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籠目屋商店怪異録 春ノ巻  作者: 宇佐美夕日


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20/20

幕間 四【外へ出るもの】

若い祓い屋がいた。


年は、十二ほどであった。


顔立ちはまだ幼い。


頬にも、肩にも、子どもの薄さが残っている。


けれど、目だけが妙に静かだった。


子どもがしてよい目ではない。


大人がしていれば、冷たいと言われる目である。


その子の家は、代々、祓い屋であった。


父も。


母も。


叔父も。


伯母も。


従兄も。


家に連なる者の多くが、怪異に関わって生きていた。


人が死ぬ場所へ行く。


人が泣く家へ行く。


人が隠したものの前に立つ。


そういうことを、幼い頃から見てきた。


だから、その子は、あまり驚かない。


血を見ても。


人形が動いても。


誰もいない部屋から声がしても。


驚かないようにしているのではない。


驚く前に、見てしまうのだ。


何がそこに残っているのか。


誰がそれを見ないふりをしているのか。


その日の依頼は、山際の古い家から来ていた。


大きな家だった。


門があり、土蔵があり、奥に長い座敷が続いている。


庭には古い梅の木があった。


花の時期はもう過ぎている。


枝には、青い実がいくつかついていた。


春が終わりかけていた。


家の者たちは、若い祓い屋たちを座敷へ通した。


当主は初老の男である。


背筋は伸びていたが、目の下に濃い隈があった。


その妻は、隣で俯いている。


ほかにも、家の者が数人。


使用人らしい女もいる。


誰も、奥座敷の方を見ようとしなかった。


「毎夜、濡れた足跡が出ます」


当主が言った。


「玄関から、奥へ」


祓い屋の一族の男が、うなずいた。


その子の叔父にあたる男だった。


大柄で、声が太い。


「足跡だけか」


「はい」


「姿は」


「見えません」


「声は」


「しません」


「では、弱い」


叔父はそう言った。


当主の顔に、少しだけ安堵が浮かんだ。


弱い。


そう言われたことで、救われたような顔だった。


若い祓い屋は、その顔を見ていた。


弱い怪異。


強い怪異。


そう分けることはできる。


できるが、正しいとは限らない。


弱いものほど、長く残ることがある。


「亡くなった子の霊でしょう」


家の女が、小さく言った。


当主の妻だった。


声が、ひどく乾いていた。


「末の子が、幼い頃に」


叔父は、その女を見た。


「その子の足跡か」


「たぶん」


「たぶん?」


女は口を閉じた。


当主が代わりに答えた。


「昔のことです。もう、名も位牌も整えてあります」


若い祓い屋は、当主の手を見た。


膝の上に置かれた指が、少しだけ曲がっている。


嘘をついている手ではなかった。


けれど、全部を言っている手でもなかった。


座敷の端で、老人が黙っていた。


一族の者たちは、その老人を「ご隠居」と呼んでいた。


背は曲がっていない。


髪は白い。


目つきは悪い。


口を開けば、たいてい人を不愉快にさせる。


けれど、その子だけは、その老人を「師匠」と呼んでいた。


「見た顔をしておるな」


ご隠居が言った。


その子へ向けてである。


若い祓い屋は、答えなかった。


「黙っていれば賢く見えると思うな」


「見ているだけです」


「見て分かるなら、阿呆はおらん」


「阿呆はいます」


ご隠居は鼻を鳴らした。


「生意気だ」


叔父が顔をしかめた。


「ご隠居。子どもの口を許しすぎです」


「許しておらん。聞き流しとるだけだ」


「同じことでしょう」


「違う」


ご隠居は酒も飲んでいないのに、不機嫌そうだった。


「許すには、価値が要る」


叔父は、さらに顔をしかめた。


若い祓い屋は、何も言わなかった。


家の奥から、湿った匂いがした。


雨は降っていない。


それなのに、座敷の奥だけが少し濡れているような匂いだった。



夜になるのを待った。


祓い屋たちは、玄関から奥座敷へ続く廊下に控えた。


当主とその妻は、別室にいた。


使用人も下がっている。


家の者は、誰も廊下へ出ないように言われていた。


叔父たちは、祓う準備を整えていた。


紙。


火。


水。


鈴。


塩。


いくつかの道具が並ぶ。


若い祓い屋は、廊下の端に座っていた。


ご隠居は、その隣にいる。


「怖いか」


ご隠居が訊いた。


「いいえ」


「嘘をつくな」


「少し」


「少しで済むなら、怖がっておけ」


「怖がると、見えなくなります」


「怖がらんと、余計なものまで見る」


若い祓い屋は、少しだけご隠居を見た。


「師匠は、どちらですか」


「俺は見ん」


「見ない?」


「見たもの全部に責任を持てるほど、俺は暇ではない」


