第90話 ランクについて
諸事情により編集しました。
その後、強面ギルド職員の封筒から次々と紙が配られた。内容は実技試験の武術の試験、魔術の試験、総合適性の試験の評価についてだ。職員曰く、私たち3人は参加者の中で特に評価が高いそうだ。
武術の試験では冒険者相手でも最後まで諦めない姿勢で挑み、魔術の試験では目新しい魔法を披露して、総合適性の試験では盗賊の前でも臆することなく勇敢に立ち向かった事。どれもここ近年の参加者には見られなかった、冒険する者としてのあるべき姿だと絶賛された。
「君たちは本当に優秀だ。戦闘でも冷静さを保ち、しかもすでにエクストラスキルも会得している。これだけでも十分良い評価対象だ。だが経験の浅さから大なり小なりと欠点はある。他の参加者と比べれば微々たるものだが、改善して越したことはない。次に配るこれは、その改善点だ。よく目に通しておくように。」
そう言われながら強面ギルド職員から紙を1枚ずつ受け取る。箇条書きで見易くされている。
え~と、何々・・・“人の言葉を真に受ける傾向がある”?“戦闘中、度々油断する事がある”?“無駄口が多い”?・・・あぁ~、ニーナさんとの試合や戦闘の時のかぁ・・・これ、そんな大きな欠点なの?まあ注意されているし、直してみるけど・・・。
「本来なら1人、10~20の問題点があげられるが、君たちは特に見つけられなかった。例年にはない異例の少なさだ。これは利点と取ることもできるが、逆に欠点とも言える。改善点が少ないのだから伸び代が悩ましいという事だ。だから今後の課題は自分たちで見つけていくように。これも冒険者には必要な要素だ。」
今後なる課題、ねぇ・・・すぐに見つかるかな?みんなのは私の『観察眼』ですぐに見つけられるけど、私が私自身で欠点を探すのは苦手だなぁ。
「そして最後に・・・これを受け取りたまえ。」
強面ギルド職員から最後の物資を渡される。手のひらに収まる程度の長方形の薄い鉄板で、端に穴を空けてチェーンが通されてある。鉄板の表面には私の本名、裏には強調するように大きく『1』と彫られてある。前世の世界で、軍人が身に着けていた認識票によく似ている。
因みに、この『1』という数字は何を表しているのか、私はすでに知っている。
「それは“ギルドプレート”。その者を冒険者として認めたという証だ。それさえあれば、世界中にある冒険者ギルドで仕事を斡旋してもらえる。紛失した場合はギルドに申請して罰金を払えばすぐ再発行してもらえる。詳しくは後で行われる合格者のみに対象のガイダンスで聞いてくれ。」
うわぁ、ガイダンスなんて久々に聞いた!ってかやっぱりあるんだ、そう言うめんどくさい説明みたいな事。まあ命に関わる仕事なんだし、今回は真面目に聞いておこうかな。
「それは無くしさえしなければ、何処にでも付けてもいい。基本は首にかけれる構造だが、手首でも鞄でも構わない。早速つけてみてはどうだ?」
そう提案されて私たちは早速、留金を外してギルドプレートを首にかける。実は内心、早く装着したくて楽しみにしていた。こぼれ出る笑顔を見せながら、誇らしげにギルドプレートを首からぶら下げる。
・・・ヤバい、嬉しくて笑みが止まらない!ついつい笑ってしまう!欲しかった物がようやく手に入った時のこの達成感・・・ヤバい!!
