第65話 父が来たくなかった理由
諸事情により編集しました。
私たちは今世初の大きな祭りに夢中になり、影から忍び寄る2人の陰に誰も気付こうとしなかった。2人の影は父の背後に徐々に距離を詰める。
「ねぇねぇオネエ様、あのいかした声色と体格の人ってまさか・・・。」
「あら、もしかしてもしかするんじゃな~い?」
父は背後に現れた2人の声を聞いた瞬間、全身をびくんと震わせながら鳥肌を立てた。その2人の顔を確認しようと父は恐る恐る後ろを振り向く。その時の父の顔は今まで見たことがない程に顔を青ざめていた。
「そ、その声は・・・。」
「「タユーリちゃん、見ぃ~っけ!」」
パツパツのワンピース、長い髪を結んでいる可愛らしいリボン、振袖からはみ出ている豪腕な腕、そして顔がとても濃い2人の男性と父は目が合った。
「ぅうああああぁぁぁぁ出たぁぁぁぁ!!」
2人を見た瞬間、父はそう大声で叫んだのと同時にすぐさま2人から離れようと逃げ出そうとした。しかしそれを予想していたのか2人の男性は父を逃がさぬようにその豪腕な腕でがっちりと抱きつく。
「も~タユーリちゃんったら!久々の再会なのに逃げることはないじゃない?」
「そうよもう、連絡もくれないから心配していたのよ!私たち寂しかったんだからね!だから今夜は・・・絶対に、離さない!!」
「ぎゃああああぁぁぁぁ、ギミーアンドギモー!!よりにもよってこんな時に一番会いたくなかった奴らに会ってしまったぁぁぁぁ!」
うわぁ・・・何あの女装した人たち!?ファッション・・・ではないよね。いわゆるオカマさん?パパと友達みたいだけど・・・うわぁ、パパあんな友達いたんだ。・・・なんか楽しそう。
2人の男性は父に抱きついたまま微妙に生えてきている顎髭でじょりじょりとこすりつけている。高速でそれをやられている父はかなり苦しそうな顔をしているけど、私からはとても滑稽と同時に面白く見えた。そんな男性2人組に捕まったのを気付いた母はそぐさま父の下へ駆け寄った。
「お前らぁぁぁぁ、髭をこするなぁぁぁぁ!!」
「アナタ・・・その人たちは?」
呆然とした表情で問いかける母、2人の男性は母に気付いてじょりじょりを止めた。しかし頭を密着したまま、父の今も苦しそうな表情で捕らわれている。
「あら、どちら様?オネエ様知っている?」
「いいえ、恐らくお初だと思うけど・・・。」
「俺の女房だ!そしてその隣にいるのが俺の娘だ!だからお前ら・・・家族の前で恥をさらさせるな!」
「「まあ!!」」
父からそう聞くと、2人は父から手を放して今後は私たちの方へ駆け寄ってきた。不気味な表情を浮かべる濃い顔が2つ、あまりの気持ち悪さに私と母は背筋が凍った。
「まあ~!あなた、タユーリちゃんの奥さんなの?」
「は、はい・・・えっと、あなた方は?」
「初めまして私はギミー。それでこっちは弟のギモーよ。」
「初めまして・・・まあ~!オネエ様、見てこの子!確かにタユーリちゃんと同じ髪色をしているわ!かっわいいぃぃ!」
そう言いながらギモーは私の頬をペタペタと触ってくる。つねられたり、引っ張られたりともみくしゃにされた。反抗しようと思ったけど、間直で見るその豪腕な腕で何をされるのか分からないから、何もできなかった。
弟って書いて“いもうと”って呼んだよね。じゃあそっちは兄と書いて“あね”って呼ぶのかな?自分たちが異常ってことを自覚しての紹介かぁ・・・っていうか、気持ちが悪い・・・。ヤバい・・・早く誰か助けて・・・!?
「ギモーその辺にしておきなさい。嫌がっているじゃない。」
「あらそう?ごめんなさいね。」
「い、いえ・・・。」
私の心境を察してくれたギミーが注意してくれたおかげで、私はギモーの豪腕な腕から解放された。それほど乱暴に扱われていなかったから痛みは感じないけど、濃い顔面が近付いてきたせいか気分はとても気持ちが悪い。昼間の騒動の方がマシだと思えるほどに。
「しゅ、主人とはどういったご関係で?」
母が勇気を出して2人に問いた。迫ってきたオカマ口調の2人に対しておくさないとは、流石は母である。確かにこの人たちと父との接点がすごく気になる。
「そんなにかしこまらなくていいわよ、奥さん。私たちに対しても気軽でいいから。」
「は、はあ・・・。」
「えっと、私たちとタユーリちゃんについてだったわよね?そうね・・・簡単に言うと元同じ仕事の同僚・・・ってことかしら?」
同じ仕事・・・ってことはこの人たちも交易所関係の人ってこと?そういえばパパは元々この王都で働いていたって言っていたわね。その時の仕事仲間ってことかな?元ってことは、今は止めているみたいだよね?
