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エリート社畜、異世界でニートを目指す。  作者: う●こ味のカレー


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1話 よくある死亡と転生


 俺の名前は(やしろ) 筑摩(ちくま)

 どこにでもいる社畜だ。

 ただし、普通の社畜ではない。エリート社畜だ。


 給料もエリートで年収は二千万を超える。

 俺に言わせれば、これでも給料は少ないほうだ。なんせ年間、数十億もの商談を成功させているのだからな。


 ちなみに残業もエリートだ。

 定時に退社できるホワイト企業だが、抱えている案件が多すぎて毎日七時間も残業している。

 年間休日数は五二日。

 GWは当然ながら、盆や正月も出勤と吐き気を催すブラックな社風。

 そんなわけで、月平均一五〇時間超えの残業をこなしている。

 過労死待ったなしのレベルだ。巷で囁かれているブラック企業がホワイトにすら思えてしまう。


 家に帰っても寝るだけで、俺に自由は無い。週に一度あるか無いかの休日も、プレゼンの資料作りに消える。

 仕事だけの毎日だ。人生に潤いがない……。


 それもこれも人事の連中が悪いッ! 奴らがマシな人材を採用していれば、俺に仕事のしわ寄せが来ることはなかった!


 おっと、俺としたことが取り乱してしまった。エリートらしくないな。

 人事の連中にも問題はあるが、コロナも影響している! 一概に彼らが悪いと責めるはやめよう。

 無能は無能なりに頑張っているのだからな……。


 そもそも低スペ人事に能力を求めるほうが酷というもの。

 ここは使えない人材をねじ込んできた転職サイトに文句を言うべきだな。


 多忙な日々もあって、学生時代から夢見ていた大人買いや長期にわたる海外旅行は断念している。

 金はあっても時間が無いのだ。


 ああ、ニートが羨ましい。


 世間と繋がりを断っている現代社会の世捨て人、彼らが羨ましくて仕方ない。


 俺もニートになりたい。


 そんな考えもあって、彼らと同じ空気を吸うべく身を粉にして働いている。

 試算によると、このペースで働けば四〇歳には余生を送るのに必要な生活費が貯まっているはず。

 念のため、四五歳まで働いて、余裕をもって会社を辞めよう。

 そこで第二の人生――ニートの仲間入りだ。

 それまでの辛抱。


 そう自分に言い聞かせて働いてきた。

 しかし、現実とはままならぬもので、夢のニート生活まであと一歩というところで、俺は倒れてしまった。





(やしろ) 筑摩(ちくま)、あなたの望みを(かな)えてあげましょう」


 どういう仕掛けか分からないが、おっぱいバインバインの金髪美人がふわふわと宙に浮かんでいた。

 さっきの声はその美人のものだ。


 純白の布地を身体に巻きつけたようなハレンチ衣装に、垂れ流しの怪しいオーラ!

 新手の保険勧誘かッ!


 返事をするのを躊躇(ためら)う俺に、金髪美人が続ける。


「あなたは選ばれたのです。辛く険しい人生から解放してあげましょう」


 そっち系か! 特別感を演出する勧誘の手口。間違いない怪しい宗教勧誘だッ!

 揚げ足をとって、どうやって論破しようか考えていると、意表を突かれた。


「……っていうか、すでに死んでいます」


「えッ! 死んだ? どういうことだッ?!」


享年(きょうねん)四十四歳、過労死です。家のベッドでぐっすり眠ったところで心筋梗塞(しんきんこうそく)を発症、そのまま人知れずポックリと。誰に看取(みと)られることなく人生を終えました」


「嘘だッ、証拠はあるのか! 証拠はッ!」


「嘘のような本当の話です。と、口で言っても認めないでしょう。特別に証拠をお見せしましょう」


 美人が、どこに隠していたのかギラギラ光る剣を取り出した。


「おい、ちょ、待て! 銃刀法違反だぞ!」


「あ、そーれ」


 美人はやる気のない声で、俺の胸を貫いたッ!


