ここでぼくと勝負だ!
俺は大介が泣いているところを一度だけ見たことがある。
二年前、示現中学の三年生の夏休み前だ。
丸目と知り合いになってからも俺の暴力沙汰は治ることがなかった。それまでは他校の連中を相手にしていたが同じ中学の連中相手にもケンカをふっかけることもあり、いよいよそれが職員の間でも問題になっていた。
いくら親父が丸目グループにつながりがあると言え示現中学だって有名進学中学校だ。生徒やPTAに対しての示しがある。
俺にケンカをふっかけられた他校の連中だって黙っていなかった。丸目の言うとおり暴力の連鎖反応は止められずついに俺の中の限界点も越え歯止めを無くしていた。
俺はアルやエルの言うところの剣になっていたのかもしれない。自分が誰かを傷つけるために存在するのだと。誰かに殴ったり蹴ったりしていないと自分自身が無くなってしまうのではないかと。
夏の日の午後、雨が降っていた。汗がにじんで湿気がまとわりついて俺の中の不快指数が一〇〇パーセントを超えて、太陽は沈んでも暑さが頭を鈍らせて身体は暴れるのを辞めなくて……いつもの高架下で俺は命に関わるようなケンカをおこなっていた。
相手が何人居たか判らない、ぶちのめした相手も何人居るか判らない、俺も身体中にあざとか切り傷を作っていた。
どういうわけか致命傷も無く疲れ知らずに暴れる俺に、徒党を組んでかかればシバヅケを取れると考えやってきた連中――そこに伊藤も居たが、意識があるやつらもびびっていた。
もうどうにでもなれとお互いが思ったのだろう、残り七人くらいが一斉に俺に飛びかかってくる。いくらケンカなれしていても俺が聖徳太子並みに七人相手に同時に戦えるはずがない。
むき出しの腕や顔に奴らの攻撃がヒットする、肉や骨がきしむ音と鼓動が耳を打った。口の中が切れて血の味が広がる。それでも俺は両足でしっかりと立っており両手はだらんと下がっていたがコンクリートの地面に触れてなかった。
誰かのパンチが腹に入った。もう一人の蹴りがふくらはぎに入った、ああそろそろ終わりかな、走馬燈に何が見えるのかなとかぼんやり考えていると妙に甲高い音が聞こえ、俺を取り囲んでいる一人が悶絶して倒れた。
その音は次々に俺の相手を倒していく、俺も意識をはっきりして目の前の奴の襟首を掴んで頭突きした。俺のオデコは鋼鉄製とよく言われた、たいていの男はチョウパン一発で昏倒だ。
一分もしないうちに残りは伊藤だけになった。俺は逃げようとする奴の襟首を掴んでこっちを向かせると二発連続で頭突きした。伊藤の三白眼はくるりと白目をむきだし口から泡を吹き出すとその場に倒れた。
誰が手助けしてくれた、また丸目なのかと思ったが、
「ヒデちゃん、ここでぼくと勝負だ!」
そいつは袋竹刀を中断に構えて俺にそう叫んだ。さっきからの甲高い音はこの竹刀で叩いた音だったのだ。
大介だった。俺を手助けしてくれたのは大介だった。ケンカなんて全然できなくて宮本武蔵にあこがれ剣道を始めていた小学校からの友だち、そいつが初めて見せる憤怒の表情を向けて俺に挑戦しているのだ。
「疲れているかもしれないけど容赦しないよ、ぼくと闘え!」
「おまえ、マジで言っているのか?」
「ぼくが冗談を言っているように見える!」
確かに俺には真剣にしか見えなかった。それにそのときの俺は大介ごときに挑戦された、そのことが肥大化していたプライドみたいなものを刺激され拳をあいつに向けていた。
「俺のケガなんて大介へのハンデにもならねえ、その減らず口をきけないようにしてやる!」
しかしこの場でやり合うとせっかく倒した連中に邪魔されるかもしれない、俺たちは雨の中を走って小さな公園の中に入った。
より強く降る雨と夜のような暗さに公園に誰も居ない、ここでなら存分にやれる、俺に刃向かうこいつをタコ殴りにできる。
