第66話 予想外の贈り物
諸事情により編集しました。
星暦2023年、春の17日、氷の日、朝
私たちは王都バースで2日滞在した後、2日目の朝にキキラの街へ向かう馬車に乗車して、4日後の夜に無事キキラの街に到着した。王都バースの滞在期間中では、一晩中行われた祭りに参加したり、私の祖父祖母に当たる人物たち挨拶に行ったり、キーちゃんやクアルくんへのお土産を買ったりと充実な日々を過ごした。広場での出来事、勇者の風格と心遣い、土産話も沢山だ。
今日からまたパーティーメンバーと共に訓練を再開するという事で、現在私は訓練所へと向かっている。両手には王都バースに来なかった2人へのそれぞれのお土産の品が入った袋を持っている。長い付き合いで2人の好みは大体分かっているつもり。今からでも私のお土産で喜ぶ顔で目に浮かぶ。
◇
自宅から出て数分後、訓練所に到着した。結構早く来たつもりだけど、私と同じ考えなのか他のパーティーメンバーが先に来て集まっていた。
「あっ、カナタちゃんだ。ウィ~ッス。」
クアルくんが一番に私に気付いて挨拶をする。10日以上での再会のせいか、いつも通りの彼の姿を見てなんか少しほっとした。
「おっは、カナタちゃん!」
「おはよう、カナタちゃん。」
「おはようみんな。予想はしていたけど、やっぱり来るのが早ぃ・・・。」
「おはようカナタちゃん!会いたかったよぉ~!」
みんな挨拶してくれたから私も返そうとそう言いかけている時、キーちゃんが私の体目掛けて飛び込んできた。あまりに勢いよく飛んで来たせいで私はキーちゃんに耐え切れずそのまま後ろへ転倒する。今回は彼女の額の角が刺さらなかったけど、それどもかなり背面が痛い。
「イタタタ、久しぶりキーちゃん。相変わらずだね。」
「会いたかったよ、会いたかったよ、会いたかったよ!」
キーちゃんはそう言いながら両手を私の後ろへ回し、胸に顔をこすりつける。鋭利な角が私の顎の下でぶんぶんと左右に動き回りかなり危ない。何とか引き剥がそうと彼女の肩に手を置いて強く前へ押し込むが、抱きつく彼女の腕の力の方が強く私一人の力では彼女を引き剥がせなかった。
「キ、キーちゃん・・・そろそろ放してくれない?動けないんだけど・・・ね?」
「あぁ~匂いがする!カナタちゃんの匂いがする!」
「・・・そりゃあ私の服と体にこんなに密着しているからね。とにかく離れて。」
「あああぁぁぁー!!」
キーちゃんは私の胸でうずくまり、聞く耳を持たなかった。彼女の息が私に服に、そして服から私の肌へとその温度が伝わってくる。そんな彼女の様子を見ていると呆れてこれ以上言葉が出なかった。
本当に何時からだろう・・・キーちゃんがここまで私に依存するようになったのは・・・別にここまで好かれるのは嫌じゃないけど、けど・・・限度ってものがあるじゃない?毎回これだと訓練が滞るし、何より疲れる。大体なんで毎回私なの?同じ女子ならコルルちゃんじゃダメなの?・・・もうキーちゃんが分からなくなってきた。とりあえず・・・誰か助けなさいッ!
