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痛い目にあうかも

 山岡署に同行要請された俺は建前上参考人だが、限りなく容疑者と見られている。

 何の容疑者か、もちろん連続切り裂き魔だ。

 凶器と思われる剣を持って振り回している写真がある。

 その被写体は一月二一日に連続切り裂き魔に襲われた。しかしその凶器は犯人の確保後忽然と消えてしまった。

 もしかして一月二一日の犯行も俺だと思っているとか。家宅捜索令状を持っていなかったから今のところ参考人だが、容疑を固めている最中かもしれない。

 事情聴取は参考人と言うことで捜査課一係の隅っこでおこなわれた。比較的オープンスペースなのは取調室が空いていなかっただけかもしれない。簡単な仕切りがあるだけの簡素な造りだが、密室に押し込まれるよりましだった。

 夜もふけているので詰めている職員はほとんどおらず、俺をここに連れてきた二人の刑事も、事情聴取をおこなう少年課の婦警にバトンタッチすると外に出てしまったようだ。

 まだ俺を本格的に捜査するつもりはないのだろうか。試しに、

「ちょっと電話をかけたいんですけどいいですか?」

 そうたずねると快く了承し席を外してくれた。こんなときに頼るのはHIMOTE様サポート電話だが、大事なときに通じないのはお約束だった。

 すぐさま婦警が入ってきて聞き取りは再開された。

 まずは氏名と住所、通っている学校と家族構成など当たり障りの無いところから始める。

 母親がすでに他界している下りではきちんとすまなそうな表情を浮かべるのは、よく鍛えられた青少年の育成と清く正しい生活の保護のために日夜活躍している人物の証だ。

 話は一月二一日の事件を絡めてあの写真の内容についての質問になった。

「あれはどこで剣を構えていたのかしら?」

「山岡児童公園から俺の家に一〇〇メートルほど近づいた路上です」

「何をしていたところだったの?」

「実は三月に同級生で懇親会があって、そこでの余興の練習でした」

「それで練習ならなぜこんな路上でおこなったのかしら。柴田くんの家にはお庭もあると伺ったわ。あえて外で練習する必要は無かったように思えるのだけど」

「ちょっと火を使った練習だったので庭だと危険だと思いました。その場所であれば民家もなく迷惑もかからないと考えました」

「そうね……でもどうしてこんなことを懇親会で見せようとしたの? あなたが連続切り裂き魔の被害者であるのはお友だちもご存じなのでしょう?」

「そこは友人が心配しているので逆にそれが無用であるのを証明しようと思ったんです」

「すごいわね、あなただって怖い思いをして大変でしょうに」

 婦警はどこか同情するように悲しみの表情を俺に向ける。同情するなら今すぐ解放してくれ。

 そこで仕切りの向こうから電話の鳴る音が聞こえてきた。

「ちょっと待っててね」

婦警はそれを取りに中座した。

 なにやら丁寧な電話対応のあと俺の前に戻った彼女は、

「今、部屋が空いたようなのでそちらに移動しましょう。ここでは空調も良くないし少し寒いでしょうから」

 ここにきて取調室に移動か。逆らっても仕方ないがここより空気が良くて若干体感温度が暖かくなっても、与えられる圧迫が半端無くなるのは確かだ。

 プレッシャーだぜ……

 俺は重い腰を上げ目の前でにこにこしている婦警のあとを着いて歩き出したのだが、そこでなぜかチリンと鈴の鳴る音が聞こえてきた。

 俺はとっさに足を止め周りの様子を見る。神出鬼没な相手だがまさかこんなところまで現れるのかと思ったが、広いフロアに居るのは俺と婦警と電話番の私服が二名。考え過ぎか。