「かかってこいや!」
「おうさ!」
俺と大介は拳と刃を交えた。
戦いは一瞬だった。俺の拳は宙を切り大介の竹刀の切っ先は俺の喉を的確に突いていた。
呼吸がままならずその痛みに膝が折れる。前かがみになった俺の背中が竹刀で叩かれ顔を上げると面が入った。
防ごうとした腕に小手が入り、上がった顎の下にまたしても突きが入った。
それからどうなったか覚えていない。何発か大介に反撃したと思うのだがあいつの竹刀を浴びた数の方が圧倒的に多かった。ともかく痛かった、手も足も肩も喉も頭も胸も胴も竹刀に叩かれて痛かった。
ついに俺は仰向けに倒れた。呼吸をするのもままならない、天をあおいだまま身体は動かず降り注ぐ雨が容赦なく俺の顔を叩いた。
俺はこんなに弱かったのか。いや、俺は疲れているんだ、大介は竹刀を持っているんだ、条件はイーブンでは無いんだ……そんな言い訳が頭の中を駆け巡る。
そんな俺を大介は立ったまま見下ろした。俺に打ち勝ってさぞかしドヤ顔を向けるのかと思ったが……
あいつは泣いていた。
相変わらずスポーツ青少年の濁りの無い目から行く乗も涙がこぼれている。雨粒ではなく何滴か落ちたそれは雨に比べてずっと暖かかった。
「大介、おまえ」
「ヒデちゃんは卑怯だ!」
大介は涙を流しながら絶叫した。
「卑怯だと?」
「そうだよ、ヒデちゃんのおじさんがどんな理由で帰って来れなかったかを聞こうともせず、勝手におじさんが悪いと思い込んでケンカしてみんな傷つけるなんて卑怯者の行動だよ!」
「おまえに何が判る! 母さんをほったらかしにして、葬式にも来ない親父の何が判るって言うんだ!」
「自分でそう思って何も聞いていないんだろう、そうやって逃げているんだ、だからそんなヒデちゃんはぼくにだって勝つことはできないよ!」
大介は目を閉じる。持っていた竹刀を地面にたたきつけてその場に腰を落として声を上げて泣いた。
「今のヒデちゃんはただの卑怯者だ! それならぼくが徹底的に叩いて叩いて叩いてやる!」
俺は上半身を起こしガキのようにわんわん泣き続ける大介を見ていた。その姿は俺に勝ったことを喜んでいるように見えない、むしろ俺にいや他人を痛めつけるために竹刀を使ったことを恥じているように見えた。
「ヒデちゃんは弱い者の味方だったじゃないか、ぼくとミヨが仲間はずれになってもクラスの中でいじめがあったらどんなときにも自分を省みず立ち向かっていったヒーローじゃないか、自分の名前を誇らしげに言っていたじゃないか!」
大介は涙と雨でぐちゃぐちゃになった顔を俺に向けた。
「今のヒデちゃんはケンカに強いかも知れないけどただの負け犬だよ」
「負け犬か」
「ヒーローだって負けるときはある、今はぼくがヒデちゃんを負かさないといけないんだ」
雨は強くなる一方だった。むしろ俺にはそれが好都合だったのかもしれない。
『あなたの名前は英雄と書いて「ひでお」と読むの。でもね、わたしはいつでもヒーローでいて欲しいわ』
俺はお袋の最期の言葉を思い出した。
あいつの大切な竹刀を拾い雨の中を家まで送っていった。結局大介は家に着くまでずっと泣いていた。
それから自分の家に帰った俺は帰国していた親父の部屋の扉を叩いた。面と向かって親父の顔を見るのはどれくらいぶりだろうか。一八〇センチに少し足りない俺から見ると山のような存在感があった親父は、すこし縮んでいたように思える。
「なんだ、わしに用事か?」
「俺と闘え」
簡潔にそう告げると親父はすっと腰を上げて俺を庭へと誘い出した。
雨は上がっていたが庭は水たまりができている。まだ美雪は家庭菜園を作っておらず殺風景な中、月明かりもない。親父は何も言わず俺をにらみつけてくる。
