5話 詐欺サイト
翌朝、いつものようにスマホの目覚ましアラームで起きる。
ベッドにノミやダニはいなかったが、恐ろしく硬い寝床だった。おかげで全身がバッキバキだ。
この世界の寝具がクソだと知る。
スマホのバッテリー残量を確認したら、昨日と変わらず∞だった。
「ありがてぇ、ありがてぇ」
画面に着信メッセージが届いていたので開いてみる。
チュートリアル達成おめでとうございます。
これであなたも異世界初心者、これからも切磋琢磨して世界のために頑張ってください。
本能的にロールバックしたくなったが、我慢した。
続きを見る。スライドさせると嬉しい特典があった。
チュートリアルのクリアボーナスとして恩恵を授けます。
換金……こちらの世界と元いた世界の通貨換金。バム→円、円→バムに。
通販……元いた世界のアイテムを購入可能。ただし使えるのは円だけ。
「アイテム購入ッ! これだよ、これ、俺が待ち望んでいたのはッ! 現代社会日本の便利グッズを売り捌いて、楽して一攫千金! まさに異世界転生の醍醐味! 勝ち確じゃねーか!」
ジュルッ!
「嬉しさのあまりに涎が出てきたぜッ!」
涎を拭い、説明を読む。
「何々、換金レートは固定。貢献度により変動? どういうことだ?」
さらに読み進めると、女神の依頼を達成すると換金レートが上がるのだとか。
「別に上がらなくてもいいだろう。百均の便利グッズが何万って額で売れるだろうからな。勝ち組よ、勝ち組」
勝利を確信しながら、レートを見る。
信じられない罠が待ち構えていた!
「銅貨一枚が、一円だとッ! こんなの絶対おかしいYO!」
食事付きの宿泊費が銀貨二枚だ。銀貨=銅貨一〇枚だから、宿泊費は銅貨二〇枚。
ここが一般的な宿だとしてざっくり計算すると、貨幣価値は銅貨一枚=千円くらいになる。
それがバムから円替えすると約一〇〇〇分の一だと!
「銀貨一枚が十円とか、どう考えても嫌がらせだ!」
これがもし、一〇分の一だったらワンチャンあっただろう。
エリート社畜として磨いた営業トークで売り捌く自信はあった。
が、レートが一〇〇〇分の一では……。
現代社会の百均グッズを仕入れるのに、金貨と銀貨が一枚ずつ。
割に合わない……。
利ざやで儲ける野望が、一瞬にして崩れ去った。
「いや、待て! ネットバンクに入れている金を使えば……」
専用アプリでネットバンクにアクセするも、
「おい、全然繋がらないぞ!」
狂ったように液晶画面を指で叩いていたら、メッセージを信した。
「女神からか?」
メッセージを開いてみると、前世の口座関係は利用不可とのこと。
つかえない恩恵に発狂しかける!
「あのアマァーーー! 今度会ったら、尻が倍の大きさになるまでぶっ叩いてやるぅ!」
会えるかどうか分からない女神に毒を吐いても意味はない。
冷静になって考える。
手持ちの金がスマホにプールできるので、ぶっ込むことにした。
財布の中身を調べる。
「えーと、カード決済できない店で革靴買おうとしていたから、銀行から下ろした三万が入っていたな。あとはいつも持ち歩いている三千円くらいか……。おっ、全部で三万四千七百八十七円入ってる! ラッキー!」
日本円を金貨に換金するか、通販で現代社会のアイテムを買うか悩んだ。
「落ち着いて考えよう。円からバム換金すると千倍だ。だから、三千万バムは軽く越える。こっちの世界では大金だ。しかし、換金してしまうと現代社会の便利アイテムを買えない。換金しないと、現代社会のアイテムが三万四千七百八十七円分買える。どっちがお得なんだ?」
男なら一攫千金を狙って、アイテム売買をするのだろうが、手持ちは三万四千七百八十七円。
失敗するかもしれない賭けに全財産を投じる度胸はない。
そんなわけで、引き続きこちらの世界でも社畜をすることにした。
その前に腹ごしらえをしよう。腹が減っては戦ができぬと言うし。
マズイ飯は食いたくないので、通販で食糧をゲットしよう。
新たな恩恵である〈通販〉――スマホの通販アプリを起動した。
通販サイト『カミゾン』のサイトに切り替わる。
説明されなくても分かる操作方法。既視感のあるロゴマーク。某大手サイトをパクったようなデザインだ。
著作権問題や、フィッシング詐欺サイトを彷彿とさせる。
だが、操作性が同じのなのはありがたい。
食料品を探す。
「おッ! 前世よりアイテム数が多いぞ! ファストフードの出前まである! それ以外にも物騒なアイテムを売っている髑髏マークのサイトにも繋がっている!」
髑髏マークのサイトには『俺つえぇ』できる、黒光りする無骨な鉄塊が売られていた。しかし、お高い! なんせ非合法の品だ。現実社会でも激レアで目玉が飛び出るほど高い。
「ライフル弾が一発一〇〇〇円って、超コスパ悪いな。『俺つえぇ』は、厄介事が転がり込んでくるフラグだし、今回はスルーしよう」
髑髏サイトから移動した。
気を取り直して、食料品だ。
若返って第二の人生をスタートしたお祝いだ。景気よくやろう!
宅配ピザに缶ビール、フライドポテトを選択。全部で約五千円の出費だ。まあまあの散財だが、こういう儀式はケチってはいけない。士気向上のためにパアッとやらねば!
ブラック企業の経営者みたいに、誰も見向きもしないゴミみたいな品を『日頃の労い』と称して押しつけられては従業員もやる気が出ないだろう。それと同じだ。
決済ボタンを押すと同時に、目の前に現れた。
タイパ抜群の演出に喜ぶも、頼んだ以上に金が減っていてビビった!
「嘘だろう! これ詐欺じゃねーかッ!」
アカウントの預金残高が二万五千円にまで減っていた……。
詳しくサイトの説明を読むと、送料が引かれる仕組みになっている。悪質なことに決済画面では表示されない! 送料は商品一つにつき千円! 缶ビールに至ってはクール便扱いとなっており値段が倍になっていた!
「ちっきしょーーーーッ! こんなの詐欺サイトと同じじゃねーか! 女神のアマァー、ハメやがったなぁーーーーー!」
必死になって、返品しようとサイトを調べるも、クーリングオフは受けつけていなかった。
「それにしても危なかったな。もし百均グッズで一攫千金を狙っていたら……」
送料千円という罠で爆死していただろう。
諦めて飲み食いする。
「クソッ、高い金払っただけあってキンキンに冷えてやがる! ムカつくけどうめぇ!」
朝からビールを飲み、駄目な大人になったことを噛みしめつつ、飯を食べた。




