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英雄たちが求めるエンディング  作者: 岩ノ川
第2章 カナタ・タユーリ
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第84話 希望の【小花火】

諸事情により編集しました。

星暦2025年、夏の15日、土の日、深夜


 パーティーメンバーに休息をとらせて、私一人が見張りを始めて2時間近くの時間が経過した。現在私は、森の様子を窺えるように樹木の上に昇っている。今日は雲1つもなく月の光で森が良く見える。見張り役には絶好の日だ。

 あれからと言うと、遠方の方で他の参加者たちの遠投の音や悲鳴の声が相次ぎ、深夜の森は一向に完全な静寂にはならなかった。音から察するにかなり人数が襲撃に合っているのだろう。この総合適正試験、予想通りなかなか困難な試験だ。

 因みに私たちはと言うと、長い道のりを得て寝床を見つけた甲斐があったおかげか、盗賊たちがなかなかここまで来ない。まさか盗賊たちも15キロ以上の先に隠れているとは思ってもみなかったようだ。つまり、私の作戦にケマくんの長い睡眠を除いて欠陥はなかったと言う事。

 あまりの平和に見張りをし続けている私は思わずあくびをしてしまう。


「・・・はぁ~・・・。」


 ・・・暇だ。まさか夜の見張りがこんなに暇なもんだったなんて。もう少ししたら盗賊たちがやって来ると思っていたけど、全然来ない・・・。あまりにも暇すぎて、思わずうたた寝してしまう・・・まずいなぁ。社員時代はやることがあったから眠気なんか気にせずひたすら起きて作業出来ていたけど、何もやることないとこんなにも退屈なんて知らなかった。


 見張りを始めてからこの2時間、一向に何も起きず暇を持て余らせていた。永遠と思わせる様なこの見張りの時間が退屈で仕方がなかった。盗賊との激しい逃亡劇が繰り広げられると想像していたのだけど、現実は至って平和そのもの。何も起きないことに越したことはないけど、このままでは睡魔に襲われ続けて眠ってしまう。何とか対応策を講じなければ。


 ・・・歌でも歌おうか!?この世界、カラオケがないせいか、音楽に対する定着が薄いんよな~。久々にアニソンでも・・・って私は馬鹿か。ここで歌でも歌ったら盗賊たちに“ここにいますよ~”って教えているみたいなものじゃん。歌も禁止。じゃあ魔法の開発・・・って私の適正魔法は和にもよって明るい火魔法しかないし。魔法も禁止。それじゃあどうやって退屈しのぎすればいいかな~・・・。


 暇で暇で仕方がなかった。枝に腰かけて両足を大きくブランブランと揺らしながら脳を働かせて、何とかねないようにと思案を巡らす。しかし、そのようにそうこう考える必要はなかった。先ほど遠方から聞こえていた音が徐々にこちらの方に近づき始めた。音は微かと言うほど小さく、だけど確実に私の方へと向かって来ている。


 何か来たね・・・動物?そんなわけないか、今までこの森で見なかったわけだし。十中八九・・・盗賊。


 音に一早く気付いた私は、眼を大きく見開いて眠気を飛ばした。腰かけていた体勢を起こして、静かに深呼吸をして息を整える。腰のベルトに巻き付かせてある木刀に手を添える。これで戦闘態勢は万端。最小限の動作で周りを見渡し、草や枝の音で相手の様子を窺う。


 数は・・・うぅ、草の音がうるさ過ぎて正確に分からない。こういう時、『索敵』とかあったらなぁ・・・まあ、持っていないもの強請っても仕方がない。大勢来たって事ぐらいは分かるか。・・・さ~て、おふざけもここまで。やる気スイッチでも入れますかぁ・・・よしッ!


