贈り物
よほど気に入ったのか。
彼女はプレゼントしたクリームイエローのワンピースをそのまま身に付けていた。
一万二千円という値段が妥当かどうかは分からない。
けど、使い道のなかったお金が意味を持った。
彼女の笑顔という、有り余るお釣りを連れて。
昼食は『ムック』で、ファーストフード。
もう少し、きちんとしたレストランとかのがいいのでは?
という僕の提案に、
「こういう普通のでいいの」
と。
彼女は満足気に微笑んでいた。
食後の散歩も兼ねてやって来たのは高松港。
商店街の外れから意外と近い。
フェリー乗り場への連絡通路にはベンチが設けられていて。
今座っている。
「優さん、一つ聞いてもいい?」
「なんだい?」
「何かさ、欲しいものある?」
「ああ、ないかな」
「だよね」
肩をすくめる彼女。
「その気持ちだけで十分だよ」
「優さんは死にたいんだもんね」
「まあね」
「未練はないんだ」
「ないかな」
「辛かったんだね」
「どうしたの? 急に」
「あ、ううん」
「心音からしたら、許しがたいだろうね僕は」
彼女はゆっくりと首を振る。
「全然。そうは想わない。少なくとも私は」
「そっか」
「だって、人は人を簡単には救えない。それなのに傷つけることは平気でできる」
「心音はいい子だな。本当に」
「いい子じゃないよ。けど、優さんが言ってくれたらそうかもしれないな」
「間違いないよ」
「だから、私は優さんの気持ちを尊重したい」
「ありがとう」
「ううん。だって世の中、自殺はいけないって言うだけで、苦しんでる人に寄り添う人は本当にごくわずか。相談してって言うけど、そこに届かない暗く深い底で苦しんでる人だっているはずなのにさ」
「そうだな」
「なのに、無責任なことは私は言えないもん」
「そう向き合うようになったのって病気になったから? いや、答えたくなければ無視してくれていい」
にこりと微笑んで。
僕の肩に頭をもたげた。
「私は生きたいけど、命を定められたから、考え方が変わってるのかも。いじめられてたことも影響してるかな」
「いや、変わってるとは想わない。むしろ、素敵だと想う」
「実はね、私もね一昨日。死にに行ったんだ」
「え!?」
「おかしいよね。もうすぐ死ねるのに。でも、なんだろう病院に入院して。親にもお金とか迷惑かけて。死ぬその日まで……」
「そっか」
「そこで、優さんに出逢った。ああ、この人一緒だって想った。そうしたら声かけてた」
「そう」
「別に助けようとした訳じゃないんだよ。話をしてみたかったの」
「なるほど」
「それから……」
「ん? それから何?」
「ううん。なんでもない」
つないだ手にぎゅっと力が込められた。
まさかの吐露だった。
限られた時の中で。
輝きを放つように見えた彼女。
なのに、死を選択しようとしていたということに。
ならば。
僕はなおのこと、あとわずかな共に過ごす時間を。
彼女の想うがままに。
望むがままに。
させてあげたいと。
腹を据えた。
彼女はゆっくりと頭を持ち上げて。
「優さん。私の最後のお願い言ってもいい?」
まっすぐ正面の空間を見つめた。
「なんだい?」
僕は彼女に倣って。
視線を送る。
広く高く、どこまでも無慈悲なまでに大きな空。
港内を行き交う船たちの低いエンジン音が、ゆっくりと残された時を刻んでいた。
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