「ギャーーー、って…………あれっ? 全然痛くないぞ?」


 刃の中程まで身体に埋まっている剣を指で弾く。

 コンコンと固そうな音がした。聞いたことのある金属の音だ。


「これ、まさか本物の刃なのか?」


「本物も何も、見たとおりです。言ったでしょう、死んだと……。死んでいるのだから痛みはありません。それに出血も」


 胸に刺さった剣を引き抜くも、血は一滴も流れ出ない。剣もギラギラしたままで、血液が付着していない。


 騙されないぞ! 学生時代にアニメの原画詐欺でさんざん勉強してきたからなッ!

 いま刺された剣は、手品で使うギミックアイテムだ! プロ仕様だから素人には見抜けないんだろう! きっとそうに違いない!


「あんた手品師だな。剣に細工を……」


 さっき俺を貫いた刃を掴み取る。次の瞬間、スパッと指が落ちた。


「えッ! あッ!? ど、どど、どうなっているんだ!?」


 痛みも出血も無い。

 無事な左手で、指の無くなった断面を差して、美人に身振りで訴えかける。


 すると美人は、呆れた様子で肩をすくめた。


「だから言ったでしょう。死んでいると……」


 とりあえず、落ちた指を拾って元に戻す。

 認めたくない現実を経験してしまっては、手品なんて言えないな。美人の言葉は本当なのだろう。

 嫌々、現実を受け入れた。


「あっ、くっついた! 危うく指とおさらばするところだったぞ」


「理解してもらえたようなので、話の続きです。社筑摩、あなたは選ばれたのですッ! そして、異世界に渡る権利を手に入れたッ! あなたの望みはなんですか?」


 異世界……か、嬉しい提案だ。しかし、素直に喜べない。こういう美味い話には裏がある。


 社会人に成り立ての頃、上司に連れていってもらった店で経験した。

 きっと美人の背後にはグラサンを掛けた怖いお兄さんたちが控えているのだろう。そして、美人に触れた瞬間、出てきて定番のフレーズを口にするのだ。

「お客さん、お触りは厳禁ですよ。罰金払ってください」とか、「まさか払えないとは言わねーよな?」とか、難癖をつけてきて有り金を根こそぎ奪っていく……。


 あり得る展開だ。


 SNSで小馬鹿にされるような不祥事。消し去りたい人生の汚点でもある。

 だから、いまでも鮮明に覚えている。

 黒歴史なんてのは学生時代で十分だ! 世間知らずだったあの頃とは違う!


 警戒しながら、どうやってこの場所から逃げ出そうと考えていると、金髪美人は見透かしたかのように言った。


「よほど酷い人生を歩んできたのですね、可哀想に……。ですが、警戒せずともけっこう、私は女神なのですからッ!」


 そういう設定か!


「設定ではありません! 真実を述べたまでです!」


「なにッ! 俺の心が読めるだとッ!」


「女神なのですから、そのくらいは当然です。疑っているのなら、あなたの過去を当てましょうか?」


 そこから、自称女神は、俺を発狂させるに十分なトラウマを掘り起こてくれた。

 それも俺しか知らない黒歴史を。


「ふおぉぉーーーーーーーッ! やめろぉッ! あの時はまだ子供だったんだぁーーーーッ! なにも知らなかったんだぁーーーッ!」


「知っています。ですから救済に来たのです」


「救済だと?」


「辛い人生から解放し、幸せな第二の人生を歩む権利を与えると言ったでしょう。第二の人生、ズバリ異世界転生です!」


 ……それはさっきも聞いた。


「そんな甘いこと言って、転生したら魔王を倒せとか、世界を救えとか言い出すんじゃないだろうな?」


「残念ながら違います。あなたには世界を救う才能は有りませんから……」


 悲しげな顔で、しれっと心をへし折るパワーワードをぶち込んできやがったよ!