「アハハハ、カナタちゃんずっとにやにやしている~!とても似合っているよ~。」
「翼にも支障ないし、良いなこれ!ってか見た目もカッコいいし!」
「3人とも、よく似合っているぞ。初々しくて、まさに新人の姿だな。だがガイダンスでも説明するが、ギルドが設けて規則に度重ねて違反した場合、冒険者という名義とギルドプレートを剥奪される。十分に気を付ける様に。」
やはり剥奪される事もあるのか。前世の免許書と同じ扱いだな。要は規則さえ守れば問題はないという事なのだろう。ガイダンスでその規則と言うのも教えてくれるのだろうし、特に大きく気にする必要はないと思う。
「さて、これで合格者への説明は終わった。“本来なら”ここで部屋から退出して、数分後のガイダンスを受けてもらうのだが・・・君たちにはまだ話さなければならない事がある。」
まるでここからが本題だと言わんばかりに、強面ギルド職員は真剣な雰囲気で語りだした。先ほども真剣ではあったけど、今回のは明らかに違う。
姿勢もやや前のめりになり、視線はじっと私たちを捉えていた。“本来なら”というと、本当に私たちの扱いは特別のようだ。恐らく、私3人だけがこの応接室に招集されたのかも関係している。
「実は毎年の試験で、成績優秀な者にはある権利を与える様にしている。」
「権利・・・ですか?」
「そうだ。君たち、冒険者ギルドの“ランク”というシステムを知っているか?」
私たちの故郷『キキラの街』にも冒険者が時々やって来る事があり、その時に冒険者の事について聞いていたため“ランク”というシステムも知っていた。
冒険者は格付けされており、1~10と大きく10段階で区切られている。試験に合格してのなり立ては1から始まり、1年に1回にギルドで行われる“昇格試験”で合格すれば、ランクの数字が上がる。だから合格したばかりの私たちのギルドプレートには『1』と刻まれていた。
ランクが上がると斡旋してもらえる仕事の内容も多く変動して、より危険な仕事を受けられるけど、それに伴って報酬額も一段上がる。高ランクになれば、武器屋での武器の購入の際、冒険者ギルドが全額負担などの丁重に扱われる。だから冒険者はみんな、ランク昇格を目指して日々仕事に明け暮れている。
「はい。地元に来る冒険者から聞いたことはあります。」
「昇格試験の事についてもか?」
「1年に1回行われる試験って程度には。」
「そうか、話が省けて助かる。正確には昇格試験に参加するにも、いくつか条件がある。」
何故冒険者に成り立ての私たちにこんな話をしてくるのか分からないけど、強面ギルド職員は昇格試験の詳細について語った。
何でも昇格試験には、その者のランクに見合った依頼、つまり仕事を1年に50件以上達成しなければならない。尚且つその上がるランクによっての参加費用を払って申請して、ギルド職員たちがその者の生活態度や冒険者としての信頼があるかどうか審議してから、参加合意の通知が下される。
つまり、ただ平凡に冒険者として生活しているだけでは、昇格試験には参加できないという事。人によっては一生、低ランクで過ごしていく事もあるそうだ。
1年に50件以上って・・・ホワイト企業かな?えっ、冒険者ギルドって地球で言う超ホワイト企業なの?まあ、その仕事の内容次第によるけど、にしてもたった50件って・・・ヤバい。前世の職なんか1日にノルマを課せられていたんだけど、それと比べれば・・・うん、やっぱりホワイト企業だ。
ってか後半の“ギルド職員による審議”って、それって好き嫌いで決められることもあるって事でしょ!?まあ普通に生活していくつもりだけど・・・嫌だなぁ、普段誰かに見られているなんて。・・・賄賂ってOKかな?
「ランク『1』~『3』を対象とした昇格試験は夏の25日・・・つまり来週行われる。冒険者になったばかりの君たちは当然、参加条件を満たせられないから今年のは参加できない。“本来であれば”・・・。だが毎年、登録試験で見込みのある者には特別として、参加費用免除でその年の昇格試験の参加できる権利を与える様にしている。・・・今年は君たちという訳だ。」
まさかあえて私たちだけを応接室に招集したのがそんな大層な理由だったとは。自分たちは特別、自分たちは選ばれた。その言葉を聞いた途端、私たちは目を輝かせた。
そんな私たちを見ると、強面ギルド職員はにやりと笑いながら説明を続ける。
「もちろんこれは強制ではない。昇格試験は登録試験とは比べられない程、合格ラインが高く設定されており、付け焼き刃な実力では昇格は出来ない。我々ギルド職員も適当な奴が昇格しても後々困るだけだからな。合格者はより厳選される。それでも我々・・・いや、俺は君たちならすぐにランクが上がると期待しているのだが・・・どうする?受けるか受けないか、すぐに決めてくれ。」
どうやらその決断は今すぐにしなければならないようだ。強面ギルド職員の“付け焼き刃な実力”という言葉で、数年前の父の言葉を思い出した。確かに身に合わない事に挑戦しても、失敗して挫折するだけ。私ならともかく、まだ子供の2人にそんな酷な事をさせて、精神的な傷を負わせたくない。
しかしせっかく来た機会を逃したくはない。ケマくんとコルルちゃんの合否はまだ知らないけど、今の私たちは勢いが良くなっている。ここで謙虚になって断っても、後で後悔するだけ。なら、返答は1つ。
決断した瞳を強面ギルド職員に向けて、返答する。
私は・・・もっと上の称号が欲しい!!