「どうかしたかしら?」

 足音が消えた俺を不思議に思ったのか婦警は顎が見える程度に振り向く。俺は何でもないと足を進めた。

 捜査課の一角から薄暗い廊下に出て、寒さこみ上げる中をしずしずと歩いていく。

 美雪の言う意外と綺麗な取調室がどんなものかと想像していたのだが、どうも婦警の進む先は建物から外に出ようとしていた。

 こういう方向感覚に強くいつも迷子になる美雪のナビゲーションシステムが警報を発している。

「あの、どちらにいくんです?」

「あなたに事情を聞くためのお部屋よ。もうすぐ着くから」

 婦警は振り返らない。

「こっちに歩くと外に出ますよ。山岡署は建物が一棟だったはずです」

「そうかしら? ここは最近改装したから。あなたの妹さんも使っていただいたのよ」

「美雪は二階にある取調室はとても綺麗だと言っていたんですけどね」

「二階は空いていないの」

「そうですか、今思い出したんですけど美雪が入った取調室は一階でした。二階以上は取調室が無いと教えてもらったと自慢していましたよ」

 婦警の動きは完全に止まっていた。こんな簡単なフェイクに引っかかると思わなかったが俺が身構えていると、疾風の速度で振り向いた彼女は俺のジャンパー越しに左手首をしっかりと捕まえた。

「何かの勘違いね。もうすぐだから大人しくついてきて」

「嫌だと言ったら?」

「痛い目にあうかも……」

 ようやく振り返った婦警の瞳はエメラルドグリーンに輝いている、ついさっきまで黒だったはずだ。

 こいつは、ひょっとして鳴美の仕業なのか?

 腕を振り払おうとしたがまるで万力だ。俺の腕がねじ切られても不思議でない。

「あまり暴れないで言うことを聞いてね」

 だから嫌なんだってば、と思ってもどうにもできない。婦警はほほえみながら俺をずるずると引きずり出した。

 こいつはまずい。仕方ない、お袋との約束第三条に反するが相手に抵抗するかと身構えたとき、婦警の目の前に巨大な熊のような大男が現れると細い首に手刀を当てて昏倒させた。

「英雄、脱出するぞ!」

「親父?」

 崩れる婦警の細い身体の代わりに視界いっぱいに飛び込んできたのは、確かに俺の親父こと柴田平太郎その人だった。

「さっさとせんか、この馬鹿息子!」

 ……もとい、俺の馬鹿親父だ。

 親父は俺の腕ごと引き抜くような勢いで掴み山岡署の廊下を全力疾走する。不審に思った職員のみなさんが発する制止の言葉もどこにやら、出入り口の自動ドアを蹴破って外に停めてあったカローラに飛び乗った。

 建物からわらわらと出てくる制服私服をスルーしいきなりアクセル全開でその場を離れる。

 バックミラーから山岡署の建物が消えるとすぐに車を停め、近くに停車してあったランクルを指さす。

「あれに乗れ!」

 いちいち命令口調なのが気に障るが俺は大人しくその四輪駆動のオフロードに乗り換えた。車高が高くなるので見晴らしが良いがそれを気にする間も与えずこれもアクセル全開でその場を離れる。

 改めて俺の右側でハンドルを握る大男を見ると、間違いなく親父だった。

しかもその格好が見事にインディジョーンズ冒険者仕様だ。頭にフェルト帽、革製のジャケットにデニムのズボンと登山用のブーツを履いている。都会に似合わないが親父にはとても似合っていた。

 服装は年期が入っているため、流行るかは別としてコスプレ会場で受けるかもしれない。

 それより、

「一週間かかるんじゃ無かったのか?」

「急遽ヘリとチャーター機を利用した。気流が良ければあと二時間は短縮できたものを」

「しかし何でまた……丸目の親父さんとケンカしていたんじゃ無いのか?」

「それは過去形ではない、現在も継続中だ。しかしそれどころでは無いのだ、英雄!」

 運転中なので親父は異様に輝く黒目だけを俺に向けた。

「電話で話していたこと、本当だな」

「電話って、女の子が剣になったり、それが」

「火炎をまとっていたり冷気を操ったり地割れをおこしたり」

 俺はそんなに詳しく話していないはずだ。俺の呆けた表情を目に親父は大きな舌打ちをした。

「では急がねばなるまい」

 さらに加速して俺の背中がシートに沈み込む。シートベルトを着けたのはその直後だった。


  §


「うむ、張り込まれているな」

 俺の家から少し離れたところ、ぎりぎりで塀が見える通りにランクルを停めると親父は双眼鏡で付近を観察してから小言でそう呟いた。

 この場合、張り込んでくださるのは柴田英雄親衛隊の可愛い女の子ではなく、警察関係者の暑苦しい方々であるのは言うまでも無い。さっきからランクルに積み込まれた警察無線用の受信機から聞きたくないような情報が流れているが、そこに再三登場するのが俺の名前だ。