それは、いつものような悪態だった。


しかし、若い祓い屋は黙った。


その言葉が、ただの悪態ではないことを、何となく分かっていた。


夜が深くなる。


家の中から、人の気配が薄れていく。


古い柱が鳴った。


畳が息を吸う。


庭の梅の実が、風もないのにひとつ揺れた。


その時。


玄関の方で、音がした。


ぴた。


小さな音だった。


濡れた足が、板に触れる音。


廊下の端に、足跡が現れた。


小さい。


子どもの足跡だった。


右。


左。


右。


左。


濡れている。


水を踏んできたように、板の上に薄く残っている。


叔父が低く言った。


「来た」


一族の者たちが身構える。


足跡は、玄関から廊下を進み、奥座敷へ向かっているように見えた。


ぴた。


ぴた。


姿はない。


足跡だけが増えていく。


叔父が、紙を手にした。


「今なら断てる」


若い祓い屋は、足跡を見ていた。


小さな足。


幼い足。


けれど、ひとつではない。


濡れた跡の大きさが、少しずつ違う。


大きいもの。


小さいもの。


片方だけ深いもの。


爪先を引きずったようなもの。


一人の子の足跡ではない。


若い祓い屋は、顔を上げた。


「待ってください」


叔父が振り返る。


「何だ」


「これは、ひとりではありません」


「足跡が乱れることはある」


「違います」


「何が違う」


「向きが」


叔父の目が細くなった。


「玄関から奥へ入っている」


「そう見えます」


「そう見えるなら、そうだ」


若い祓い屋は、廊下の板を見た。


足跡の水は、爪先の方に多く残っている。


だが、板の沈みは踵の方が深い。


水の跳ね方も、逆だった。


入ってきたのではない。


奥から外へ出ようとしている。


それなのに、家の中の誰もそう見ていない。


玄関から来た。


奥へ入った。


死んだ子が戻ってきた。


そう思いたがっている。


「外へ」


その子は言った。


「出ようとしています」


叔父の顔が強張った。


「勝手なことを言うな」


「足跡が、外へ向いています」


「家の者は、奥へ向かうと言った」


「家の者が、そう見たかっただけです」


その言葉に、叔父が立ち上がった。


「子どもが」


ご隠居が、低く言った。


「最後まで見ろ」


叔父はご隠居を睨んだ。


「ご隠居」


「祓うのは、それからでも遅くない」


「遅くなれば、奥へ入ります」


若い祓い屋が言った。


「入るのではありません」


叔父が振り返る。


その子は、奥座敷を見ていた。


「出られないのです」


ぴた。


ぴた。


足跡は、奥座敷の前で止まっていた。


そこから先へ進めない。


何度も、何度も、敷居のところで濡れた跡が重なっている。


奥座敷から出ようとして、敷居で止まる。


それを繰り返している。


玄関から奥へ入っているように見えるのは、その跡が積み重なり、反対に読めるからだった。


若い祓い屋は立ち上がった。


奥座敷へ向かう。


叔父が腕を掴んだ。


「行くな」


「そこにあります」


「何が」


「出したいものが」


「お前が決めることではない」


「では、誰が決めるのですか」


叔父は答えなかった。


「依頼人か」


別の一族の男が言った。


「祓い屋が依頼人を越えるな」


「怪異に情を入れるな」


「未熟だ」


「見たものに引きずられている」


「それは祓いではない」


若い祓い屋は、黙っていた。


言い返さない。


ただ、叔父の手を見た。


掴んでいる。


強い手だった。


その手も、怖がっている。


若い祓い屋には、それが分かった。


「離して」


「命令するな」


「離してください」


「その奥へ行けば、引かれるぞ」


「もう、引かれています」


叔父の手が止まった。


若い祓い屋は、奥座敷の敷居を見た。


濡れた足跡が重なっている。


何人もの小さな足が、出ようとして、出られず、そこで濡れ続けている。


「これを見た時から」


その子は言った。


「もう、引かれています」


ご隠居が笑った。


いや、笑ったように見えただけかもしれない。


「離してやれ」


叔父は言った。


「ご隠居、本気ですか」


「本気でなければ、こんな辛気臭い家に夜中までおるか」


「しかし」


「行かせろ」


ご隠居の声は、低かった。


「その代わり、しくじれば自分で背負わせる」


若い祓い屋は、ご隠居を見た。


ご隠居は、こちらを見ない。


「師匠」


「行け」


それだけだった。


若い祓い屋は、奥座敷へ入った。



奥座敷は、暗かった。


灯はある。


けれど、光が隅まで届かない。


床の間には、古い掛け軸がかかっている。


その下に、花のない花入れがあった。


畳は乾いている。


しかし、部屋の奥にある長持の下だけが、少し湿っていた。


若い祓い屋は、そこへ向かった。


