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「話を整理する。一時休憩をはさみ、再開する。ティアリサムの二人は意見をまとめておくように」
狒々王はアヌビス様を手招きする。
「実は、そんな暇はないんです。明日から明後日へ日付が変わるころ、ティアリサム山が噴火します。」
山が噴火する。
ここカルミナはマグマが流れ、溶岩で出来た土地。
溶岩流が流れるルートである。
「国民の避難を!」
「そう、アクアムの避難を」
「え?」
「噴火口が違うんだな。」
狒々王が聞いてきた。
「今回の噴火口はアクアム側の絶壁だと竜王は予知しました。この噴火を気に、カルミナへ流出しているマグマは停止すると思われます。アクアムの小島並び、海中に被害が出るのは目に見えていますのでご検討をお願いします。」
「検討って、すぐにでも動かないと!」
「それを判断するのは隣国の王だよ。サンクトゥスこれからティアリサム山をどうするのか、竜王が与えた試練で何を得て、何を示すのか。判断しないといけないんだ。」
ヌービスの言っていることが解らない。
私への試練とは何の事だろうか。
各国の王たちのみの会議に戻ると言われ、私たちは別室へ移動した。
「ナトラリベスは避難先として開放を言うだろうがアクアムとしては危機感が絶えないだろうな。」
「なんせ人身売買の売人が最も多い地だ。だからと言ってリポネームが率先して受け入れるとも思えないな。」
「当たり前だ。アクアムのせいで内戦が起きたんだ。とはいっても、ツンドラ様は何かしらの配慮はするだろう。そういう方だ。」
アヌビス様とホエ王子、フロントがそんな話をしているを片耳に聞きつつ、目の前ですっかり黙ってしまったヌービスの顔を見る。
「身長、越されちゃったね。姿も違うし、初めは誰かと思ったけど、ヌービスってすぐわかった。」
「何年たっても変わらないさ。俺たちは人間と竜のテリーだ。それより、聞かないのか、自分が国に戻れなかった理由。」
正規ルートが解らないから、そんな理由だとずっと思っていた。
でも、
「それが試練ってやつなのでしょう。竜王とはそんなにあったことなかったけど、私は人間として産まれて、ヌービスは竜の子の姿だったからそのせいかなって勝手に思っていたのだけど。」
雰囲気の変わらない声は少し、低くなったのかもしれない。
でも、匂いや姿は変わらない。
ヌービスが兄妹だという感覚は実感のないものだった。
周りはみんな人間で彼だけが違う存在だったから、
「サンクトゥス、ちょっといいか?」
アヌビス様に呼ばれ、ヌービスの元を離れる。
「こんな時に悪いんだが、お前の今後について聞きたい。俺はお前と一緒になりたいと思っている。」
まっすぐな瞳はいつの日かを思い出す。
「……私もそうなれたらいいなと思っています。ですが今は、山の事が気になって仕方ありません。今後、ティアリサムはヌービスがまとめます。彼が竜王になります。私は山には必要がありません。竜王… 父が私に山の下を見てくるように言ったのならば私はこのまま、各国の行政を見ていきたいと思っています。」
これからどうなるのかはわからない。
でも、それを見ていくのも私への試練の一部だと思う。
「なんだ、こっちには来ないのか。ツンドラ様もエゾも待っているんだけどな。」
フロントが私の頭をわしゃわしゃ撫でながら言って来た。
「ありがとう。あとでツンドラ様とも話がしたい。もちろん、レインディア様とも」
様子をうかがうようにこちらを見ていたホエ王子にも声をかける。
「いつでも国で待っているよ。みんなで」
それからしばらく、談笑を交えながら各国の王子たちの今後について聞く中、時間の流れを何度か確かめた。
先ほど退席した鯨王はすべての国民を連れて島を離れたのだろうか。
反対する者たちも多いだろう。
その彼らはこれからどうしていくのか。
噴火が起きると言う話をどうやって伝えればいいのか。
間近の危機への不安は大きい。
日が傾き赤い空が見える窓の向こう。
海にはいくつかの船が見る。
「サンクトゥス、新竜王、入ってくれ。私たちの判断を伝える。」
狒々王自らが迎えに出向き、会議室前の廊下まで、アヌビス様が付いて着てくれた。
「我々の判断をこの場で宣言する。」
書状としてまとめられたものを読み上げる。
「我々五国はこの度の噴火により被害の出ると予知される地、アクアムにて国民を直ちに各国で避難させ、各避難先で救援活動と行う事に異論ないものとし、今後、新竜王ヌービス様の元で国政に務めることを宣言する。」
その後すぐ、カルミナから船が出、アクアムへ向かって行った。
深夜、ティアリサム山アクアム側絶壁より噴火したのを確認。
多くの民が不安の声を漏らす中、私は懐かしい自宅のベッドの布団の中にいた。
アクアムの民の多くは鯨王に連れられ国を離れていた。
だが、人間や陸上のテリーと結婚したアクアムの民の一部は国に残り、新たな国政の準備をしていたのだと後から聞いた。
マグマの流出により、海水温の上昇は彼らの命に係わる事、リポネームの湖へ移動することとなった。
マグマの流出は数日ののち収まり、小島は陸地と完全につながり、ティアリサム山の絶壁も姿を消した。
海には陸地や他国の海岸線へ移動することを拒んだアクアムの民が数名浮いているのが発見された。