 この分だと明日のワイドショーに全国的に俺の名前が流れているかもしれない、もちろん悪い方向で。

 参考人だった俺はすっかり准容疑者扱いだ。ただ凶暴な大男と逃走中とされているが、馬鹿親父と共犯と思われているのがどこか迷惑だ。

 今のところ未成年なのが幸いしたというのか、セブンティーンという微妙な年齢がまだ味方してくれているのを喜ぼう。

 だが容疑者のプライバシーなんて空気以下に考えているマスコミのみなさんなのだ。俺の中坊時代の過去が露呈され、意識を取り戻した伊藤が逆光でなおかつ音声を変換した上で俺の悪行をここぞとばかりに証言してくださるだろう。

 なにせそういうお友だちには困らないから。あ、丸目も何かいいそうだな。

「何を呆けておる」

「いや、どっかの馬鹿親父のおかげで全国的に有名になる高校二年生男子の行く末を案じていた」

「そうだな、しかしその馬鹿息子にはもう一踏ん張りがんばってもらうことになるだろう」

「どういうこと?」

「ここがヒーローとしての見せ場というものだ。しかしこれでは家に近づくこともままならん」

 だから結果的にそうしたのは親父だろうに、言ってもムダなので顔にだけ出した。

「何か必要なのか?」

「うむ、ひょっとするとおまえは見ているかもしれんが、わしの倉庫に『絶対に触るな、特に英雄』と表に書かれた菓子箱があったはずだ」

 深く考えずに思い出した。

「ああ、あった。でもあれは……」

「まさか、捨てたのではあるまいな!」

「捨てないってば。ただ中身がつまらなかったから箱を厳重に梱包し部屋の奥に収めた」

「そうか、それを持ち出したいのだが」

 こっちから潜入するのは不可能だとして、電話で持ち出すように美雪に頼んでも張り込まれている刑事に尾行され俺たちも見つかる。かと言ってレイたちではより目立つし。

 ん、待てよ……レイやアイを召喚したとき、二人とも衣服と一緒に来ていたし、アイは動物図鑑、レイはモップ型掃除機を持っていたな。すると彼女らが手にしているものは一緒に召喚できるはず。

「何か妙案があるのか?」

「とりあえず試してみる」

 もしもを考えて俺は親父にスマートホンを借りると美雪のケータイに電話した。

『お父さん、お兄ちゃんはどうだった、まだ警察に居るの?』

 だから着信番号で相手を特定するのはいいが、せめて相手の声を確認してから話し出そうぜ、マイシスター。

 それと親父が山岡書に来たのは美雪に電話して現状を確認していたからだと判った。あらかじめリサーチしていたのは褒めるがその後の実力行使が良くない。

「俺だ美雪。今、親父の電話からかけている」

『お兄ちゃん? お父さんも捕まったの?』

「その説明は面倒なので省略する。今、俺も親父も警察から逃亡中だ。それより美雪に頼みがある」

『頼み? ひょっとしてパスポートの手配?』

 おまえ刑事物とかサスペンスドラマの見過ぎだ。

「違う、俺の言うとおりにしてくれ」

 そのあとまず二〇二号室に美雪を向かわせた。

 その中からガムテープで厳重に梱包された菓子箱を探してもらったのだが、ともかく狭い部屋一敗に詰め込まれた荷物の中、さらに俺が整理という名の混沌を繰り返したおかげでわけが判らなくなっているのだろう、捜査は困難を極めた。

 さらに部屋の中が真っ暗だとかで懐中電灯片手に部屋の中をあさっているらしい。

「照明つければいいだろうに」

『蛍光灯無いもん、客間用につけかえたでしょ』

 そう言えばそんなこともあったっけ。切れた蛍光灯の代わりを買ってこなかったのは俺だから、回り回って俺のせいか?

