第91話 カナタからの手紙
諸事情により編集しました。
<第三者視点>
星暦2032年、冬の3日、火の日、夕方
ここは『キキラの街』、カナタたちの故郷である。莫大な面識を有するキキラ砂漠に唯一、人が平穏で暮らせられる街。
カナタたちが冒険者になるため、この街から出て行って早くも7年の時が経った。季節が何度も巡ってもその街並みには大きな変化はなく、変わったとすれば新たに街を走り回る子供たちの顔ぶれ。彼女たちが訓練所として使用していた場所は、旅立つのと同時にその道具等も片付けてしまい、現在では以前の様に子供たちの遊び場へと戻っていた。
何も変化はなく、住民はただ平和を堪能している。それはカナタたちの親族も同様に。仕事を終えて自宅に帰り、浴槽にて労働による汗を洗い流して、濡れた体を拭きながら窓から見える夕日を眺める。我が子は一体何をしているのだろうかと、小さくため息をこぼす。
今朝、そんな彼らのそれぞれ家に一通の手紙が届いていた。それはカナタたちからによる定期連絡であった。彼女たちが旅立つ際に、各々の親から“一季節に一通は連絡をしなさい”と約束を交わしていた。彼女たちはそれを従順に従い、一季節に一回、その季節で何をしたのか詳細を書いている。これでもう30通目の手紙だ。
タユーリ宅に届いた一通の手紙の送り主は、以前その家に暮らしていた少女、カナタ・タユーリからであった。彼女の父親と母親は胸を躍らせながら、手紙を開封して黙読する。
◇
この7年間でカナタ、キィ、クアル、ケマ、コルルたちが過ごしてきた日々について大まかに語ろう。
カナタたちは丸一日かけて行われた冒険者登録試験に見事に合格し、無事に冒険者へとなれた。しかもカナタ、キィ、クアルは上位の成績を叩き出し、その翌週に行われる昇格試験に推薦された。当然、願ってもいない好機に本人たちは強く志願して参加した。
1週間後、昇格試験を受けてみるが、試験はカナタたちが想像していた以上に合格ラインが高く、未発達の3人にはまさに困難そのものであった。しかし諦めることなく試験にひたむきに挑んだ結果、カナタとキィは見事合格してランク『2』へと昇格した。不合格になってしまったクアルはその後、あまりのショックにしばらく仕事に精が出なかったのは余談である。
冒険者になったカナタたちは、その後に数日掛けて行われた新人研修を受けてから仕事を開始する。最初は慣れない仕事に緊張して、失敗しそうな事もあったが、5人で協力し合って何とか達成し続けられた。
そしてその翌年、十分な資金が溜まり5人全員で昇格試験に参加した。結果は全員合格。前回受けた3人の経験と助言があったおかげで、全員が心して挑められた。
昇格して歓喜するカナタたちの元に、ここで更なる朗報があった。カナタとキィがランク『3』に昇格した事により、5人でパーティーを組むことが出来る様になった。冒険者ギルドの規定により“ランク『3』以上の者を含む場合、最低5人以上のパーティーの形成を許す”となっている。今まで単体でのみの仕事しか受けられなかったが、これで団体での仕事も受けられるようになる。
カナタたちはすぐにパーティー形成をギルドに申請した。しかしここで問題が起きた、それはパーティー名の命名。1つの団体で行動することに当たっての必要事項だ。その後に開かれたパーティー名の命名会議に、5人は珍しく言い争いを始めた。大事な局面だ、慎重に尚且つ己の嗜好を含む様に、互いが互いの案を反論し合った。
このままではらちが明かないと思いコルルがくじ引きを提案する。当然批判する声が上がったが、これ以上の妥当な方法が見つからなかったため妥協して採用した。数時間におよぶ口論にて、お互い妥協し合って選ばれたのが、キィ考案の『笑い合う砂漠人 (ラフィル・デイザー)』である。確かに彼女たちにしっくりくるパーティー名だ。思いのほか4人はこの名を気に入り、翌日にてギルドにパーティー形成を申請した。
その際にパーティーリーダー、つまり代表者を決めなければならなかった。ギルドの規定によりランク『3』のカナタかキィのうちどちらかを決めなければならないが、そう聞くと4人は強くカナタを推薦した。カナタ本人は面倒だと拒否しようとするが、彼女たちの熱い眼差しに負けて渋々承諾した。
こうしてカナタたちは『笑い合う砂漠人 (ラフィル・デイザー)』というパーティーで活動を開始した。
