第69話 否定される
諸事情により編集しました。
星暦2023年、春の17日、氷の日、夜
結局キーちゃんのお土産は私1人で持ち帰ることが出来なかった。どうにか頑張ってみたけど今の私の体型じゃ無理だ。だからキーちゃんにお願いをしてお土産を運んでもらい、一緒に私の家へ向かった。今朝の様にキーちゃんが軽々と大きなお土産を持ち上げられたのは、恐らくステータスウィンドに記されていた筋力強化というスキルのおかげだろうか。後日、色々と聞いてみよう。
キーちゃんと共同でお土産を家の前まで運ぶと、扉の前には珍しく父が立っていた。空が暗くなっても帰らない私を心配して待っていてくれたのだろう。父も私たちの姿を確認すると、私たちが抱えて運んでいる大きな荷物を見てわかりやすい程、驚いた表情を見せる。取り敢えず私は帰宅の報告をする。
「パパただいま~。」
「おじさんこんばんは~。」
「お、おかえりカナタ。それにキーちゃんもこんばんは。・・・2人とも、それは何だ?」
父は一旦冷静になりお土産に指をさして指摘する。当然の質問だ。だけど私たちが答えた後、父はどういう反応するのか、少し期待している自分がいる。
「・・・ベッドだよ、これ。キーちゃんから王都メラルフのお土産。」
「えへへへ。喜んでもらえるかと思って買っちゃった。」
私は少しにやついた顔でそう答える予想通りそう聞いた父はまたも硬直するが、意外にもすぐにその口は動いた。
「・・・あぁ~、はいはい!そっか、王都メラルフは布や麻の生産工場があったっけなぁ。だからあそこの睡眠道具はやたらと質が良いんだよな。キーちゃん、それ、結構安かったでしょ?」
「はい!あんまり高価の物だとカナタちゃんも困るかと思って、そこまで値の張るものにしませんでした!」
えぇぇぇ・・・じゃあこれ、本当にちゃんとした王都メラルフのお土産だったの!?いやまあ普通に考えれば分かること・・・かな?ていうかキーちゃん、そこまで考えてくれてたんだ。まあ実際、気を遣ってこれの値段聞かなかったけど・・・聞いても良かったんだ。
父はキーちゃんに何食わぬ顔で会話を始めた。2人の会話を聞いて逆に私が驚いてしまった。父は交易所の職員、そう言った特産品に関してはある程度、頭の中に入っている。だからキーちゃんが何故ベッドを選んだのかおのずと推理が出来たのだろう。
「にしてもこれまたデカいお土産だなぁ。このドアからじゃ家に入れられないから、裏の窓を外してそこから入れようか。キーちゃんまだ頑張れるかい?」
「全然大丈夫です!」
キーちゃんは余裕の笑みを見せながら返答すると、父の指示のもと私の家の裏までお土産を運んだ。裏に着くと父はお土産を入れられるように窓ガラスを一旦外して、キーちゃんと一緒に家の中へ入れる。ちなみに私はここまで何もしていない。ただ見ていただけ。お土産を家の中に入れてから何かすればよかったと少し後悔する。
「よし、キーちゃんご苦労さん。ここまで持ってきてくれてありがとうな!」
「どういたしまして!」
「それじゃあ早く家に帰った方が・・・って、もう結構暗くなってきたな。・・・そうだキーちゃん、今晩は家に泊まらないか?両親には俺の方から伝えておくから。」
父に言うとおり、確かに今日はもうすっかり暗くなってしまった。女の子1人で家に帰らすのは心配と思ったのだろう。キキラの街で誘拐等の犯罪は聞いたことがないけど、それでも危険には変わりない。
「カナタも別にいいよな?キーちゃんとは昔から仲が良いし。」
そう聞かれてキーちゃんの方へ顔を向けると、彼女の眼は何故かキラキラと輝かせていた。友人宅に泊まるのが楽しみなのか、それとも私だからなのか、その詳細は分からない。
「私も全然いいよ!キーちゃんもそれでいい?」
「うん!ありがとう!」