その余裕が鼻につく。俺は大声で吠えると親父に掴みかかった。
結果から言うとその戦いも一方的だった。全身泥だらけになって庭に伸びているのは俺だ。何度親父を掴みかかろうとしてもひらりと避けられる、しかも巧妙に投げ飛ばされた。
親父の服で汚れているのは俺が触れることができたわずかなところだけだ。
「お父さん、もうやめて!」
縁側から見ていた美雪の声が響いた。やめるのは俺の方だ。
そうか、俺はこんなに弱かったんだ、大介の言うとおりだったんだ。
「もう終わりか英雄。それではただの負け犬だな」
そうだ。大介にも勝てず親父にも勝てない、ただの負け犬だ。
俺が負け犬という単語に敏感になったのはこのときかもしれない。まさしくその通りだと思ったからだ。チンピラ相手に連勝していい気になっていたが、真の強者相手では叩かれ投げ飛ばされ泥だらけになるだけの惨めな負け犬だ。
水たまりの中に腰を落として俺は泣いていた。あぐらをかいて両膝に手をついて鳴いていた。
その目の前に親父もどっかりと腰を落とした。泥がはねる大きな音のあと親父は俺と同じ姿勢を取って、
「母さんを助けられなくて……すまん」
静かにそう言った。そして親父の目尻も少し光っていたように見えた。
その後、俺と親父は久しぶりに一緒に風呂に入った。俺の身体中に大介に付けられた竹刀のあとがあるが親父の身体も傷だらけだ。
風呂に漬かっている間は終始無言だったが、着替えて縁側に出ると美雪が用意してくれたおにぎりを食べながら、親父は二年前のことを少しずつ話してくれた。
「母さんの病気はとても珍しく日本の医者は全く役立たずだったわ。何が技術は世界一だ、どれだけ金を積もうと母さん一人助けることもままならん」
そして親父は遺跡調査をおこないながら世界中の名医を訪ねて回ったのだという。しかしそのどれも良い結果は得られなかった。そうしているうちに連絡の取れないところで母さんは病状が悪化しそして亡くなってしまった。
「わしが何か言っても全て言い訳になる。だから黙っておった」
「自分が悪いと思うのなら何で俺に負けなかった?」
「英雄はわしに負けて欲しかったのか、それで満足なのか」
いや違う。こうやって話し合うには真剣にケンカしなければいけない。手抜きなんて許されないのだ。
俺と親父は二人そろって大きなおにぎりをほおばった。無言で咀嚼していたのだが不意に親父がしゃべりだした。
「のう英雄。聞きたいことがある」
「なんだよ、改まって」
珍しいことに親父はどこか照れていた。言葉を選びどれが自分に似合っているかを探しているようだった。
「母さんは……母さんの最期は安らかだったか?」
親父に言われて俺はあの日の光景を思い出す。美雪とお見舞いにいき、俺たちにほほえんでくれた顔を思い出しおにぎりを食べて飲み込んだ。
「眠るみたいだった、とても静かだった。だから起こすこともできなかったよ」
「そうか……眠っているようだったか」
そう言えば親父は母さんの死に目に逢えていないのだ。こんな親父でも、いやこんな親父だからこそそこが残念なのかもしれない。
「親父、今度の日曜日に墓参りにいこう」
「うむ、母さんの大好きなおはぎを持っていくか」
「それ、あたしが作る!」
美雪もそう言って大きなおにぎりをほおばる。そして三人で笑顔でうなずいた。
その日から俺は暴力に別れを告げたのだと思う。もちろん今までの軋轢があるからそう単純にいかなかったが、もうこれ以上大介を泣かせることはできなかった。
夏休みもあけて久しぶりに大介と一緒に学校からの帰り道、
「大介には大きな借りができたな」
「別に気にしないでよ」
「そうはいくか。いつかこの借りは返すぜ。母さんに借りたものは必ず返せと教わったからな」
