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東京テロ・ハンター 警視庁公安部外事第4課  作者: 中央国家安全委員会主席
第1章 異教の毒霧

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第3話 英国/警察庁

英国 チェルトナム

「カラス」――外事第4課総出の大騒ぎのきっかけは、ちょうど6日前、イングランド南西部のコッツウォルズ地方に位置するチェルトナム、まるでSFアニメに登場する秘密基地のごとき灰色の巨大なドーナツ型建築物、政府通信本部(GCHQ)が捉えた、ごく短いテキストメッセージだった。

GCHQの分析官たちはパキスタンとアフガニスタンの国境付近、北西辺境州という旧称でも知られるカイバル・パクトゥンクワ州の山岳地帯に潜伏中の、イスラム国ホラサン州(ISIL-K)支援者とみられるある男の携帯電話を徹底してマークしていた。インド北西部、パキスタン国境にほど近いアムリトサル近郊に極秘裏に設置された高感度アンテナが、大気中を飛び交う電磁波を執念深く拾い上げる。

デジタル信号の海から引き揚げられたそのメッセージはイスラム過激派特有の、比喩に満ちた不可解な文体で綴られていた。


『太陽が昇る地は既に我らの兄弟を受け入れた。不信仰者の都を覆う偽りの光は、敬虔なる信徒たちが掲げる炎によって焼き尽くされるであろう。ハリーファの剣は海を越え、東方の島国で既に鞘を払われた』


ほぼ時を同じくして、ロンドン。泥茶色のテムズ川を見下ろすように聳え立つ、緑色の防弾ガラスと要塞のようなテラス構造が特徴的な「リバーハウス」――英国秘密情報部(S I S)、通称MI6の本部。その南アジア地域課のデスクに、アフガニスタン及びパキスタン国内にまたがるISIL-Kネットワークに深く食い込んでいる協力者から、安全のため何人かの仲介者(カットアウト)を介して、緊急の提報が入った。情報源は、表向きは国境のペシャワールで交易を営む老舗の商人だが、その裏では長年イスラム過激派の兵站を支え、組織の内部事情を熟知しているMI6の最重要資産(アセット)だ。彼からの提報はいつも正確だった。


「……ISIL-Kの上層部がすっかり興奮状態だそうです。奴らはこう囁き合っている。『アッラーの意志により、最も鋭き爪を持つ『カラス』の一団が、東方の不信仰者の国へ舞い降りた。報復の種は既に蒔かれた』と。奴らの潜入は、ここ数日のうちに完了した模様です」


東京都千代田区 警察庁

霞が関の中央部、警視庁の隣に聳え立つ中央合同庁舎第2号館の20階、暗く人通りの少ない警備局フロアで固い鋼鉄の扉に閉ざされた国テロ課、その大部屋の執務室の更に奥まったところにある、テンキー式ロックの扉で区切られた小部屋。デスクの上に並ぶ2台のデスクトップ端末で受信された暗号通信が自動的に復号され、課員が慎重にプリントアウトした文書は直ちに日本の外事警察の最高幹部達に回覧された。

数時間後、とある会議室に錚々たる面子が顔をそろえた。会議を主導するのは、警察庁警備局長の安藤泰三警視監。その脇を、外事情報部長の一ノ瀬健警視監、国際テロリズム対策課長の真壁毅警視長、そして、警備局の筆頭課であり各課の垣根を越えた案件での調整を担う警備企画課長の佐藤慎也警視長が固めている。さらに、全国警察での国際テロに関する警備情報の実務を統括している国際テロリズム情報官、氷室慎平警視正が、手元の暗号化されたタブレット端末を操作していた。


「極めて深刻な『情勢』が生起しました」

「アフガニスタンに潜伏していた『カラス』が第三国を経由し、ここ1週間以内に偽変造旅券を行使して日本に既に入国した――」


氷室が重い口を開く。2021年までアフガニスタンに軍を駐留させ、旧大英帝国の中核であった南アジア一帯に今も強固な情報網を持つ英国からの提報は、警察庁が最も重く受け止めるものの一つだ。


室内の空気は実際の気温とは無関係に、凍りついたようだった。


「『カラス』単独ではなく、これまた人数不明の支援要員を含む、テロリスト・グループ自体がわが国に浸透した――」

「もはや、今この瞬間に東京で大規模テロが起きてもおかしくない。長官には私から既にお伝えしたが、官邸にも伝えねばなるまい。佐藤くん、総理秘書官にアポを取ってくれ」


安藤も重々しく言葉を発する。


「これは紛れもない国家的緊急事態だ。警備局、いや日本警察の総力を挙げて『カラス』を見つけ出し、無害化することが至上命題だ」

「直ちに警視庁外4と各県警の国際テロ対策室に『作業』を開始させます。事前旅客情報システム(A P I S)乗客予約記録(P N R)、入管の個人識別情報、税関、宿泊者調査(H 作 業)などあらゆる手段で当該期間の不審な入国者を洗い出し――イスラム系コミュニティへの視察態勢も、他課の応援を得ていっそう万全を期します」


真壁が、国際テロリズム対策課としての対応方針を力強く述べた。


「警備運用部とも連携し、重要施設、ソフトターゲットの警戒警備、要人の警衛警護にも、最悪の事態を想定して万全を期すようにいたします」


佐藤も続ける。


「とにかく失敗は許されん。何かをやらかす前に絶対に抑えるんだ」


安藤が厳命する。


「ところで、この『作業』の名前はどうする?」

「『フクロウ』ではいかがでしょう。カラスの天敵です。それから、捜査主体(モトダチ)は国テロ課でよろしいでしょうか」


一ノ瀬の発言に一同が頷き、会議は締めくくられた。

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