私がそう思いながら後ろにいる他のパーティーメンバーに睨む。3人はそれを感づいてくれるけど、そのうちの男性2人は面倒だと思いそっぽを向く。唯一駆け寄って助けてくれたのは残り1人のコルルちゃんだけだった。コルルちゃんはキーちゃんを私から説得をしながら引き離してくれた。
「いや~コルルちゃん、ありがとう。助かったよ・・・とりあえずそこの男子、後で覚えておきなさいよ?」
私は起き上がってそう言っても2人はそっぽを向いたまま。一瞬私の火魔法で燃やしてやろうか。ちょうど火魔法の対象物を使った本格的な練習をしたかったところだし。
「さ~て、じゃあ今日も訓練を・・・と、その前に。キーちゃんクアルくん、2人に渡したいものがあるの。」
キーちゃんが飛び込んできた際、衝撃を受ける前に咄嗟に手を放して無事だったお土産の入った袋を持つ。別に割れ物が入っているわけではないけど、とりあえず汚れなくてよかった。
「えっ、何々?」
「渡したい物ってその手に持っているやつ?」
「正解。ほら、2人にお土産。王都バースだけに売っている特産品だって。」
駆け寄って来た2人にそれぞれの袋を手渡した。最初は訓練が終わった後に渡せばいいのか迷ったけど、後々忘れてしまいそうだから今渡すことにした。受け取った2人は袋の中身をその場で品を取り出した。私が2人にプレゼントしたのは上着だ。しかもそれぞれの種族に適応した品物である。
「おお~!かっこいい~!」
「うわ~!カナタちゃん、ありがとう!大事にするね!」
「いえいえ、喜んでもらえて良かった。」
キーちゃんとクアルくんは予想通りの反応を見せた。それぞれの服の柄や色は2人の好みそうな物を選んだ。これ程喜んでもらえるとは、頑張って探し見つけた買いがあったというもの。
「あちゃ~、お土産なんて考えていなかった!?ごめん2人とも、僕は何も用意していないんだ!」
「ごめん、実は私も・・・。」
私のお土産を見て、一緒に王都バースに行ったケマくんとコルルちゃんは申し訳なさそうにキーちゃんとクアルくんに頭を下げる。子供だからそう言った気遣いが出来ないのは仕方がないと思う。実際、王都バースの祭りや観光だけでも他の事を忘れてしまうほど楽しんだのだから、忘れていても仕方がない。ちなみに私は前世のフリーターという経験のせいか、社交辞令でそう言った事には無意識的に頭の中で考えてしまっていた。
「いいよいいよ、実際、俺も何も用意していないんだし。やっぱ知らない土地と言うか、行ったことのない場所と言うか、そういう所に行くとついつい楽しんでしまうよな~。」
「「確かに~。」」
クアルくんは2人に対して笑いながらそう言った。彼は意外と寛大だった。
「きっと2人に似合うと思うから訓練の無い日に着てみて・・・ん?」
私がそう2人に話している時、訓練所の奥にある謎の大きな包み袋を見つけた。とても違和感があったけど奥に置かれてあるせいか、ここに来てすぐに気付かなけなかった。今までここで訓練してきた時はあんなものはなかった。私たちが神の恩恵で離れている間に誰かがサプライズプレゼントとして置いてくれたのだろうか。
「ねえみんな、あそこにあるあれ・・・なに?」
「あ~あれ?ふっふっふっ、あれはねぇ~・・・私からのプレゼント~!」
あれはキーちゃんからのお土産の品らしい。どうやらキーちゃんも同じことを考えていたそうだ。それにしてはデカすぎるとツッコみたくなるが、純粋なキーちゃんの思いにいちいち何かを言うのは野暮と言うものだろう。
キーちゃんは私がお土産の品を指摘すると、私からのプレゼントをクアルくんに持たせてそのお土産の品に近付く。腕を広く伸ばしてキーちゃんはその大きなお土産の品を軽々と持ち上げる。その光景を見てパーティーメンバー一同はビクリと一瞬、身体を揺らせる。キーちゃんはその状態のままお土産の品を私の方へ運ぶ。
「はい、カナタちゃん!受け取って!」
「えっ、こ、これ丸々私のなの!?あ、ありがとう・・・。」
キーちゃんはそのまま私にお土産の品を渡してくれた。きっと見た目よりも軽いだろうと安易な考えで品を受け取ると、想像以上の質量に私は背中が仰け反り、そしてまたも後ろから転倒する。その時私は変な擬音を発したけど、私自身なんて言ったのかよく分からなかった。