【スキル:俊敏化】


「「「「・・・ッ!!」」」」


 やられる前に動く。そう覚悟を決めた私はスキルを発動して素早く現在登っている樹木から隣の木の枝へと飛び移り移動を開始する。当然その際に体に多数の枝や葉っぱがぶつかり静寂の中で一番に目立ち始める。盗賊たちも私の明確に位置を目視すると、逃げる私の背中を追いかけ始めた。

 先に動き出したのは私。しかしやはり相手は盗賊役とはいえ冒険者、日ごろの鍛錬の差で走る速度を上回り、私との距離を徐々に詰めよって来ている。しかしそれでも私はすぐに捕まわらなかった。

 私は直進的に逃げているのではなく、変則的にジグザクと右往左往に走っている。いくら走りなれている冒険者でも、真夜中の見えづらい中、そんな標的を追いかけるのは容易なはずではない。しかも私、いや私たちは訓練でパルクールと言う、この世界にはない一種のスポーツで日々足腰の瞬発力と重心、そして体力を鍛え続けてきた。早々にこの追いかけっこの決着はつかないと想定している。

 しかし私が想定しているのはそこまで。問題はどうやってこの状態から盗賊たちから振り切れるかだ。キーちゃんに偉そうに言ってあれだが、私も距離を稼いで上手く隠れられる自信はない。

 内心少しずつ焦りだして、呼吸が荒くなっていく中、私は懸命に次の一手を模索する。


「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・ッ!!」


 ヤバい、ヤバいッ!!確実に、少しずつ、徐々に、距離が・・・詰められている!もう私の行動パターンが読まれてきている!?どうする、このまま戦闘を・・・いやダメ。音から察するに相手は5,6人以上いる。勝てるわけがないッ!


 背後から迫ってくる音。それが私により恐怖と不安を募らせる。いくら前世の記憶があるとはいえ、相手はこの世界で文字通り生き抜いてきた大人。体格、精神、戦闘経験の全てに負けている。今になってそれらを深く理解してしまう。眠気があるせいか私は少し弱音になってきている。

 そんな時、突如として1つの可能性ある策を思い浮かべる。策と言っても考え見つけたその結果はただの運任せ。前もってそれを“伝えて”いなければ、実行するなんてほぼ皆無だ。

 しかし、今冷静さをかけた私にその策を切り捨て、それ以外の策を考え突くことが出来るのであろうか。前世から自分自身の事は分かっている。


・・・ははは、ヤバい。我ながら、これまた酷い作戦を思いついたものだよ・・・。やっぱり私って、リーダーに向かないかも。でも・・・子供達(パーティーメンバー)の前であんな啖呵切ったんだから、この仕事だけはやり切るッ!!


 答えは1つ、その策に賭けよう。そう決意した途端、私の逃亡の仕方は一転した。

 変則的な動きは止めて、光を求める様に一直線に走り出す。ただ真っ直ぐに、木と木の間を縫って行く様に、目的地に向かって全速力で走り出した。当然盗賊たちは、私の動きが明らかに変わったことに気付いた。何か策を、もしくは罠があるかもと各々が思案を巡らして疑念する。

 だけどそれでも盗賊たちはその走る足を止めようとは思わなかった。一体この先にどのような事が起きるのか楽しんでいる者もいる。表情に期待に笑みを浮かび上がらせ、盗賊たちも速度を保ったまま、私の後を追いかける。

 私と盗賊たちはしばらく走り続けると森を抜けて、川に直面した。それは先ほどキーちゃんが魔法で魚を収穫してくれた場所だ。ここはいい感じに森から開けており、私が火魔法を発動しても木や草に飛び火する可能性は低い。ここでなら思う存分に“戦える”。


【火魔法:火球(ひだま)


 森を出た途端、私は体を後方へ振り返り、両手に1個ずつ魔法を発動させる。しかしまだ投球はしない。これは私が戦う意思があると見せつけるためである。盗賊たちは私が魔法を発動した途端、暗くて顔こそ見えないがその様子は明らかに驚いていた。警戒して足を止めて、月明かりに照らされた私を見ながら、自分たちも少しずつ前に森の陰からその身を表す。


「・・・あれ、貴方・・・。」


「やあ、また会えたね。」


 誰より先に影から出て来たのは、武術の試験で私の相手をしてくれた女性冒険者だった。偶然なのか、それても狙ってやって来たのであろうか。どっちにしても私の内心は、知らない人に追われて募っていた恐怖が、見知った顔の人が出てきた事により一気になくなる。


「・・・そういえばちゃんと自己紹介していませんでしたね。私はカナタ・タユーリ。ぴちぴちの12歳。」


「知っているよ。ってか忘れるわけがない。私を負かした女の子だからねぇ~、ずっと覚えておくよ。私はニーナ、ニーナ・マルマッダ。見ての通り鼬種だ。歳はひ・み・つ。」


 ニーナさんは丁寧に返答してくれた。両手に発動してある魔法を私が何時投げ出すのか分からないにもかかわらず。恐らく彼女の心境はまさに余裕そのものなのだろう。話し方からして間違いない。