長持は重かった。


子どもの力では動かない。


だが、動かす必要はなかった。


蓋に手をかける。


鍵はかかっていない。


開ける。


中には、布が入っていた。


古い着物。


使わなくなった帯。


紙包み。


そして、その底に、小さな草履がいくつも入っていた。


一足ではない。


二足でもない。


五つ。


六つ。


もっとある。


小さな草履。


幼い子の草履。


片方だけのものもある。


紐が切れたものもある。


泥が固まったものもある。


どれも、ひどく古かった。


若い祓い屋は、息を止めた。


その背後で、叔父たちが部屋へ入ってくる気配がした。


当主も来ていた。


妻も。


誰も、すぐには喋らなかった。


「これは」


叔父が言った。


「何だ」


当主の顔は青白かった。


妻は、草履を見た瞬間、膝から崩れた。


「違います」


当主が言った。


「それは」


若い祓い屋は、草履を見ていた。


違う。


その言葉だけが、家の中で長く残った。


何が違うのか。


誰に向けて違うと言ったのか。


それは分からない。


けれど、草履はそこにあった。


小さな足跡は、ひとり分ではなかった。


「昔」


妻が言った。


声が、掠れていた。


「この家では、子どもがよく死にました」


当主が妻を見た。


「やめなさい」


「病で」


妻は続けた。


「川で。熱で。生まれてすぐに。奉公に来た子もいました。身寄りのない子も」


「やめろ」


当主の声が強くなる。


「この家の恥だ」


妻は泣かなかった。


涙も出ない顔で、草履を見ていた。


「亡くなった子のものを、外へ出してはいけないと」


「誰が」


若い祓い屋が訊いた。


妻は、少しだけ顔を上げた。


「この家が」


家が。


人ではなく。


この家が。


若い祓い屋は、奥座敷を見た。


長持。


掛け軸。


床の間。


花のない花入れ。


閉じられた障子。


この家では、子どもの死が奥へしまわれてきた。


名前も。


声も。


草履も。


外へ出さない。


語らない。


弔ったことにする。


整えたことにする。


けれど、奥座敷の中で、ずっと足は濡れていた。


外へ出ようとしていた。


「祓います」


叔父が言った。


「ここまで溜まっているなら、なおさら」


若い祓い屋は、草履の中から一足を取った。


小さい。


まだ新しい方だった。


布の鼻緒が、少しだけ赤い。


「触るな」


叔父が言った。


「それは穢れだ」


「違います」


「違わん」


「これは、外へ出るものです」


「外道めいたことを」


一族の女が言った。


「怪異を残す気か」


「残しません」


「なら、祓え」


「消すものではありません」


叔父が苛立ったように息を吐いた。


「お前は、依頼の意味が分かっていない」


「分かっています」


「この家の者は、消してくれと言っている」


「消せば終わるのは」


若い祓い屋は、草履を抱えた。


「見ている側だけです」


叔父の顔が怒りに染まった。


「生意気を」


ご隠居が、入口から言った。


「生意気ではあるな」


若い祓い屋は、ご隠居を見た。


「師匠」


「勝手をするな」


ご隠居は言った。


「祓い屋が依頼人より、怪異の都合を見るな」


若い祓い屋は黙った。


「お前のそれは、優しさではない」


ご隠居の声は、冷たかった。


「癖だ」


部屋が静かになる。


「見えたものを、見えなかったことにできん。残ったものを、残ったままにしておけん。そういう癖だ」


若い祓い屋は、草履を抱えたまま立っていた。


「その癖で」


ご隠居は続けた。


「いつか死ぬぞ」


「はい」


若い祓い屋は答えた。


「分かっています」


「分かっておらん」


ご隠居は、吐き捨てるように言った。


「子どもが、死ぬことを分かった顔で言うな」


その言葉に、若い祓い屋は初めて少しだけ目を伏せた。


ほんの少し。


「それでも」


その子は言った。


「これは、外へ出したいのです」


ご隠居は、しばらく黙った。


それから、叔父たちへ言った。


「祓いは止めるな」


若い祓い屋が顔を上げる。


「師匠」


「全部は出せん」


ご隠居は言った。


「お前にそんな腕はない」


若い祓い屋は、黙った。


「一つ出すなら、早くしろ」


叔父が声を荒げた。


「ご隠居!」


「祓えと言ったろうが」


ご隠居は叔父を睨んだ。


「こいつが一つ持ち出す。それ以外は、お前らが断て」


「そんな半端な」


「半端だ」


ご隠居は言った。


「人のやることは、たいてい半端だ」


若い祓い屋は、草履を抱え直した。


長持の中には、まだいくつもの草履が残っている。


全部は持てない。


全部は出せない。


それが分かった。


それでも、その一足だけを持った。


小さな赤い鼻緒の草履。