・・・そういえば、鬼人族って他種族の中で一番の力持ちだったっけ?ああ、だから鬼人族のキーちゃんはあんな簡単に持ち上げられたんだ。普通に考えたら分かるよね、こんな事?あぁ~・・・やっぱり私がこの中で一番バカかも。
「おいおい、マジか!かなり派手に倒れたぞ!?」
「・・・死んだ?」
「何で勝手に殺すの!?カナタちゃん、今どけるから待っていて!」
今回は危機感を感じたのかパーティーメンバーは急いで私の方へ駆け寄り、すぐにお土産の品を持ち上げて私を救出してくれた。お土産の感触は低反発の枕の様だった。しかし問題はその質量。普通にお土産としてありえない重さである。
「ありがとうみんな。・・・キーちゃん、これは何なの?」
「ふっふっふっ、何だと思う?」
キーちゃんは両腕を組みながら少し誇らし気な表情で問い返した。当然現段階でこの袋の中身は理解できない。そして彼女の謎の自信も理解できなかった。
「中身ここで見てもいい?」
「いいけど気を付けてね?せっかくのお土産が汚れちゃうから。」
とりあえず分からないから中身を確認することにした。キーちゃんから許可をもらって私は袋の開け口をきつく締めている紐を解き始める。その際に後ろから何やらメンバーの話し声が聞こえてくる。
「本当に何だろう、あれ?クアル知っている?」
「神の恩恵の次の日、キーちゃんの家族と別れてそれぞれ王都メラルフの観光したんだ。んでその日の夜、少し遅めで宿屋に戻った時には、すでキーちゃんがあれを買っていたんだ。一応聞いたんだけど“お楽しみ”って言って教えてくれなかった。」
「・・・えっ、普通に怖いんだけど?本当に何なの?モンスターの剥製とか?」
「そんな物プレゼントしません!」
メンバーはふざけているのか、それとも本気で考えているのか、キーちゃんがくれた袋の中身を模索していた。メンバーがそう思うも無理はない。実際にキーちゃんのお土産は普通とは思えないほどの大きさなのだから。後ろでメンバーたちがそう話しているせいで、ちょうど紐を解き終わった私まで不安になってきた。
・・・本当に大丈夫だろうか・・・。まあ流石のキーちゃんでもそんな奇抜なお土産は選んで来ていないでしょ。・・・信じて良いよね、キーちゃん?
そう思いながら袋の開け口を大きく開いて、私は一気に袋を下へ下げる。袋の中身は、赤色一色の球体のぬいぐるみだった。ただ赤くて、何の飾りつけの無い丸さで、そして袋越しでは分からなかった心地良い手触りのぬいぐるみだった。私は予想外なお土産に一瞬硬直した。
「・・・キーちゃん。これはなに?」
「ふっふっふっ、何だと思う?」
お土産が袋からさらされていてもキーちゃんは答えを教えてくれなかった。そこまでして隠す必要はないと思う。まあここまで分かったんだし、少しは自分で考えてみよう。
「・・・ぬいぐるみ・・・かな?」
「ブブー!正解は・・・ベッドでした!」
ベッド!?えっ、これベッドなの!?この上で寝るの!?
まさかの回答に私はキーちゃんのお土産を2度見する。一応答えてみたけど、これは当てられるわけがない。
「前にカナタちゃん“私もベッドで寝てみたいな~”って言っていたよね?」
ああ~、大分前にそんなこと言っていた気がする。蒲団も別に悪くはないけど、1回ベッドで寝てみたいな~って思った時がある。その時つい声に出してしまっていたんだ・・・ってかよく覚えていたね。
「それで私ね、王都メラルフでお土産探している時にこれを見つけたんだよ!“あっ、これならカナタちゃんも喜んでくれる”ってピンっときたんだ!・・・もしかして、もう要らなかった?」
キーちゃんは少し不安げな表情で私に尋ねてきた。最初は確かに予想外の品物で戸惑いを見せたけど、小声で呟いた程度の私の不満を解決してくれようとしたキーちゃんの心遣いに、今の心境は感謝しかない。
「・・・ううん、すっごく嬉しいよ!ありがとう、キーちゃん!」