私は首を縦に振り承諾する。キーちゃんとは本当に親友だと思っている、だから家に泊めても別に嫌気は感じない。何よりここまで彼女を連れてきた1人で帰らすなんて、私だって嫌だ。
「よし、それじゃあ母さんにはカナタからこのお土産の事とか色々と伝えてくれ。俺はもう一回窓を取り付けてからキーちゃんの家に行ってきて、今日は泊まることを伝えてくる。」
「うん、分かった。行こうキーちゃん。」
「叔父さんありがとうございます!そしてお邪魔しま~す!」
こうして今晩はキーちゃんがうちに泊まることになった。
◇
私の家のお風呂は前世の実家の家と比べたらやや広い方だ。だから私とキーちゃん、同時に入っても全く問題なく両手両足広げて快適に湯船に浸れた。しかしそんな入浴中問題が起きた。それはキーちゃんが親友の家に泊まることに興奮しているのか、テンション上げてお風呂の中で抱きついてきたり、水遊びを始めたりと、疲労回復どころではなかった。私も久しぶりの訓練で身体が疲れているのに彼女は中々休ませてくれない。本当に勘弁してほしい。
そんなこんなでお風呂をすませて、私たちは部屋着に着替えて居間に向かうとすでにテーブルにはいつもより一人前多くの料理が置かれてある。テーブルには既にキーちゃんの両親に、キーちゃんは今場うちに泊まることを伝えて帰ってきた父が座っており、母ももうすぐ席に座るところだった。私たちもすぐに各々の席へと向かった。
「おっ、2人とも出たか。随分楽しそうだったじゃないか。それにいつもより長かったな。」
「私的にはゆっくりと湯に浸かりたかったけどね。」
そんな談笑をしているうちに母の最期の皿を運び終わると、今夜の食事の準部が整った。みんなで箸を持ち、食事を始める。勢いよくもぐもぐと母の手料理を食べるキーちゃんを見ていると、私たち家族は今日の食事が少し新鮮に感じる。キーちゃんのおかげで今日のうちは少し和んだ雰囲気になる。
「そういえばカナタ、勝手で申し訳ないが、さっきお前が持っていたこの紙を見させてもらったぞ。」
そういうと父はクアルくんから貰った『冒険者登録について』を見せる。私たちが入浴中に目に入って読んだそうだ。別に私は勝手に読まれて気にはしない。いやむしろ話そうと思っていた事を先に読んでくれて助かったとも言える。
「大体目を通してくれた?」
「ああ、しっかりと。」
「なら説明はいらないね。実は今日遅くなったのは、みんなのスキルや熟練度の見せ合いをしていたからなの。」
「ほう、それで?」
「今の所、条件を満たしているのは私とキーちゃんだけだった。でも試験まであと90日はある。この残りの時間で何とか3人のステータスを・・・。」
「ちょっと待てカナタ。少し質問していいか?」
私がこれからの課題について語っている中、父は急に質問をする。一旦口を止めて父の質問を聞く。
「お前たち・・・まさか今年で冒険者になるつもりなのか?」
やはりそれを聞いてくるのか。私は少し間を空けてゆっくりと首を縦に振る。
「・・・ダメだ。」
その返答も予想通りだった。父のその言葉に先まで和んでいた空気が嘘の様に消え去ってしまう。だけど私はめげずに話しを続ける。
「理由を聞いてもいい?」
「理由は3つある。まず1つは単純な話だ。その残り時間で条件を満たすことなんて無理だ。指導しているお前なら誰よりもそれが理解できているはずだ。熟練度レベルを1つ上げるのにどれほど苦労するのかを。仮に締め切りギリギリで条件を満たせられたとしても、そんな付け焼刃な実力で試験に合格できるとはとても思えない。はっきり言って金の無駄だ。確実な実力を身に着けてから向かうべきだ。」
うん、分かっている、分かってはいたんだ。誰かに言われるまで自分の中で否定し続けていたけど、パパの言う通り私も残り90日でみんなを試験に望めれるほどの実力を身に着けさせることが出来ないって言うのは。さっきみんなの前ではあんなこと言ってしまったけど、頭の中じゃ無理だと理解している。
