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「では次に、各国王子が欲しているグリゼオの少女について、関係する者は入ってくるように」
議長であるカルミナ国王の声と共にドアが開き、中へ足を踏み入れた。
円形会議室は室内の形に合わせた机があり、じゅうたんには島の地図が描かれていた。
その中央には尋問台があり、私はそこへ進むように促される。
じゅうたんを見るとちょうど台の下はティアリサム山山頂。
何とも立ちにくい。
「少し台を動かそう。」
立案してくれたのはアヌビス様だった。
少し後ろに下げられ、リポネームの上に立つ形となった。
「では、グリゼオの少女よ。まずは名前と職業から」
カルミナの国王に言われ、ケティーナ女王レインディア様と視線を合わせる。アイコンタクトの末、軽く微笑まれた。
「……私はサンクトゥス・グリゼオと申します。カルミナにてサンス・オールとして、灰魔術師をしておりました。」
「オールの薬はとても良い物だった。城の灰魔術師にもう、あれだけの腕を持つ者はもういない。とても惜しい人材だった。」
カルミナ国王がしみじみとした顔をする。
それに、
「国王陛下、本題を進めて下さい。」
アヌビス様が進行を促す。
「ああ、そうだな。ではまず、グリゼオがなぜ、山を下りているのかから聞こうか。」
「はい。十年ほど前です。ナトラリベスとの国境近くの川にて一人でいる所を捕まり、奴隷になりました。私が当時、奴隷に関する知識としては仲間が持っているものがすべてでしたので奴隷になるのが怖く、逃げ出しました。カルミナに渡り、オールの御夫婦に拾っていただき、他国で産まれた子として国籍を取っていただき、サンスの名で最近まで生活しておりました。」
亡くなっているとは言え、この発言は二人を罪びとだと告白する者だ。
それをフロントも知っている。
ゆっくりと振り返ると、彼はニホン様と共に大丈夫。
そんな顔を向けてきた。
「それについてだが、息子が足の奴隷印を確認したところ、ナトラリベスからカルミナに入国し、オール家の子と申請された期日、それよりも前だと発覚しているため二人もそれを承知していたとする。」
足に視線を落とす。
ブーツで見えないそこに開放印がある事は知っている。
でも、まじまじと見ることを避けていたためか、解放期日なんて知らなかった。
「今現在、奴隷でもない彼女を強制的に城に住まわせているナトラリベスはこれに関しては何か言う事はあるか?」
「特に、娘たちの友人だと思っていた。」
アナ女王はつまらなそうに答えた。
「では、今日は彼女を自宅へ返してあげるように」
カルミナ国王の言葉にもう返事を返すことはなかった。
「話を戻そう。ケティーナにては公使となってはいるが民になったわけでも、ホエ王子と結婚した訳でも無いのだな?」
「はい。」
アヌビス様がホエ王子を見る。
ホエ王子は視線を避けるようにヘラ王女の後ろに入るが身長差から隠れ切れていない。
それについ、クスっと笑ってしまう。
「各国の王子たちと仲良くやって来ているようでよかった。ウィーンドミレでの政略結婚も国の解体で破棄されるだろうから安心しなさい。」
「私は、結婚した記憶はないのですが」
「本人の意思に関係なく行われた婚姻だ。弟として謝罪いたします。」
バーバリ様が頭を下げてきた。
「私の軽率な行動が原因ですのでお気になさらないでください。」
会釈と共に前へ向きなおす。
そこに
「結婚は正式なものだ。政略的なものではない。サンスも狒々の小僧に何を拭きこまれたかは知らないがお互い誓い合った結婚に間違いない!」
ドアを開け入ってきたアンゴラ様は少し傷があり、血のにじんだ姿だった。
いったい何があったのかと足を進めようとすると
「兵は何をしている!」
アヌビス様が兵を呼んだ。
「そこまでしなくても!」
「あいつはもう王子じゃない。罪人だ。明日の会議で罪状をまとめ、刑が決まる。それまでは牢で大人しくしていてもらう。」
「その刑の執行にティアリサムはかかわれるのでしょうか?」
この場にない声は聞き覚えのある懐かしい声だった。
「ティアリサムより、竜王の使いで参りましたヌービスと申します。そこ娘と同じ、竜王の実子です。」
静まり返る室内にまっすぐ私の元へ歩いてくる彼の足音のみが響く。
「……なんで、ヌービスがここに?」
「もちろん、迎えに着たんだ。竜王が寿命だ。国のこれからは山にいた僕と下界を見てきたサンクトゥスの二人で決めるように言われてきた。」
「寿命って、もう……」
「今朝だよ。グリゼオのみんなは僕たちの判断に任せるって言ってくれた。僕はサンクトゥスがどうしたいのか聞きに来たんだ。」
「待って! 待って…… 解らないよ。急に言われても私は何も知らないもん。」
座り込む私の肩を掴んだのは覚えのある暖かさだった。
そのぬくもりに歩み寄ろうとしたその瞬間
「ありえない!」
その大きな声に身がこわばる。
私を包み込んだ腕が強く締まった。
アクアムの国王が何度も握りこぶしを机に打ち付ける。
その音は荒々しく、憎らしく、悲観に満ちたものだった。
「鯨王には竜王より伝言があります。」
ヌービスの声に握りこぶしを真っ赤にさせた音が止まる。
「伝言だと」
「長年のわだかまりを解くのとこの島国を離れるのならどちらを選ぶのかと」
抱きしめられ、苦しかったのだろう。
服の隙間からドラドラが顔を出した。
「おちょくっておるのか。ポプルスなんぞという人間が我々に何をしたのか忘れたのか。ウミューシュはポプルスではない。」
「わだかまりには長年受け継がれた歴史の中で独自の解釈や嘘がまじりあい、できた鎖。それを解くにはお互いの歴史、各国の歴史との照らし合わせが必要だろうとの事、それに協力していただけるのであればこの連合国に残れます。ですが協力を拒否するのであれば僕の手でアクアムを破壊します。竜王ほどではありませんがこの島一つ破壊するのには動作もない力を受け継いでいます。もちろんサンクトゥスも」
ヌービスを見る。
どこまでが本気なのだろうか。
彼も、
竜王も
鯨王が立ち上がり、会議室を出ていこうとする。
「この部屋から出た時点で連合を抜けると判断します。」
「勝手にしろ。海底の城など、いくつでもある。」
鯨王が部屋を出ていくのを皆が見送った。




