2話 ステータス確認
子供の頃、名前のせいで学校でからかわれたものだ。
それもこれも全部親のせいだ。
親が筑摩なんて名前を付けたせいで、社畜という渾名が定着した。
まあ、俺も社筑摩なんて名前を見たら、同じことを考えただろう。
しかし、当時のクラスメイトは酷い。
それを口に出して渾名にするか?
異世界に渡った今、そんなことを言ってくる奴はいないだろう。まあ、こっちの世界にも社畜という概念がなければの話しだが……。
金髪美人――女神から聞いた話だと、魔法や魔物が存在する中世みたいな世界だからな。
文明の香りは無いが、ニートの恩恵がある。引きこもる分には問題ないだろう。
しかし、あの女、とんでもないところに俺を置き去りにしやがったな……人っ子一人見かけないぞ。
どうやって引きこもるんだ?
とりあえず現状確認だ。
薄暗い森に、緑の天蓋から陽光が降り注いでいることからして日中だと分かる。
目の前に広がっている森を見渡す。
遥か遠くに目をやるも、拓けた場所を示す明かりは見えない。
森は、かなり広いらしい。
「ということはジャングル? にしてはジメジメしてないな。獣の姿も見えないし、声も聞こえてこない。安全地帯と考えて良さそうだな。しかし、なんだ。引きこもりOKのくせに森の中に放り出すとは……クレームものだぞ。せめて街に出してくれれば良かったのに。次に会ったら難癖つけて、謝罪と賠償を求めよう」
引きこもり生活が微塵も感じられない現状を、嫌々受け入れた。
「とりあえず、ラノベで定番のアレをやるか! ステータスオープン!」
周りに人がいないことを確認してから、最後の部分が無意識に小声になった。
「地味に恥ずかしいな、コレ。アラフォーだからな、周囲に人がいないのは分かっていても、誰かに聞かれたら恥ずかしいし」
社畜の悲しい性か、解放よりも抑圧を選んでしまった…………。
日曜の朝にやっている特撮ヒーローの俳優のメンタルが鋼だと知る。
子供の頃は、特撮ヒーローみたいな大人になりたいと思っていたが、実際大人になってみると、かなりハードルの高い仕事だと思った。
特撮ヒーローなんて、俺のシャイなハートでは無理な職業だ。
子供たちが、将来支援してくれる存在になると分かっていても嫌だ。
子供たちは長生きする。若い分、死ぬまでずっと言われ続けるだろう。
歯に青のりがついているとか、ズボンのチャックが全開だったとか、些細な失敗を死ぬまでずっと……。
「子供にイジられ続ける人生とか、ノーサンキューだわ」
そんな考えもあって周囲に人がいないか、異様なほど敏感になった。
で、勇気を振り絞って声に出すも、肝心のステータス画面は出てこなかった。
代わりに、鳥が一羽舞い下りてくる。
サポート妖精的なキャラだろうか?
そう思って見上げていたら、糞を落とされた。
「クソッ、頭にかかったじゃないか!」
自身のステータスもギフトも確認できない状況。
仕方なく初期装備を確認する。
着ている服はジャージで、安物のサンダルを履いている。
なぜか、クリーニング店でもらえるスーツの入った手提げ袋を持っていて、足下には鞄も。
ポケットをまさぐると、スマホに電子タバコ、財布があった。
「鞄の中身はなんだ? 会社の資料ってのは勘弁してくれよ。異世界に来てまで、仕事のことなんか考えたくない。これからはニートになるんだからな」
鞄には、こまごました物が入っていた。
全部しらべるとなると一度鞄から出さないといけない。
時間をかけたくないので、目につくものだけしらべた。
筆記用具に着替えの下着、革靴、どうでもいい名刺が入ったアルミケース。
「会社のやつじゃないだろうな?」
アルミケースから名刺を一枚取り出す。
見たことのない文字が印刷されていた。
ミミズがのたくったような文字だったが、不思議と読めた。ラノベ定番の主人公補正に違いない!
「えーと、なになに……人里離れた森に住む伝説の〝にーと〟。肩書きは社畜……女神の奴ッ! ガキの頃におちょくられた黒歴史を掘り返しやがって! 俺の名前は社 筑摩だッ、社畜じゃないぞ! それもただの社畜じゃないエリート社畜だ! 自由が欠片も無いブラック環境だったけどな、年収は一千万超えてたんだぞ!」
スマホで観るアニメだけが生きがいの人生。つらい過去を思い出してしまい悲しくなってきた。
もっとポジティブに考えるんだ! これからは夢のニート生活、焦らず行こう。
ブラックな思い出を記憶の奥底に封印する。
まずは命とも呼べるスマホを確認した。
「バッテリーは……なにッ、∞だと!」
ニチャァ。
女神の粋な計らいに、思わず頬が緩んだ。
「分かってるじゃないか!」
受信レベルもマックスだ。確認のためにプレミア契約しているサイトに繋ごうとしたら、弾かれた。
「くそっ、受信レベルマックスなのになんでネットに繋がらないんだ! 最低じゃねーか!」
なぜか、知らない相手からメッセージが届いている。
開いてみると、女神からだった。
「えーと、なになに……『まずはチュートリアルをプレイしてから、第二の人生に挑んでください』だと。フンッ、挑むか……ニートは挑むものではない。現実社会で抑圧していた欲望を解き放つだけ。毎日だらけるという誰もが羨む生活を送るという欲望をな」
強気に口に出したものの、女神のアドレスは登録しておいた。
それが終わると、新たなメッセージが届く。
メッセージには、スマホでステータスを確認できるとあった。それと気になる文言が。
『いまどき、ステータスオープンとかあり得ないんですけど……』
俺の動向はすべてお見通しのようだ。勇気を振り絞って声に出したのに……。
胸が苦しくなった。
恥ずかしさのあまり張り裂けそうだッ!
