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エリート社畜、異世界でニートを目指す。  作者: う●こ味のカレー


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7話 金のタマタマ


 職員募集のビラを手に受付へ向かった。


 職員は俺の手に持つビラを目にするなり、別室に案内してくれた。


 ほぼ同時に、年配の男性職員が別室に入ってくる。

 平の職員と違って身なりがしっかりしている。手にしたバインダーから中間管理職と思われる。

 いや、人事のお偉いさんかもしれない。

 失礼が無いよう、背筋を伸ばして胸を張った。


「良かった応募者が来てくれて」


 聞き捨てならぬセリフを聞いた! もしやブラック企業か!


「こ、今回、職員応募をかけた理由なのですが……聞いてもよろしいでしょうか?」


「構いませんよ。どこから話せばいいか……。実はベテランの職員が故郷に帰ってしまって、人手がほしかったところです。ところで職員募集のビラに書かれている内容は読みましたか?」


「目は通してます。ギルドが求めているのは計算が得意な者でしょう」


「その通りです。失礼ですが、どちらのご出身でしょう? ああ、これは形式的な質問で…………」


 回りくどいやり取りだ。雇いたくない感じがプンプンしやがる。


 疑いの目を向けられる要素を探す。それは簡単に見つかった。ジャージだ。

 ジャージ姿で面接に来たら、そりゃ勘繰りもするよな……。


 すでにやらかした後なので諦める。

 ただの社畜ではないエリート社畜の力を見せてやる! 失敗した分は、トークで取り返そう。


 志望動機が遠くから来たと言っても雇ってもらえないだろう。

 凡人と違う、キラリと光る雇いたい感を演出せねば!


 機転を利かせたセリフを考える。


「遠くからやって来ました。なんていうか、住み慣れた土地もいいですが、たまには違った場所へ行きたいなと。まあ、そんなところですね。本音を言うと、都会に出て一旗あげたいって気持ちのほうが強いのですが。学問を修めるにしても、ただ一カ所に留まっていては自身の成長が実感できませんし。都会で自分の力がどこまで通じるのか試したいというのもあります。ギルドならば別の支部の手伝いなどもあるかと思い、そちらでも役に立てるかと思いまして、今回の応募に至りました」


 田舎から出てきましたでは足下を見られる可能性がある。

 だから向上心――スキルアップに前向きだと付け加えた。

 それでいて、会社を裏切らない雰囲気も……。暗に転勤OKを示しつつ、言葉巧みに売り込んだ。


「ほう、力試しね……なるほど、なるほど。私も故郷から出てきたので、その気持ちはよく分かります」


 年配の職員は人当たり良く言うが、こちらから情報を引き出す気持ちが目に表れていた。

 好意を示す反面、冷めている。足下に列をなしているアリを冷淡に観察しているような眼差しだ。

 どうやら第一印象は悪いらしい。不採用にする理由を探しているようにしか見えない。


 前世で培った社畜スキルを見せてやろう!


 手始めに名刺を手渡した。


「これは?」


 どうやら名刺文化は根付いていないらしい。

 現代社会日本は頑なに、この古い風習を続けている。

 外国でも廃れていっていると聞く、いずれはデジタルデータの名刺に取って代わられるだろう。

 そんな古式ゆかしい名刺だが、この世界では斬新らしく男は食い入るように見ていた。


「ヤシロ・チクマ、あまり聞かない名前ですな。それに肩書きも……『営業』と書かれていますが、これはどういった役職なのしょうか?」


「端的に言うと、交渉役ですね。ビジネストークには自信があります。ですが、今回は読み書き計算の手がほしいとのこと。そちらも得意分野なので問題ありません」


「交渉役……ですか」


 窓口の交渉役も募集していたので、最悪不採用でもそっちに逃げられるだろう。


「疑うようでしたら、そちらの求める人材かテストをしてみてはいかがでしょう?」


「そうですな。それが一番手っ取り早い」


 中世のような町並、服装。電卓ではなく、ソロバンをつかった計算問題だろう。

 そう思っていたのだが、遥かに文明の遅れを感じさせる手計算ときた!

 おまけに見たことのない板が用意されている。


「なんだこれは?」


 思わず疑問が口を出た。


「計算につかう蝋板ですよ。ご存じないのですか?」


「あまり必要性を感じなかったもので……」


「必要性を感じない? あなた本当に計算ができるんですか?」


 あからさまに疑いの目を向けてきた。

 失敬な! こう見えてもソロバン検定初段だぞ! 頭の中で、金のタマタマを弾いて、暗算できるんだからなッ!

 面接を受けにきたので強く言えない。だから心の中で怒鳴った!


「疑問はごもっとも、テストを受ければハッキリします。早くテストを始めましょう」


「そうですな。では問題と解答用紙を……」


 出題されたのは、小学生レベルの計算問題だった。

 五桁の足し算引き算に、二桁のかけ算割り算。

 √をつかった問題は出ないと踏んでいたが、まさか分数の問題まで無いとは……。この世界の住人、頭大丈夫か?

 問題は一〇問だけだったので、計算はすぐに終わった。


 見張りの試験官に終わったことを告げると、えらく驚かれた。


「えっ、もう終わったのですか!?」


「終わりました。見直しもやりました」


 解答用紙を渡す。


「しょ、少々お待ちください。採点してきますのでッ!」


「採点って……この場ですぐにできるでしょう」


 採点を急かすと、とたんに試験官の目が泳ぎだした。

 もしかして、こいつ計算できないとかないよな……。


「……き、規則なのでッ!」


「ああ、規則ね。なら仕方ない、待っていますので採点をお願いします」


 確認が必要だということは、試験官に賄賂(わいろ)を握らせて不正できないようにしているのだろう。

 中世並の、のほほんとした世界だが、警戒心だけは旺盛(おうせい)らしい。

 まったく理解に苦しむ連中だ。


 試験官は部屋を出ていき、しばらくすると、さっきの男を連れて戻ってきた。


「すみません、一問抜けていました。こちらもお願いします」


 試験を受けさせておいて記載ミスとか、ないわぁ。

 7桁の足し算だったので、サクッと暗算で終わらせた。


「答えは、7483749」


「……あ、合ってる」


「そりゃあ合ってて当然でしょう。計算して解いたんですから」


「…………」


「まだ抜けていた問題でも?」


「いえ、これで全部です」


「では、試験は終了ですね」


「はい」


「結果はいつ教えてもらえるのでしょう?」


「……採用です」


 随分と呆気ないなと思っていたら、商業ギルド最速の計算スピードだったらしい。

 おかげで日当が募集のビラに書かれたよりも多めで採用された。銀貨五枚だ。ビラに書かれた額のおよそ1,6倍。フッ、そこいらの社畜とは違うのだよ、そこいらの社畜とは!

 まあ、言うても社畜なのだが……。


 とりあえず、子供の頃に通っていたソロバン塾の先生に感謝した。

 ありがとうございます。おかげで給料増えました(ほっこり)。


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