「そ、そんなこと……本人抜きで勝手に決めるなよ」


「認めたくないのは分かります。ですが、事実なのです!」


 自称女神は、才能が無いと判断した理由を列挙した。

 日頃の行い、人間性、身体能力、そして性格。


 お世辞ではないが、社畜だったので運動能力に自信は無い。

 おまけに群れた経験が無く、学生時代は無口な友人が一人だけ。

 そんなわけで、タイパ、コスパを重視する人生を歩んできた。

 唯一の楽しみといえば、隙間時間にスマホで観るアニメか、田舎暮らしを見越して見ていた雑学系サイトくらい。


 なるほど、つまらん人生だ。悲しいくらいに世界を救う勇者要素が欠落しているな。


 前世を振り返って、悲しくなってきた……。

 完膚(かんぷ)なきまで打ちのめされ、俺は瀕死(ひんし)の状態。


「ハァハァ……」


 無駄に速くなる鼓動。理性がガリガリ削られていくのがわかる。

 心臓が苦しい……心が痛い!


「ですから、『世界を救う』などといった無理な頼みはしません。ちょっとした雑用を頼むくらいです。普通に異世界ライフをエンジョイしてください」


「で、でも、異世界に行って俺適応できるのか? 自慢じゃないけど仕事人間だぞ」


「心配いりません。そのための〈恩恵(ギフト)〉を授けます。さあ、あなたの望みを言いなさい……」


「俺の望みはニートになることだッ!」


「にーと?」


「ニートってのは、引きこもりのことだ。誰に気兼ねすることなく一人で静かに暮らす。それこそがニートだ!」


「異世界でいうところの世捨て人――隠者や賢者のようなものでしょうか?」


 三十歳まで童貞を貫くと魔法使いになれるとネットにあったな。

 隠者や賢者は世捨て人ってイメージがある。生涯独身といった感じだ。

 まさに俺が求める職業そのものじゃないか!

 望むところだ! モテない歴=年齢、彼女などとうに諦めている! 孤独死どんと来い!


「ニートになること、それが俺の夢だ! 第二の人生を引きこもりに捧げたい!」


 仕事のない自由な人生。

 冷暖房の効いた部屋で食っちゃ寝して、スマホで一日を潰したい。

 思い存分二度寝して、ゲームして、好きな時に好きな物を食う。

 一度でいいから、そんな生活がしてみたかった。


「ニートになることが(かな)うのなら、悪魔にだって魂を売り渡すさ!」


 却下されるだろうと思っていた願望は、意外なことにすんなりと受け入れられた。


「あのう、悪魔に魂を売るのだけはやめてください。あと真剣に考えてください、これからの人生に関わることなので」


「前世では毎日真剣に考えていました。ニートでお願いします」


(やしろ) 筑摩(ちくま)さんの望みは『にーと』。本当にそれでよろしいのですね?」


「はい」


「では、にーと生活を送るのに必要な恩恵を授けましょう」


 やった!

 夢のニート生活をゲットしたぞ!


 恩恵とやらをもらい、次のステップに移る。


「恩恵も授けたので、異世界へ送ります。目を閉じてください」


 おそらく次に目を開けた瞬間、異世界にいるのだろう。

 フフフッ、仕事のない平和な世界がウェルカムしてやがる!


 疑うことなく目を瞑ると、左側頭部に激痛が走った。


「ンゴッ!」


 感覚が揺らぎ、自分の中で()()()()()()()()()()()


「痛ってぇ……死んでるから痛くないんじゃ無かったのかよ!」


 クレームをつけようと目を開けたら…………。


「はぁッ!?」


 森が広がっていた。

 見渡す限り森で、それ以外の風景は見えない。

 道らしいものもなく、ただ鬱蒼(うっそう)(しげ)った森が延々(えんえん)と続いているだけ。


「あのアマぁーーーッ、俺を(だま)しやがったなぁーーーッ! どこに引きこもる場所があるんだよぉッ!」


 人生とはつくづく上手くいかないものである。


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