 ニーナさん続いて森の影から続々と冒険者たちがその姿を現す。人数は彼女を含めて4人、全員が獣人族だ。先ほど“大勢来た”とか“5,6人以上いる”と思っていたのに、大きく予想が外れてしまった。まあ今回は別に気にしないでおこう。


「どうやって私の居場所を見つけたんですか?正直、見付かるような要素は1つもなかったと思うんですけど・・・。」


「私たち獣人族全員が会得できる『索敵』って言うスキル、聞いたことはあるだろ?それを丁度の周辺で発動したら、またまた何かブランブランと動くものが引っかかったんだよ。それで気になって来てみたら、君が急に姿を現したっけわけ。」


「“ブランブランと動くもの”?・・・何それ?私の周りにそんなものは・・・あっ。」


 そう言葉にしようとした瞬間、1つだけ心当たりがあった。ニーナさんが言っていたその“ブランブランと動くもの”、恐らく私の両足だ。正確に言うと、見張りがあまりに退屈で少しでも眠気を覚まそうと自由に動かしていた両足である。つまり今回、盗賊に見つかった原因は私の阿呆な行動のせいだ。

 そう推理した私はたちまち頭を抱える。またやってしまった。まさか見張りの私が原因で見つかってしまったなんて。とてもじゃないがパーティーメンバーには言えない。間違いなく馬鹿にされる。特に男子たちに。この事については黙っておこう。


「その表情・・・もしかして君だったの?動いていたのは?」


「・・・出来ればこの事は、黙っていてくれませんか?」


「ぷっ、あっはっはっは!」


 そうお願いするとニーナさんは突如として吹き出して大笑いをする。私は眠いのに対して随分元気よく笑う。声のトーン的には恐らく盗賊側の人たちは、昼寝でもして先に休息をとっていたのだろう。


「あぁ~・・・良く笑ったぁ!やっぱ君って面白いね!総合的な実力は間違いなく今年度の参加者の中でトップクラスなのに、変なところで抜けているねぇ~。」


 あながち間違っていないから何とも言えない。この言葉に対しては苦笑いの表情しか出せなかった。


「・・・それはどうも。ところで、ニーナさんが持っているその袋は何ですか?」


 次の話題に移ろうと、私はニーナさんが肩で担いでいる袋を指摘した。見た目は私たち参加者に支給した麻袋と似ている。しかもニーナさんの袋はたくさん詰め込んでいるのか、袋がパンパンに袋上がっている。

 何とかこのまま談笑を続けようと試みたけど、ニーナさんの表情は不敵に笑みを浮かべていた。そして小さく肩で笑いながら、声のトーンを少し下げて話し出した。


「・・・一体何を企んでいるのかな、カナタちゃん?また今朝みたいに時間を稼いで何のチャンスを窺っているのかな?悪いけど、楽しい楽しいガールズトークはここまで。そろそろ盗賊らしく、君の、君の仲間たちの依頼品を奪わせてもらうよ。」


 その言葉を合図に後方に待機していた3人の盗賊が、私に向かって歩き出した。どうやら時間稼ぎもここまでのようだ。ニーナさんなら後もう少し粘れると思っていたけど、流石にそこまで都合良くないか。諦めて戦闘は始めようと構えるが、4人の腰にとある物が目に映り、それを強く指摘した。


「ん?ちょっと待った!?可笑しいでしょ?!何でそっちは真剣を装備しているんですか!?」


 私が装備しているのは、ギルドの訓練用の装備。使い方によっては大怪我をさせることが出来るけど、基本的な使用法では殺傷性が低い。だけどそれに対して、対面している盗賊たちが装備しているのは真剣、つまり本物の武器である。人を殺せる物だ。例え防具も装備しているとはいえ、一撃で十分すぎる程の怪我を与えられる。流石のこれには和あたしも焦るしかない。


「あっはっはっは、安心して。これはモンスター用だから。」


「“モンスター用”?予め、退治してくれたんじゃなかったんですか?」


「でもここは森、何時またモンスター共が戻ってくるのか分からないからね。備えあれば無礼なし・・・と言ったとこかな。だから君たちに対しては、真剣(こっち)は使わずに訓練用(こっち)の方を使うつもりさ。」