『笑い合う砂漠人 (ラフィル・デイザー)』が結成してからカナタたちの名声は徐々に上がっていった。パーティーでの仕事を受けているうちにギルドからの信頼と各々の実力が高まり、彼女たちをただの少年少女として見る者が減って来ている。むしろ期待の若手たちとして、その名がイースト大陸中の冒険者ギルドに広がり始めている。
一度だけギルドから大きな仕事を任され、それを見事に達成したカナタたちは報酬金として100万ストンを手に入れた。これまで受けてきた仕事の報酬金とは比にならない額に彼女たち騒然とした。しかしこれは当時の彼女たちにとって好機でもあった。
当時のカナタたち丁度『王都メラルフ』を出て、新たな活動拠点を探している最中であった。理由はメラルフ支部の冒険者が多くて仕事量が少なくなって来ている事と、『王都メラルフ』に暮らしている住民との距離感だ。
『王都メラルフ』の住民は、人口の8割以上が獣人族。他種族同士で活動している『笑い合う砂漠人 (ラフィル・デイザー)』が目新しいのか、カナタたちは日々住民たちの好奇な視線を感じて暮らしている。最初は我慢できていたがもう限界を迎え、そろそろ活動拠点を変えようとパーティーで決断していた。
現在『笑い合う砂漠人 (ラフィル・デイザー)』は、大金をはたいて『王都メラルフ』から出て南西にある、『雷の都』との呼ばれる『王都サンリク』に移住して、とある一軒家を借りてそこを活動拠点にしている。そこの住民も人口の5割は獣人族であるが、『王都メラルフ』程の視線を感じることなく、カナタたちは気楽に過ごしている。
『笑い合う砂漠人 (ラフィル・デイザー)』を結成してから決して順風満帆とは言い切れなかった。不運の連鎖で仕事を達成できなかった時もあった。他の冒険者のちょっかいで男たちの騒動も起こした。それらの不評でランクを降格された時もあった。パーティー内で悪い空気が流れ続けていた。
そんな時、カナタは落ち込むメンバーに“いい経験が出来たね!次は気を付けようね?また頑張ろう!”と励ましの声をかけ続けた。4人は何度も彼女の励ましに救われて、最終的には少年期の時の様に全員で笑い合った。
親の眼から心配させるような行動が多々あったが、カナタたちは遠い地にて上手くやっていけている。今年で20歳になり、心身ともに成長して住む環境が変わっても、5人の友情は変わらなかった。
◇
タユーリ宅に届いたカナタからの手紙は、今年の秋に何を行ったのか明確な詳細が書かれていた。
『またキーちゃんの魔法のせいで周辺の村から“うるさいッ!!”って苦情が入った!もう耳だけじゃなくて眼も痛い!』、『またクアルが酒場で喧嘩して連帯責任を取らされた!酔った勢いで暴れないでほしい!』、『またケマくんが他のパーティーの娘に手を出して怒られた!大食漢の意味がはき違えている!?』、『またコルルちゃんに説教された!“ちょっと”オリジナル火魔法を練習していただけなのに意味が分からない!?』とパーティーメンバーに対する愚痴ばかりであった。しかもこのような文面は今回に限ってではない、毎回送られる手紙も似たようなものだ。
「おいおい・・・何をやっているんだよ。」
「ふふふ、元気そうでいいじゃない。」
今回も中々心配させられる文面だと、両親はカナタの手紙を読みながら嘲笑する。世間に人様に迷惑かけている事を堂々と書かれていたら、普通の親だったらすぐに我が子の元へ旅立ち説教または連れて帰っているだろう。
しかし2人は決して行動に移さない。何度カナタからの手紙で心配の念を抱いても、家から飛び出そうという気は起きなかった。その理由は、毎回必ず手紙の最後に書かれた一言だ。
『秋もみんなで元気に過ごしているから心配しないでね!』
前半の文で確実に信用を失いと承知しているはずなのに、カナタは包み隠さず起こった出来事を書いた。嘘の報告をしたくなかった。恐らく彼女なりの両親への気遣いかもしれない。
そんな正直に報告をしてくれたカナタからこそ、2人は最後の“心配しないでね!”という文字を信用できた。
カナタからの手紙を読み終わり、2人は早速返信の手紙を書こうと紙を用意する。
「全く、毎回あの子の手紙はよく笑わせわれるな。・・・ってかいつも思うが、あいつの文脈いつも読み休んだよなぁ・・・いつ覚えたんだ?」
「あの子は昔から天才よ?きっと見てすぐに覚えたんじゃないかしら?」
「・・・だな。本当に我が子とは思えないほどに、色々と突発している。」
その後2人はカナタ宛の手紙を書き終えて、食卓の上で彼女の今後について談笑しながら夕食を始める。
不自然な点があれば、是非ご指摘してください。




