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英雄たちが求めるエンディング  作者: 岩ノ川
第2章 カナタ・タユーリ
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第83話 ケマは熟睡中

諸事情により編集しました。

 交渉を終えてから1時間後、大きな障害もなく無事目的地である、クアルくんが発見した寝床へと到着した。彼の言っていた通り、巨大な樹木の下に斜め掘りで出来た穴で、少し窮屈であるがギリギリ4人は寝られるほどの広さはある。特に匂いなども気にならないし、他の女子2人に確認をとったが、問題はないそうだ。


「よし、じゃあここで一晩過ごそうか!じゃあ少し離れた所でご飯にしよう。」


 そう言いながら私は北東へと歩き始めた。


「えっ、カナタちゃん?どこ行くの?何でここでご飯食べないの?」


 私の行動に疑問に思ったクアルくんがそう問いかけてきた。どうやらは寝床の前で食事をするのかと思っていたようだ。確かに普段のサバイバルなら寝床の前でも問題はないが、今回は盗賊が出るのだ。


「もしクアルくんが盗賊だったとして、たまたま冒険者が焚き火をした後を見つけたらどうする?もちろん物を盗むのを前提として。」


「ん?そりゃあ、近くにいるって事だろう?だったらその辺に痕跡がないか調べ・・・ああッ!!そういう事か!?」


「そういう事。ほら、早く行こう。」


「「「了解。」」」


 今晩、この森で盗賊が出現することは確定している。結構距離をとったつもりだけど、恐らくここまで捜索してくるであろう。

 仮に寝床の真ん前で焚き火をして食事をとれば、そこには消しようがない燃え跡が残る。盗賊たちがそれを見つけたら、間違いなくその燃え跡の中心に私たちを探し始める。今回の試験に協力してくれている冒険者全員が獣人族だった。索敵のエキスパート、絶対に見つかってしまう。当然睡眠をとっているから見つかっても対応なんてできない。そんな私たちに気付かれないように彼らは静かに依頼品を盗っていくだろう。

 もしそうなれば、朝になって依頼品を集める時間もなく試験終了となり、私たち全員、総合適正試験に最悪な評価を受けるに違いない。それだけは絶対に避けなくてはならない。



星暦2025年、夏の15日、土の日、夜


 少し離れた場所で収穫した果物や魚を焼いて食事をとってケマくん以外の全員がお腹を満たした。まさかサバイバル経験がないにも関わらず、就寝する前に満腹になれるとは思いもしなかった。これも先の川で大量の魚を確保できたおかげだ。

 その後、寝床へすぐに戻り、私たちは昼間に建てた作戦を再確認するため円陣を組んで話し合いを始める。空はすでに暗くなっている。いつ盗賊が襲って来るのか分からないため早口で話す。


「まず第1に、“私たちはこの寝床で寝ながら隠れて一晩やり過ごす”。これに異論はないね?」


 私がそう尋ねると3人は速やかに頷く。

 私の予想通りケマくん以外のパーティーメンバー全員が眠気に襲われ始めている。今も重たい瞼を必死に開けて話を聞いている。一番疲労がたまっているクアルくんに至っては、体を前後に揺れ始めている。当然私も眠い。こんな状態ではまともに戦えるはずもない。


「次に、見張りについてなんだけど・・・。」


 そう、今回の私たちは全員が寝るのではなく、1人だけ見張りを付けて残りは睡眠をとろうという作戦である。その見張り役を任せるのは、ケマくんだ。

 本気になった現役冒険者に真っ向勝負では勝てるはずがない。それはパーティーメンバー全員が理解している。だけど、ケマくんなら逃げ続けることは可能。彼はパーティーの中でも随一の俊敏の持ち主。『俊敏化』を使用されたら誰も捕まえることが出来ない。そして彼は隠れることに関しても優れている。パーティー内で唯一『気配遮断』というスキルも会得している。効果は文字通り気配を断って、よほどのレベルの高い『索敵』や『直感』などの捜索系のスキルじゃない限り見つけることは困難。


 そんなケマくんに見張り役で頼んでやってもらうことは、もしこの周辺に盗賊たちがやって来たら、彼らの前に“意図的に現れてここから離れる様に逃げて”もらうこと。ある程度まで距離が取れたら『気配遮断』を発動してもらい隠れる。そして再び私たちの所に戻って来てもらい、もう一度盗賊たちが接近してきたらそれを繰り返してもらう。