 いらつきだした隣の熊親父が貧乏揺すりをするのでランクルの車体がわずかに上下し、停まっているのに乗り物酔いを起こしそうだ。

『これかな、一番奥にガムテープでぐるぐる巻きになってるのがあるけど』

「それで間違いない。そしたらそれをレイに持たしてくれ」

『レイちゃんに?』

「目立たない外出着に着替えさせきちんと靴も履かせるんだぞ。準備ができたらこの電話に折り返してくれ」

 俺はそこで電話を切って親父を見た。

「英雄が言うところの剣に変身する女子を利用するのだな」

 確かにそうだがどうして親父はそんなことを知っているのだ? それを口にしようとしたが手の中のスマートホンが着信した。

『お兄ちゃん、準備できたよ』

「ありがとう美雪。今日は帰れないかもしれない」

 すると受話口からは一瞬妹の声が途切れたが、

『レイちゃんもアイちゃんもアルちゃんもエルちゃんも、みんながんばるって言っている。あたしもたくさんおにぎりを作って待っているから』

「ああ、ついでに卵焼きも忘れずにな!」

『うんお兄ちゃんがんばって! 今がヒーローの見せ所だよ』

 さすがは親父の娘だ。俺はスマートホンを親父に返すとポケットからペンダントを取りだしてレイを呼んだ。

 ランクルの後部座席に菓子箱を持った金髪幼女が現れたのは直後だった――のだが、俺は地味な外出着にしろと言ったのに、何だこのロリ度全開、ところ狭しとフリフリの飾られたパーティー仕様の衣装は。

 レイも自分が着せられた衣服に違和感があるのかどこか恥ずかしそうだが、運転席の親父の姿を見て背筋を伸ばした。

「レイ、これが俺の親父で平太郎だ」

「初めまして、フレイムタンと申します」

「うむ……それで君は何番目の宝剣だ?」

 親父のいきなりの質問にレイは驚いたが「八です」と完結に答えた。

「すると火炎の属性の乙ということか……」

「何でそんなことまで知っているんだよ」

「それを説明するための資料を取ってきてもらったのだ」

 親父の言いたいことはすぐに判ったのかレイは持ってきた菓子箱を親父に差し出した。ガムテープが二重三重に取り巻いているそれに眉を顰めたが、箱を俺につきだして「開けろ」と命令する。

 しぶしぶガムテープを解く。自分で二度と開けないように梱包したから何とかガムテープを取り去ったあとは指先がべたべたになっていた。

 その箱を開けるとほっぽり投げたわりに中身は乱れておらず、一番上にあるのは鏡が映った写真だった。

「その写真、何か気がつかないか?」

 ここに来てクイズかと思ったが言われるままに写真を見つめる。金属でできたと見える八角形の枠に真円に近い鏡がはめ込まれていた。枠の頂点にそれぞれ宝石が付いていてエメラルド、サファイヤ、琥珀、ルビー、それがもう一回繰り返して時計回りに並んでいる。

 四種類が二つずつ……もしやと思ってレイの瞳を見た。彼女は赤、アイは青、そしてアルとエルは黄色だ。さらに山岡署で俺を連れ去ろうとした婦警の瞳は緑色に変化していたことを覚えている。

 それとこの鏡、今日見た夢の中で出てきたのとそっくりだ。

 俺が何かに気がついたと判断したのか親父は次の紙を見ろと合図する。そっと写真をめくってみるとその紙にはこんな文面が書かれていた。

 

『制約を定めよ。

 闘技の名称を決めるべし。

 糧となる条件を決めるべし。

 戦士の条件を決めるべし。

 宝玉に宿りし力を決めるべし。

 我を祭場にすえ闘技を始めるべし。

 勝ち残りし戦士、我に願いを告げよ、されば叶えられん。

 戦士が望みを告げしのち、或いは月の満ち欠けが巡りしのち、我闘技場に祝福を与えん』

 

 一読すると何のことやらだがこれにある単語をはめ込むと意味が判ってくる。

 糧に「リア充」、戦士の条件に「HIMOTE」、名称に「リア充スレイヤー」、つまり今俺が関わっていることではないか!

