。
候補の私室もそこに設備されているという。
二つ目の門で候補選出にあたる書状を見せようかと思ったらすんなりと通された。
「そんなに簡単に通していいんですか?」
つい、聞いてしまうと
「白魔術師様ですよね?」
白魔術師は国家公務員のため全員もれなく登録されている。
その証明には狒々の横顔と医療のシンボルといわれるシムと呼ばれるツタ植物が銀のブローチとなっている。
見習いのためその下に黄色いリボンが付いているのだが
「白魔術師様、特に見習いの方は入れる区画が決まっていますので身分証の確認はしていません。ブローチがその代わりでありますから、受け取る際に言われませんでしたか?」
ゲラダ王子から直接もらったためブローチの入っていた箱についていた説明書しか読んでいない。
それにはそんなこと書いてなかった。
「あ、でも、私、見習いとして来たわけじゃ」
「私的な図書館の利用も問題ありませんよ。」
そこにはいきたいがそうではない。
でも候補で来たとか言いにくいためもういいやと思い、通してもらった。
中に入ると確かに白魔術師と数名すれ違う。
なぜか皆、私が新人と解るみたいで配属先は決まったか、行く当てはあるのかと聞いてくる。そのたびに灰魔術師ですというのも疲れ、白衣を脱ぐことにした。
三つ目の門に差し掛かり、そこで初めて書状を出して通してもらい、この後どこへ行くのか言われるが、歩き出した後で
「使用人誰も連れてなかったな。庶民の娘でもさすがに一人、二人、友達とかを使用人って言って連れてきそうなもんだけどな。」
悪かったな一人で、早く仕事に戻りたいのだ。
時間としては朝食を終えた頃だろう。
言われた通りに廊下を進むとオーギュームさんがいた。
「あ、オーギュームさん、おはようございます。」
「おはようございますノクティス様、ゲラダ様でしたら執務室ですのでご案内いたします。」
「お願いします。」
移転でごたついていたため忘れていたがゲラダ王子とはちょっとしたいざこざ中だった。
それを思い出してしまったとたん急に気持ちが重くなる。
王宮内は想像よりも広く、入り組んでいる。
オーギュームさんは見渡している私に少しだけ説明をしてくれた。
かつて国同士が戦い、国土の奪い合いをしていたころ、城へ攻められた際に入り組んでいた方が逃げる時間が稼げること、いくつも通路があることで迷ってしまうこと、例えば一回から直接二階へ上がれるがそこから三階へ上がる階段はない。
一階から二階を通り越して三階へ上がる階段が奥まったところにあり、目先のものにしか目がいかない興奮状態で罠にはめるための作りだという。
そんな話をしていると大きなドアの前に着いた。
今は戦争もないためか木札で第一王子執務室とあり、オーギュームさんがノックをすると中から聞きなれた、少しむかつく、余裕と浮かれた声が聞こえた。
最初が私で残念だったわね。
と、思いながら室内へ入る。