だけど・・・私はそれをみんなの前で断言できなかった。みんなその日のために頑張ってきたのに、今になって先送りにするなんてとてもじゃないけど言い出せない。
実は私たちは新たに冒険者になって頑張る理由が出来ていた。大きな理由だ。その理由のためにも私たちはいち早く冒険者になりたいのだ。
「2つ、戦いの経験値だ。お前たちの訓練をたまに覗かしてもらっているが、いつも1対1の対人戦紛いをしているよな?」
「うん、そうだけど・・・。」
ていうか来てくれていたんだ。全然気付かなかった。
「あれじゃあダメだ。冒険者が対峙するのはモンスター、人ではない。それに常に1対1の状況で戦えるわけではない。前もって色んなシチュエーションで訓練した方が、後々うまく立ち回れる。今のお前たちはそれができるか?」
何も言い返せられない・・・正論だ。これは私の責任だ。あの対人戦はメンバーに武器を慣らさせるために行ってきたものだけど、パパの言う通り色々な状況や場合に沿って訓練内容を組んでいればよかった。少し考えれば分かることなのに・・・何で気付かなかったんだ。
「・・・3つ、お前たちは外の世界、主に社会や道徳について知らなさすぎる。というより冒険者と言う強い目標に目がくらんで他の事に興味を示さないのだろう。キキラの街は犯罪が少なく比較的安全だから理解しづらいと思うが、他の街町には子供を騙して金儲けするような奴らが多くいる。もう少し世間、モラルについて理解してからじゃないとダメだ。」
なるほど、一理ある。前世は学校の道徳の時間とかでそう言った防犯等について勉強していたから、私は外の世界に対して多少なりの警戒心を持てていた。だけど他のパーティーメンバーは違う。簡単に悪い人の言葉に信じてしまう様子がすぐに目に浮かんでしまう。
「じゃあ逆に聞くけど、あとどれくらい冒険者試験を待たなきゃいけないの?」
「そうだな・・・せめてあと2年は冒険者になることは許さん。これは絶対だ。」
父の2年という言葉に私もキーちゃんは目を見開いた。2年という時間はあっという間なようでまだまだ先、少なくともまだ子供である他のメンバーが待ち切れる時間ではない。父の最後の言葉に食卓は一気に静寂と化した。話しが都合よく行かないこの状況に私は無意識に視線を下げてしまう。
「・・・。」
「まあそう悲観的になるな。俺は別にお前たちをいじめたいからそう言っているわけじゃない。」
分かっている・・・それも分かっているんだよ。パパは私たちを心配してここまで言ってくれているのは私も理解しているんだよ。だけど・・・。
「・・・実は俺は俺なりに、お前たちがどうすればいいのかずっと考えていたんだ。仕事の同僚ともそのことを相談してな、いい案がいくつか見つけた。もしお前たち、いやリーダーであるお前がよければ、この2年間でやるべきことを教えてもいいがどうする・・・?」
これからどうすればいいのか指導してくれるのは正直に言って助かる。だけど父にここまで言われてしまったのは先のことを考えずに、同じ訓練を繰り返して来た私の責任。パーティーメンバーの実力を否定されてしまったのは私の責任だ。このまま誰かに助言して持ってもいいのかと、私はその言葉に一瞬、躊躇した。そんな時、私はふとキーちゃんと目が合った。彼女はじっと私の方を見て、まるで私の考えを理解しているかのように静かに頷く。
そうだよね・・・分かんないなら、誰かに教えてもらった方がいいもんね。もし今年の試験で不合格になって冒険者になれなくてショックを受けるのは私だけじゃない・・・その落ちた人自身もショックを受けるもんね。私の責任ならなおの事。
「パパ・・・お願いします。教えてください。」
物腰を低くして、父にそのいい案と言うのを教えてもらう。
不自然な点があれば、是非ご指摘してください。