 かなりハードな作戦なのは分かっているし、そこまで上手くいくとは思えない。しかしこれが私なりに考えた精一杯の作戦なのだ。仕方がないのだ。それに多数の大人相手でもケマくんならなんとかしてくれる。彼には私やキーちゃんには辿り着く事が出来なかった“奥の手”、所謂“切り札”がある。そんな彼に私は信頼して、昼間移動する前にギルド内でこの大役を任せた。だけどここで、私は再び大きな失敗を犯してしまった。


「すぴぃ~・・・すぴぃ~・・・。」


「起きないね、ケマくん・・・。」


「起きねえな、ぐっすりと寝ていやがる・・・。ってかこいつ、さっきのキーちゃんの魔法の時も起きなかったよな?あんなにバカでかい魔法が間近で発動したって言うのに・・・。」


「アハハハ!バカでかいとは失礼だなぁ~。でも確かに起きなかったよね~。耳を抑えてずっと寝ていたもん。」


「・・・あぁ・・・。」


 思わず情けない声を上げながら頭を抱えた。そうケマくんは、一向に目覚めようとしない。みんなが眠たいのを我慢しているのに、まだ寝ているのだ。涎を垂らしながら身持ち良さそうに熟睡しているのだ。

 私の計画では、この時間帯からケマくんが目覚めて、見張り役として頑張ってもらう予定だった。熟睡して体力と魔力と気合が満タンな彼なら十分な働きをしてくれると期待していた。しかし彼の睡眠の長さが私の計画を大きく狂わせた。まさかここまで睡眠時間が長いとは誰が予想できたであろうか。起こしてみようと何度も頬を突いたり、体を揺らして見せるがそれでも起こる気配がない。成長期の男子、何とも恐ろしい。


「どうする?思いっ切りひっぱたいて起こすか?」


「アハハハ!それじゃ可哀そうでしょ~。鼻の中にコルルちゃんの水魔法をぶっかけたら~?」


「それもまあまあ可哀そうだと思うけど・・・。」


 パーティーメンバーは何とかケマくんを起こそうと色々な案を考える。しかし総合適正試験はそんな時間をくれなかった。

 突如として森がざわめき始めた。微かに聞こえてくる音を耳に張ると私たちは、一気に警戒心が強くなる。


「今の・・・何?」


「何だ、モンスターかぁ?」


「ううん。これは・・・人の声?」


「・・・始まったみたい。」


 私の一言で全員が察した。そう、動き始めたのだ、盗賊たちが。恐らく聞こえてくるこの音は、他の参加者による戦闘による音と悲鳴による声であろう。

 強面ギルド職員は“我々のタイミングで勝手にやらせてもらう”と言っていたけど、まさかこんなにも早く始めるとは。早急に次の対策を考えないといけない。


「どうするカナタちゃん!?もう始まったみたいだよ!?」


「クソッたれ!!休む暇もくれないのか!?」


「・・・カナタちゃん、私ならケマくんの代わりに見張り役、出来るよ~?」


 パーティーメンバーが動揺し始める。眠気と疲労によって冷静さが欠けてしまっている。キーちゃんに至っては自分も眠いのは理解しているにも関わらず代役を務めようと案を出す。当然それを却下した。私は一度冷静になるため自身で両頬をたたき、次の作戦を考える。


 ヤバいヤバいヤバいヤバい!!どうする、どうすればいい!?こうなったら無理矢理でもケマくんを起こす・・・いや、無理に起こして意識が朦朧としている状態で見張りを任せるのは危ない。なら誰かが代役をするしかない・・・けど、誰に?

 コルルちゃん、この中で一番の鈍足だから無理。そもそも彼女の本来の武器は弓。試験では飛び道具が禁止されているせいで、彼女の本領が発揮できない。

 クアルくん、『スキル:飛翔』を使って空に逃げることが出来るけど、彼はこの中で一番疲労している。眠気や疲労で油断してしまい捕まってしまうのが目に見える。

 キーちゃん、ケマくんに続く俊敏の持ち主だけど上手く隠れられるかどうかは不安でしかない。それにキーちゃんなら私たちのために無理をして応戦しそうな気がする。いや、絶対にそうするに決まっている。って事は残るは・・・。