大介は恥ずかしそうにほほえんだ。
俺は大介に借りを返せたのだろうか? まだまだ足りないかもしれない。
病院から学校へ戻る道すがら、そんなことを思い出していた。
§
病院でのんびりしていたせいか学校に着いた頃にはすっかりと放課後になっていた。
生徒会室に寄っていく気分でもない。帰り支度をするとそのまま東棟の飼育小屋に向かった。ひょっとしたらウサギの世話をしに沙織さんが居るのではないかと思ったのだ。
学校に戻る途中、コンビニに立ち寄って人参を一本だけ買ってきた。それを手にしながら職員室で飼育小屋の鍵を借りた。ここに鍵があるということは沙織さんは来ていないのだろう。
小屋にたどり着いてみるとそこにはぽつんとシロが俺を出迎えてくれた。ウサギと言えば人参しか思い浮かばなかったが分量がどれほどか判らない。鍵を開けて小屋の中に入るとシロはすかさず俺の足にすり寄ってきた。
「ほい、ごはん」
人参をいくつかに折ると少しずつシロに差し出した。腹が空いていたのか夢中になって食べている。
シロが食べやすいように身体をひねるとズボンのポケットからペンダントがこぼれ落ちた。
この前も寝ているうちにポケットから落ちていたぞ、穴でもあいているのかな……俺はペンダントを取り上げながらふと猫のシロをなでているアイの姿を思い出した。
ウサギのシロも身体は真っ白だ。
「アイも見たら喜ぶかな」
「……マスター」
「うわっ!」
いきなり俺の左隣から聞こえた小声に大声を出して腰を浮かしていた。その音量にシロは食事を中断し突然現れたアイも目をいつもより数ミリ大きくあけて俺を見ている。
彼女が小屋の中で正座していた。服装は美雪が買ってきた青いトレーナーと同色のロングスカートだ。足は靴下だけ履いている。
ペンダントが敏感すぎるのかアイの名前を言ったとたん、ここに召喚してしまったということだろう。
しかし驚いた。少しは沙織さんの気持ちが判ったような気がする。
「……ごめん」
「いや、アイは悪くないから。こちらこそ驚かしてすまなかった」
俺が息を吐いてゆっくり腰を下ろすとシロもエサをねだってくる。その様子をアイがじっと見ていた。
「人参、あげてみるか?」
アイがうなずいたので彼女の手のひらに細かく折った人参を一かけ乗せた。アイは受け取ったそれをウサギの前に差し出す。
シロも美雪並みに警戒心がないのか彼女の手にある人参をぽりぽりと食べていった。
本当に腹を空かしていたのかアイの人参はすぐに無くなり赤い目は俺が持っている残りに注目している。もちろんお預けしようと思わないので一かけずつシロに差し出した。
アイはシロの身体に目を向けたまま瞬きを忘れているようだった。小さな手がその背中に触れようと伸びているのだが途中で止まっていた。
「触っても大丈夫だぞ」
俺がそう言うとアイはこくりとうなずいてウサギの身体に手を乗せた。双方真っ白なので色合いが解けて混ざってしまいそうだ。アイが猫又のシロをなでるように手を動かしてもウサギのシロは全く意に介せず人参をほおばっている。
「どうだ、ウサギのさわり心地は?」
「……暖かい」
アイは瞳だけ俺に向け答えたが細い指先はウサギの背をそっとなでている。長い耳に触れて、それがぴくんと動くと驚き手を背中に戻していた。
「動物を触るのが好きなんだな」
「……判らない」
以前も猫のシロを触っているときに同じ答えが返ってきた。しかし今のアイはあのときと少し異なるように見えた。
彼女はゆっくりと瞬きするとほんの少しだけ眉尻を下げていた。
「……猫もウサギも暖かい」
「ま、保温動物だからな。今は冬だし気温より体温の方がずっと高いから」
するとアイは首を左右に振って見せた。さらにウサギをなでていた手を放すとこちらを向いて俺の頬に手を添えた。