私は今の気持ちを濁さず、キーちゃんに感謝を伝える。するとその返答が嬉しかったのか、キーちゃんはたちまちまた私に抱きつこうと飛び込んできた。しかし甘い。先のこともあり、もう直感的な慣れてしまい私は用意にかわすことが出来た。彼女はそのままこける様に地面に倒れる。かなり痛そう。
「うぅ~、避けないでよ~。」
「ハグはもうノーサンキュー、でもプレゼントはありがとう!大事に使わせてもらうね!・・・ところで、ケマくんとコルルちゃんへのプレゼントはどんな物を買ったの?」
私へのお土産がベッドだから後の2人にはどんな物を用意したのか少し気になる。話の流れ的に別に聞いても問題はないだろう。現に私がその話題を振るとケマくんもコルルちゃんも、少し気になり始めているのかそれとも楽しみなのかそわそわしている。私は自力で立ち上がり服に付いた砂を掃っているキーちゃんの返答を待った。
「・・・へ?」
「いやだから、ケマくんとコルルちゃんのお土産はどんな物って聞いているの?2人の分も持ってきているんでしょ?」
「・・・あぁ・・・。」
再度私がそう尋ねると、キーちゃんは何故か戸惑った表情を見せる。目元に至っては何かを焦っているかのように目が泳いでいる。もしかして家に置いてきたのだろうか。私とコルルちゃん、クアルくんとケマくんはお互い顔を見合いってキーちゃんの反応は何なのか考える。すると少ししてキーちゃんからようやく話してくれた。
「えっと・・・私も家に帰ってから気が付いてんだけど・・・その・・・2人の分は・・・ないの。」
「「「「えっ?」」」」
キーちゃんの戸惑いながら話す内容に私たちは同時に同じ反応をした。彼女は両方の人差し指を交わせながら続きを話す。
「カナタちゃんの分のプレゼントを見つけた時、絶対に喜ぶと思ってはしゃいじゃっていたの。それでね、すっかり2人の分の忘れていたんだ・・・えっと、ごめんね。」
最後にキーちゃんはそう言いながらケマくんとコルルちゃんに向かって両手を合わせて謝罪をする。私は苦笑いで済ませられるけど、呆れているのかそれとも残念に思っているのか2人は何とも言えない表情になっていた。当時同じの宿屋に泊まったクアルくんも私に渡した袋が3人分だと思い、そこまで追及はしなかったようだ。そう思ってしまうのが普通だから仕方がない。
今のキーちゃんの発言により訓練所の空気がとても重い。ここは仮リーダーの私が何とかしなければと思い、必死に何か話題を逸らせる良い案を考える。
ヤバい、この空気・・・なんとかしなきゃ!でも、プレゼントを貰った私が何か言うべきだろうか?
「・・・まあ、僕もキーちゃんやクアルくんに何も用意していないし、おあいこだね?」
「確かにね。一応リーダーであるカナタちゃんにだけプレゼントを送られても仕方がないかも。でも、次また遠出する機会があったら、その時はちゃんと私たちの分のいいお土産用意してね?もちろんクアルくんもだよ。」
「うぃっす。次があればね。」
「2人とも・・・本当にごめんね!」
キーちゃんはそう言いながら私にやったのと同じとおりにコルルちゃんにも飛び込んで抱きついた。コルルちゃんはたちまち背面から地面に落ちる、その際にとてもいい音がでた。間違いなく今のは痛いだろう。
よかった、パーティー内で亀裂が入らなくて本当によかった~。あの重い空気の中、どうなるのか本当にドキドキしたよ。お土産でパーティー解散とか、シャレにならないからね?
それにしてもクアルくんだけじゃなくてケマくんもコルルちゃんも、友達に対してすごく優しい子に育ったな~。こうしてじゃれ合っている光景が見られて本当に・・・よかった。おっと傍観している場合じゃなかった、コルルちゃんが“助けて”って目で訴えている。私の時も助けてくれたし今後は私が・・・やっぱりもう少し放置してみようかな?この光景、見ている側は本当に楽しいし。
こうして朝のやり取りが無事に終わり、私たちは久しぶりの訓練を再開した。ちなみにキーちゃんの束縛をしばらく放置したせいで、後でコルルちゃんに滅茶苦茶怒られてしまった。加害者のキーちゃんはもちろん、何もしなかったクアルくんとケマくん、そして一応仮リーダーの私もであった。
不自然な点があれば、是非ご指摘してください。