「・・・私が見張り役になる。」


「「「・・・ッ!?」」」


 消去法でケマくんの代役を務まるのは私しかいなかった。私の突然の言葉にパーティーメンバーは驚きを隠せなかった。当然パーティーメンバーは否定の声も出そうとした。

 一番疲れていない私がやるよとコルルちゃんが。男の俺に任せろとクアルくんが。カナタちゃんが無理する必要はない、ここは私に任せてよとキーちゃん。各々の台詞が何となく予想がついていた。だけどそれよりも先に私が語り始める。


「みんなにアクロバットを教えたのは誰?みんなに訓練の仕方を教えたのは誰?“走る”ことに関してケマくんの次に速いのは誰?そして、このパーティーのリーダーは誰?そう、私!ケマくんの代わりに出来るのは私にしかいないの!時間がないから次の作戦を言う。4人は早く寝床に荷物と一緒に入って就寝して。出入り口はキーちゃんが『木魔法』を使って上手く隠して。盗賊たちは私に任せて。作戦は以上、さあ早く動いて。」


「で、でも、カナタちゃん・・・。」


「これは命令でもあれるしお願いなの!これ以上の反論は私が許さない!」


 声を抑えつつ、圧を込めて、淡々と新たな作戦を言い放つ。『メラルフ高山』の森がざわついている中、私たちがいる空間だけは不思議と静寂が訪れる。コルルちゃんが何かしらの反論を言おうとするけど、私はその発言を許さないように制止させた。

 作戦を聞いてどうすればいいのか呆然とするクアルくんとコルルちゃん。盗賊が迫って来ているかもしれない、早く決断しなければとお互いに見合って考える。そんな中、誰よりも先に動き始めたのは、キーちゃんだった。


 キーちゃんは黙々とケマくん、そして依頼品が入った麻袋、そしてバックを順に入れ始める。私が真剣で本気だからなのか、それとも親友として私を信じているからなのか、彼女は従順に働いてくれている。そんな彼女の姿を見て、ようやく時が動き始めたかのように2人も動き出した。音を出して位置を特定されないように静かに動く。そんな大層な荷物がないおかげで運ぶのはすぐに終了した。

 最後にパーティーメンバーが寝床の中へと入り、キーちゃんの『木魔法』で出入り口を塞ごうとする。とその前に、キーちゃんが何か話し出した。


「カナタちゃん、私・・・ケマくんが起きるまで、この中で起きていようと思う。」


 キーちゃんの提案に驚いた。眠気のせいか彼女の意図が理解できない。すぐに否定せずに、その理由を尋ねた。


「私もケマくんの立場だったら、起きてすぐにこの中だったら状況が理解できずに混乱すると思う。だから私がケマくんにある程度、作戦や状況を教えてカナタちゃんの援護に行ってもらう。そしてケマくんが起き次第、カナタちゃんもここに戻ってくればいいと思うよ?ねっ、いいでしょ?」


 ・・・そうよ、何で私一人で全部やろうと考えたんだろう。あとからケマくんに起きて加勢してもらえば、見張り役交代できるじゃん。何であんなカッコつけて“私に任せて”って言ったんだろう。うわぁ~・・・ヤバい、めっちゃ恥ずかしくなってきた・・・。


 キーちゃんが笑いながらそう説明すると、私はその手があったと思い額に手を置く。それをみたパーティーメンバーはくすくすと笑い出す。


「やっぱりどんなにカッコつけても、カナタちゃんはカナタちゃんだね。無理しないように気を付けてね。」


「ケマの阿呆が来たらすぐに後退して戻って来いよ。どんなにリーダー面してもカナタちゃんは女子なんだから無理は良くないぜ?」


「アハハハ!それじゃあここ閉めるよ。・・・リーダー、どんな状況になっても“冷静沈着”に・・・だよ!」


『木魔法:グローアップ』


 コルルちゃん、クアルくん、キーちゃんの順に話しかけられると、キーちゃんの魔法により寝床の出入り口は、地面から更に生えてきた枝や草によって隠される。完璧なカモフラージュ、これならよほどの索敵能力がなくては見つかることもないだろう。

 カモフラージュの精度を確認した私は、その場で背筋を伸ばして眠気を飛ばして、気合を入れなおす。我ながら面倒な作戦を考えてしまったものだ。だけどパーティーメンバーの期待された分は働くしかない。


 さ~て、ファンタヘルム初の夜勤を始めましょうか!この身体でどこまで動けるのか分からないけど・・・頑張ってみますか!

不自然な点があれば、是非ご指摘してください。

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