 質問しようとする俺を待たしても親父の目が制した。たぶん次の紙も見ろと言うことだ。俺の指は無意識のうちに動いていた。

 三枚目の紙には地図が書いてあった。地名からさっするにロシアだろうか。詳しく判らないが東ヨーロッパよりと思われる空撮の写真だ。ほとんど森林だがそこに尺度で見ると半径三キロメートルほどの赤い円が書かれていた。

 その円上に壱、弐、参と三箇所文字が書かれていて、中心と思われるところに赤い点が記されている。

「ツングースカ爆発を知っているな」

「爆発でたくさんの木がなぎ倒されたけど、原因が未だに明らかにされていないってやつか?」

 俺が答えると親父は解説を続けた。

「三枚目の写真はロシア北西部、フィンランドとの境界に近いカレリア地峡に属する森林のものだ。見て判るとおり現在では針葉樹が密集しているだけの地帯だが、ここに幾多の戦いを勝ち抜いた戦士が宝の鏡を埋めたという伝説が近隣の村に残っている。

 中世にはここにそれなりの大きさの村があったとも言い伝えられ、宝の鏡を求めて近代に入ってトレジャーハンターが探索したが、村の遺跡は見つかったものの鏡が見つかるには及ばなかった」

「よくありそうな話だな」

「わしもそう思った。しかしわしの中でここには何かある、そう訴えかけるものに従って丸目をたきつけ資金を出させ調査に入ったのだ」

 毎度思うが、親父の野生の勘に振り回される丸目グループも迷惑だろう。

「現地に入ってみると欧州赤松の木々しかない。わしの勘もすたれたと思ったが妙なものを見つけた。壱と書かれたポイントで奇妙な石があった。それを調べてみると一部石化した木だった」

「はあ? 木が石化ってどういうことだよ」

「うむ、わしにも信じがたいが地面に埋まっている部分は木であったが表面はほぼ石化して折る。しかもそれらは同じ方向に倒れていた形跡があった。

 そこでわしはツングースカ爆発を思い出し周辺の土中に含まれるイリジウムについて分析してみた。すると0.023PPMもの含有量を示したのだ。さらに採取箇所によって明らかな差分が見つかりしかも弐と参の箇所についても含む、写真のような領域が浮かびだした。

 その調査に一年はかかったぞ」

 その執念に感服するが少しは家族をかえりみようぜ。

「その範囲はほとんど真円に近い。となるとその中心部に何かがあるだろうと発掘をおこなった。その赤い点、地中五メートルから掘り出されたのが一枚目の鏡だ。

 鏡美の周囲に埋まっていた木片から炭素年代測定をおこなったが少なくとも一〇〇〇年前に埋没したことが判った。

 鏡美の金属枠はプラチナ、鏡はニッケルに銀を塗布したものと分析できた。枠の頂点に着けられた宝石はそれぞれエメラルド、サファイヤ、琥珀、ルビーだ」

 改めて鏡の写真を見る。一〇〇〇年も地中深く埋まっていたにしては見た目とても綺麗だった。

「ちなみに発掘当時から磨くなどのことは一切していない。わしがその鏡を手に取ったとき、表面にロシア語と思われる文字が表示された。それを読み取ろうとわしが鏡の表面に手を触れるとキリル文字は消えその代わりに浮き出てきたのは二枚目の紙に書かれた日本語だ」

 俺は改めて二枚目の文面を見て鏡の写真と並べた。

「日本語? 発掘はロシアだろ?」

「少々文体は古いが漢字の誤りもなくその文面が表示された。それが去年一二月。発掘したものは丸目グループに解析依頼を出したのだ」

「なんか大発見だろう、親父はそのあとどうしたんだよ」

「わしはその鏡を割った」

 俺はちょっとパニックになった。それこそ親父が望んでいたものを壊したって? しかもこの発見は親父個人でどうにかしていいものではないぞ。

「これから先はこの悪質な戦いを仕掛けた人物に掛け合うとするか」

「誰だよそれ?」

「決まっておろう、この時代に剣による戦いを秘密裏におこなわせる力を持つ者、そしてその戦いの闘技場としてこの町を選んだのだ」

「丸目グループ?」

 親父は俺の解答に対していきなりアクセルを踏み込んだ。

 俺もレイもシートに身体を預けながらお互いに顔を見つめていた。



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