「……マスターの頬も暖かい」
確かにアイの手はとてもひんやりとしている。しかし寒気を覚えるほどでは無い。
「アイの手だってそんなに冷たくないよ」
「……マスターは人間、アイは剣」
そして俺の頬から手を放すと自分の胸元に引き寄せ両手を重ねて顎を下げる。
「……アイは剣だから人間のように暖かくない。猫やウサギのように命はない」
それから顔を上げサファイヤブルーの瞳で俺を見つめた。
「……なぜマスターはアイに食事をさせる、衣服を着替えさせる、風呂に入らせる、夜寝させる、テレビを見せる、本を読ませる」
俺が何も答えないでいるとアイはゆっくりと瞬きして、
「……なぜリア充を狩らせない」
「普通の生活は嫌なのか?」
「……判らない、でもアイは剣だからそんなことをさせてもらう必要はない。アイはリア充を狩るために、そしてマスターの敵となるHIMOTEを討ち取るためにある。それ以外のことは意味がない」
「意味はあるさ。アイは剣に返信できてもそれはほんの一瞬だ。それ以外は俺と美雪と、レイやアルやエルと一緒に暮らしている。生きているんだ」
「……アイは生きているの?」
アイの瞳が何かを求めるように揺れていた。
「……アイの肌はどこまでも白い。アイの身体は限りなく冷たい。マスターを前にしても何を話していいか判らない、何も知らない」
「アイ、もう一度ウサギに触れてごらん」
アイは一瞬ためらったが手をシロの背中に伸ばすとそっと触れてみた。
「ウサギはアイが触れても逃げないだろ? 俺よりほんの少し肌が白くても体温が低くても、アイは敵で無いことを判っているからさ」
「……敵で無い」
「猫のシロだってそうさ、アイが怖くないし自分に酷いことをしないと判っているから大人しく背中を触れさせている。ウサギも猫もそして俺も美雪も、アイがきちんと生きていることを判っている。
ものを知らなくて話ができなければ勉強すればいい、テレビやマンガや小説やそんなものを見て覚えていけばいい。美雪だっておまえが呆れるほどおしゃべりに付き合ってくれる、もちろん俺もだ。
俺の知り合いにだってしゃべるのが苦手な人が居るけど身振り手振りで考えは伝わる。今、知らないからって永遠に判り合えないわけではないだろう」
俺は丸目のように一気に話していた。途中で止めてはいけないように思えたし俺を見つめる青い瞳が中断することを許してくれない。
アイは何かを聞きたがっているのだ。今は何が判らないか判らない。何を知っているのか知らない。
俺がこの子のマスターであるのなら……今、少しずつ青い瞳の奥に輝きつつある好奇心に応えてあげるべきなのだろう。
昨日、美雪が言っていたようにアイは俺が出逢った頃の妹のように外界への扉が全て閉ざされている。それを開く必要も無かったのかもしれない。
でも扉や窓があればそこから向こうに何があるのか気になるはずだ。アイにとってそれが「シロ」だったのだろう。
「さてうちに帰ろうか。猫のシロもアイを待っている」
アイはこくりとうなずいた。なんとなく真っ白だった頬がほんのりと桃色になり唇も朱が差しているように思えた。
「何も知らないと言ってもこの前の戦いだってツインランサーのことを俺に説明してくれただろう」
「……あれは剣としての義務。だから特別なことではない」
「そうなのか? レイに比べると説明が細かかったように思えたけど」
アイはシロの赤い目を見てからほんの少しだけ眉を顰めた。
「……フレイムタンは他の剣と少し異なる。たぶんツインランサーの対極にある」
「どういうこと?」
「……勝つことを望んでない」
アイはそれを言ったきりまぶたを閉じてしまった。小さな手は盛んにウサギの身体をなでているがまるで眠っているように思えた。