 そう説明しながら盗賊たちは真剣の反対側に備えてあった木刀を取り出した。とりあえず大怪我せずに済んだと小さく安堵のため息をする。その間、盗賊たちは横に広がりながら、徐々に私の方へと迫って来ている。私のすぐ後方は先の川。まさに逃げ道はない。


「さぁ~て、カナタちゃんと私の中だ。あともう1つくらいなら、質問に答えてあげてもいいよ~?」


 あの表情・・・答えた瞬間、襲い掛かる気満々じゃん。はぁ・・・覚悟は決めていたけど、やっぱり戦闘は避けられないか・・・。


「・・・それじゃあ1つだけ、お願いがあるんですけど・・・。」


「ん?何だい?」


「・・・見逃してくれませんか?」


 最大の営業スマイルでお願いした。両手に火の球を持っている少女がすることではないが、駄目もとで提案した。まあ、どういった返答が来るのか大方予想はしているけど。


「ん~~・・・ダメだね。」


 ですよねぇ~・・・知ってた。


 期待させようと思ったのか、少し溜めを創ってから予想通りの返答がきた。私とニーナさんの会話が終えた途端、両端にいる2人の盗賊たちは同時に走り出して私の元へ向かう。それに対して、ずっと発動して『火球(ひだま)』を右と左に1つずつ投球して当てる。2人はそれを木刀で切る様に当てて魔法を相殺する。しかし火球(ひだま)は熱を持った魔法。飛び散る火花に直撃して、2人は熱がるように足を止めて地団駄を踏む。


「あちちちッ!冗談抜きで熱い!?」


「火の球を人に当てる奴があるかぁ!?怪我したらどうするんだ!?」


「何言っているの!?こんなの正当防衛でしょ!!」


 いきなり説教してきた盗賊2人に対して、私も圧に負け気と逆ギレ気味で返答する。私は間違っていない。真夜中の夜に、少女1人に襲い掛かってくる盗賊2人に対して、火の球を当てることは悪い事であろうか。いや、悪くない。立派な正当防衛だ。


「あっはっはっは!あんたたち、退ってな!この子は私の獲物だ!」


 今度は盗賊らしい口調でニーナさんが歩み寄ってきた。隣にいたもう1人の盗賊に持っていた袋を託して、歩きながら抜刀する。彼女の目元は心なしかキラキラと輝いていた。恐らく私との再戦できる事に喜んでいるのだろう。

 つまり今回の試験では、ニーナさんは全力に近い力量で私と戦うつもりだ。想定していた中で最悪の状況が来てしまった。こうして余裕なうちに、私は次の一手を、希望の一手を打つ。


【火魔法:小花火(こはなび)


「おっ、私にも魔法を当てるつもりかい?いいね~、かかって来な!」


 再び両手に火の球を出現させて、それを1つにする。それを見たニーナさんは男勝りな口調で、正面から受けようと待ち構える。しかしこの魔法は彼女が望んでいる様な魔法ではなかった。

 『小花火(こはなび)』を発動した私は、それを天高く放り投げて、『メラルフ高山』の森の上空で色鮮やかに爆発させる。それに生じて発生した爆音が静寂な森の中に響き渡る。それはパーティーメンバーが就寝している寝床まで。


「・・・あぁ~、そういえばこんな魔法も持っていたわね。でもこれでどうするつも・・・。」


 そう火花が飛び散る上空を見ながらニーナさんが呟いている隙に、すぐさま木刀を抜刀して空いた脇腹に目掛けて鋭い一撃を入れる。しかし流石は一度対戦したニーナさん。私のこの行動を予測していたのか、攻撃が当たる直前に、それを木刀で防ぐ。

今回こそは完璧に決まると思った。こうも難なく受け止められるとショックを受ける。


「やっぱ、ダメかッ!」


「ほんっと君、不意打ちが好きだね!でもまあ、それも悪くはないと思うけどね!」


「大人相手なんでね、なりふり構わず全力で行きますッ!!」


 こうして盗賊たちとの戦闘が始まった。堂々と言葉を発するけど、内心勝算がなくて焦っている。だから私は願った。先の『小花火(こはなび)』で私の意図に気付いてくれる事を。

不自然な点があれば、是非ご指摘してください。

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