「とりあえず、面倒臭いチュートリアルを終わらせよう。その前にステータスの確認だな。何事も下調べが肝心。知らない会社に行くのなら、まずはその会社のホームページと評判を確認する。そして、舐められないよう身なりもビシッと決めないとな!」
スマホ画面をタップして、ステータスを確認する。
age16
「なにぃッ! 一六歳だとッ! 若返ってるじゃないかッ! 神様ありがとうッ!」
スマホで自撮りして顔を確認しようとしたが、なぜか映らなかった。
自分の顔が分からないのはネックだが、できればイケメンであってほしい。
引きこもり生活を送るので顔なんてどうでもいいことだが、買い物に行くとき役に立つ。
ブサメンと違って、イケメンは社会的強者だからな、ある程度は舐めプが許される。
まあ、フツメンでもいいが、ブサメンだけは勘弁してほしい。
許容範囲はチー牛までだな。
若返ってのは嬉しいが、自分の顔を見ることができないのは残念だ。
まあ、顔を見られないからといって死ぬわけではないのでスルーした。
お次はステータスだ。
こっちが本命! 顔よりもウェイトの高いパラメータで、これが俺の生き方を決定づける。
ドキドキしながらスマホに映る、ステータスアイコンをタッチした。
H P:210 M P:210
体 力: F 魔 力: F
知 力: A 腕 力: F
器 用: B 交 渉: F
瞬発力: F 運 : S
人 望: F 欲 望: F
人間性: F 魂 : F
「…………解せん。エリート社畜なのは認めよう。体力Fも理解できる、しかし、腕力Fはいただけない。もやしっ子という自覚はあるが、毎日通勤で歩いているぞ。資料がびっちり詰まった段ボールだって持てるんだからなッ! それよりも気になるのが知力だ。数々の商談を成功させてきたのにAだとッ! 俺は出来る男だ! 海外でのインフラ事業、国家レベルのイベント運営、マスコミに大々的に取り上げられる超巨大商業施設の建設。どれも億単位の商談だ、それをもぎ取ってきた。それなのに、なぜA止まりなんだ! よく見ると運がS……もしや、いままで成功してきたのは運のおかげだというのかッ!」
才能だけで仕事を成功させてきたと思っていたのに……。
悲しい現実に心が折れかけた。
「器用はBと手先が器用な日本人らしいな。それと……欲望がF。フッ、アニメにかけた情熱はカウントされないらしい。前世の人事同様に、アテにならん結果だな。まあ、ラノベに出てくるステータスなんて、所詮はお飾り、物語が進めば成長するので無視しよう。なんせ伸びしろのある一六歳なんだからなッ! そもそも、いきなり強キャラでは今後の楽しみが減るというもの。ニートだが、新鮮な発見がないと心が乾いてしまう」
大人の理解を示して、画面をスクロールする。
続きがあるようなので、そっちも目を通す。
称号
『エリート社畜』強靱+++、忍耐+++、痛覚遮断、感覚麻痺
『にーと』鈍感+++
「プラスの効果はよく分からんが、しぶとそうだ。強靱、忍耐といった要素があるということは、ステータス以外の隠しパラメータが存在するのだろう。やり応えのあるゲームみたいだな……。ま、引きこもるし、細かいことはどうでもいいか」
次にスキルの確認。
こちらはなぜか多い。
保有スキル
サビ残……HPがマイナスに振りきっても死なない。
休日出勤……休日限定イベントが100%発生する。
土下座……年に一度だけ失敗を許してもらえる。ペナルティとして所持金マイナス。
聖域……引きこもりの城。拠点と定めた空間限定で最強になれる。
説教聞き流し……あらゆる精神攻撃を無効化する。
社畜アーツ……あらゆるビジネスツールを武具に変えられる。
DIY……物を作れる。
それ以外にも、七三フラッシュ、ハチワレフラッシュ、チー牛召喚など、どうでもよさげなスキルがあった。
「……〈社畜アーツ〉とか要らんぞ。このスキル、完全にお遊びだろう。効果も〈聖域〉以外はイマイチっぽいな。〈サビ残〉なんかは良さげだが、魔物が居るであろう異世界だ。延々と死体蹴りされる未来しか見えん。ネーミングの割に〈説教聞き流し〉が強いな。まあ、物理で押し切られたら意味ないけどな」
最後の部分を読む。魔法だ。
「俺が求めていたのはこれだよ! で、どんな魔法が使えるんだ」
習得魔法
ファックス……アドレスを登録した場所なら、どこでも瞬時に移動できる。ただし、登録は一カ所のみ。変更可。
エク●ル……表計算ができる。
ワー●……文章作成ができる。
パワーポ●ント……プレゼンができる。
ライ●……フレンド認定し、かつ受理してくれた相手にだけ思念を送ることができる。
カメラ……見たまんまを記憶できる。
AT限定……乗り物を操縦できる。ただし簡単な乗り物限定。
「魔法じゃなくてアプリだろう! 地味に免許とかあるけど、それなら簿記検定やTOEICも入れろよッ! ITパスポートだって持ってるんだからな!」
使えるのか、使えないのか分からんが、言えることはただ一つ。
「現状で、役に立つスキルや魔法は皆無だな……」
「とりあえず、今夜の寝床だ。森の中で野宿とか絶対に嫌だからな。この森、蛇とか出ないよな?」
鱗に覆われた、ヌメヌメ光る生物が壊滅的に苦手な俺は、ビビりながらも民家を探した。