「・・・受けます、参加させてください!自分がどこまでいけるのか試したいです!」
「カナタちゃんが受けるなら、私も受けます~。真剣勝負で挑みますのでよろしくお願いします~。」
「期待されているなら参加するしかないでしょ!一昨日の試験は正直に言って不完全燃焼だったから、次でそれを発散させてもらうぜ!」
私に続いてキーちゃんとクアルくんも参加を申請した。2人の性格ならそう言うだろうと何となく分かっていた。権利は3人全員に与えられたのだから、2人が何と編としようと私がとやかく言う資格はない。
私たちの返答に予想していたのか、強面ギルド職員は嬉しそうに笑いながら、封筒から更に紙を取り出した。
「・・・いい返事だ。では早速、この申請書に署名してくれたまえ。」
紙の上部には『昇格試験申請書(ランク『1』~『3』対象)』と書かれてある。注意事項をざっくりと読んでから下部の署名の欄に自分の名を書く。注意事項は冒険者登録試験のと大体一緒だったから、特に気にする必要がない。
書き終えた私たちは、紙を強面ギルド職員に手渡す。
「「「書きました。」」」
「うむ・・・確かに。では昇格試験の詳細については、他の合格者との合同によるガイダンスの後に、別室で話す。少し時間を取るが問題はないかね?」
この後、特にこれといった用事があるわけでもない。2人の同余のはず。私たちは頷く。
はぁ~、説明会の後にまた説明会かぁ~・・・。集中力もつかなぁ?途中で寝たりはしないけど、絶対に後半辺りから聞き流してしまいそぉ。めんどくさがっても仕方がないか、今日頑張れば済む話だし。
「よし、ガイダンスの後に俺から声を掛けるからそのつもりで。そろそろ他の参加者の結果発表も終わり始めることだろう。改めて、合格おめでとう。君たちの今後の活躍を期待している。ガイダンスは4階の1号室にて7時に行う、遅れないように。以上で君たちの結果発表を終わる。退出してくれ。」
冒険者登録試験の結果発表が終わり、強面ギルド職員からそう指示されて私たちは立ち上がって扉へ向かう。私の見立てだと、強面ギルド職員は間違いなくメラルフ支部の重鎮だろう。今後多少なりと関わっていく人かもしれないため、礼儀正しくする。
「「「ありがとうございました!失礼します!」」」
バタンッ
「・・・。冒険者には勿体ないほど礼儀正しい子たちだな・・・面白い。これは大いに期待が出来るかもしれない。」
軽く頭を下げて、しっかりとお礼を言ってから応接室を退出した。扉を閉めた後に強面ギルド職員が何か呟いた様だけど、よく聞き取れなかった。別に気にする必要はないだろう。
4階に向かうため階段で降りる中、昇格試験の事で私たちは大いに喜んでいた。まさか合格だけではなく、すぐにランク2に上がる機会が訪れるとは。私でもこれは予想できなかった。
「スゲェーな、俺たち!もう早速ランクになれるかもしれないんだぜ!?やっぱり俺って・・・才能あるかも!」
「アハハハ、その邪魔くさい羽根、引き千切っちゃうよ~?全部カナタちゃんの訓練のおかげでしょ~。ねっ、カナタちゃん。」
「ううん。昇格試験に限っては2人の努力の成果だよ。本当にすごいよ・・・私も含めて。あとはケマくんとコルルちゃんも合格しているといいんだけど・・・あっ、噂をすれば。」
階段から降りていくと、ケマくんとコルルちゃんが4階前に立っていた。どうやら彼らの結果発表が先に終わり、私たちを待っていてくれていたようだ。
私たちの姿を見るとケマくんとコルルちゃんは、片手に各々の試験の評価を持ち、もう片手をサムズアップして、屈託のない笑みを見せる。馬鹿な私でもこの意味は分かる。何より彼らは首にギルドプレートをぶら下げていた。2人も合格したのだ。
2人の朗報を見た私たちは階段から飛び降りて、ケマくんとコルルちゃんと合流する。メンバー全員が歓喜した。大きく笑い、大いに喜び、大きき声を出し、多く涙を流した。
長かった、本当に長かった。約5年間の訓練で力、知識、技術を身に着けて、ようやくメンバー全員の夢がかなった。これで私たちは晴れて冒険者になれたのだ。
不自然な点があれば、是非ご指摘してください。