名前はない。


誰のものかも分からない。


でも、その草履だけが、少し濡れていた。



庭へ出た。


夜明け前だった。


空はまだ暗い。


けれど、東の端が少しだけ青くなっている。


春の終わりの風が、庭を抜けた。


梅の青い実が揺れる。


若い祓い屋は、草履を土の上に置いた。


座敷の中では、祓いが始まっていた。


鈴の音。


紙の擦れる音。


叔父の声。


一族の者たちの声。


それらが、家の奥から響いてくる。


奥座敷に残った草履たち。


外へ出られなかった足跡たち。


それらがどうなるのか、若い祓い屋には分からなかった。


分からないのではなく、分かりたくなかった。


しかし、耳は聞いている。


家の奥で、何かが消されていく音がした。


泣き声はない。


叫び声もない。


ただ、水が乾いていくような音だった。


若い祓い屋は、庭の土を見ていた。


置いた草履の周りに、湿りが広がっていく。


ぽつり。


土に水が落ちた。


雨ではない。


空は降っていない。


ぽつり。


もう一つ。


草履の前に、小さな足跡がついた。


右。


左。


右。


左。


足跡は、庭の奥へ向かった。


梅の木の下へ。


それから、さらに先へ。


塀の方へ。


若い祓い屋は、それを追わなかった。


ただ見ていた。


足跡は、塀の手前で止まった。


その先には出られないのかもしれない。


あるいは、そこでよかったのかもしれない。


梅の木から、青い実がひとつ落ちた。


ころ、と土の上を転がった。


足跡は、そこで消えた。


完全に。


何かが救われたようには見えなかった。


成仏したとも思えなかった。


ただ、奥座敷にあったものが一つ、外の土に触れた。


それだけだった。


若い祓い屋は、草履を拾わなかった。


そのまま、梅の木の下へ置いた。


家の中から、叔父の声が聞こえた。


祓いが終わったのだろう。


濡れた足跡は、もう出ない。


たぶん。


けれど、出なければよいというものでもなかった。


若い祓い屋は、そのことを知っていた。


知っていて、一つしか出せなかった。



朝になった。


家の者は、礼を言った。


当主は、顔色が戻っていた。


妻は、何も言わなかった。


ただ、庭の梅の木を見ていた。


その目が、草履を見ているのか、梅を見ているのか、若い祓い屋には分からなかった。


一族の者たちは、不機嫌だった。


叔父ははっきりと言った。


「未熟だ」


若い祓い屋は、黙っていた。


「依頼の外へ出るな」


「はい」


「怪異に情をかけるな」


「はい」


「外道に寄るぞ」


「はい」


返事だけはした。


けれど、その声を聞いて、叔父はさらに顔をしかめた。


聞いているようで、聞いていない。


そう思ったのだろう。


「一つしか出せなかった」


ご隠居が言った。


その声に、若い祓い屋は顔を上げた。


「はい」


「残りは消えた」


「はい」


「お前が選んだ」


「はい」


「なら、忘れるな」


ご隠居は言った。


「出した一つだけを覚えるな」


若い祓い屋は、何も言わなかった。


「出せなかったものも覚えろ」


風が吹いた。


春の匂いの中に、少しだけ夏が混じっていた。


草の匂いが濃くなる。


水の匂いも変わる。


季節が移ろうとしていた。


「師匠」


若い祓い屋は言った。


「私は、間違えましたか」


ご隠居は、すぐには答えなかった。


門の外へ向かって歩きながら、面倒くさそうに言った。


「間違えた」


若い祓い屋は、目を伏せた。


「そうですか」


「だが」


ご隠居は、足を止めずに続けた。


「見えてしまったものを、見なかったことにするよりはましだ」


若い祓い屋は、ご隠居の背を見た。


「それは、褒めていますか」


「阿呆か」


ご隠居は吐き捨てた。


「褒めるところなど一つもない」


「では」


「残したなら、責任を持て」


そう言って、ご隠居は振り返った。


目つきは悪い。


声も悪い。


けれど、その目は、若い祓い屋が見ていたものを、少しだけ見ていた。


「消すだけなら、阿呆でもできる時がある」


若い祓い屋は、黙って頷いた。


ご隠居は、また歩き出した。


一族の者たちも続く。


若い祓い屋は、最後にもう一度だけ庭を見た。


梅の木の下に、小さな草履がある。


朝の光の中で、それはただの古い草履に見えた。


濡れてもいない。


動きもしない。


もう、足跡もない。


それでも、そこにあった。


外に。


家の外に。


そのことだけが、確かだった。


「行くぞ」


叔父が言った。


若い祓い屋は頷いた。


門を出る。


山際の道には、初夏の風が吹いていた。


ご隠居が、少し先で立ち止まる。


振り返らないまま、その名を呼んだ。


「百合」

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