「イタタタ・・・お前ら、会って早々でこれとか相変わらずだな。」
「もうタユーリちゃんったら、結婚していたのなら手紙一通でもいいから報告してほしかったわよ!」
「そうよそうよ!オネエ様の言う通りよ!私たちは知らない中じゃないんだから、お祝いの一品位送ってあげたのに。」
「・・・お前らって言う濃いキャラを妻や子に見せたくなかったんだよ。はぁ~・・・だから帰って来たくなかったんだ。」
「なによ辛辣わね!もう1回じょりじょりしてやりましょうか!」
「もうええわ!」
父の言葉に私は一瞬、数年前のとある会話を思い出した。それは約3年前、早期に私の神の恩恵の場所についての話し合いの時である。確かに当時に父は今の様にやや不機嫌な表情で私にこの王都へ行く選択を拒んでいたような気がする。
あの時やたらとここの悪い所を刺激して、私に行く意思を削ごうとしていたのはそう言うことだったんだ。パッと見はそんなに嫌な人には見えないけど・・・パパ何でそんなにこの人たちを拒むんだろう?
「・・・つうか、さっき話聞いていたけど“元同僚”ってどういうことだ?お前ら交易機関を辞めたのか?」
「そうなのよ。あそこの上司でやたらとミスをねちねちと言って来る人がいるじゃな~い?もう私たちの心はボロッボロッ。だから思い切って辞めたってわけ。」
「ふ~ん、あっそ。どうせなら俺が居るうちに辞めて欲しかったよ。」
おおぅ、自分から聞いておいてすごい対応だ。でもこの2人の気持ち、何となくだけど共感できるなぁ。私も前世は上司の勝手な考えで解雇させられたのだから・・・やっぱりこの世界でも上下関係が厳しいんだね。
「ねえ~タユーリちゃん、そんなつまんない話よりさぁ~。久しぶり再会なんだし、この後私たちのお店に飲みに来な~い?」
「はぁ、お前たちの店?お前らの家業って飲み屋だったのか?」
「違うわよ。前の職場を辞めた後、私たちでお店を建てて経営しているのよ。とってもいい雰囲気な店だから~。」
「・・・ちなみに店の名前は?」
「『エンジェル ギミー&ギモーの隠れ家』よ。私たちの仲だから来てくれたら特別にサービスしてあげるわよ~?うっふ~ん。」
「えーい、べたべたと体に触って来るな気色が悪い!!離れいッ!!」
2人は又もや父に近寄り、気持ちが悪い手つきで父の体を舐め回すようになで始める。父は必死に振り払おうとするけど、しつこい兄弟はのか中々父から離れようとしない。その様子を見て私は、何故父はここまで2人から距離を置こうとするのか理解できた。
あぁ~・・・さっきから素っ気ない態度をしていたのはそういうことか。パパにとって2人は天敵なんだ。最初は仲が良い同士のいちゃつきかと思っていたけど、パパはあれを本気で嫌っているんだ。でも2人はそれに気付いてもまだ続ける・・・いわゆるいじめ?親しい中にも礼儀ありって言うけど、2人にもそんなものはなさそうだね。
「俺はこれから家族と一緒に祭りを楽しむんだ!お前らなんかにかまっている時間はないんだよ、しっしっ、あっちに行け!」
「なによも~、相変わらずの頑固者!」
「今晩くらい別にいいじゃない、ねぇ~?」
「・・・別にいいじゃない。一緒に飲んで行きなさいよ、アナタ。」
「「「「えっ!?」」」」
母がそう言った瞬間、その場の空気が一瞬にして変わった。私と父、ギミーとギモーで、それぞれ違う意味合いではあったけど、それを聞いて台詞がかぶった。父は聞き間違いじゃないかと思い、恐る恐る母に聞き返す。その表情は笑っているようで眼は笑っていなかった。
「あ、あはは・・・いやいや、気を遣わなくていいよ?俺とこいつらはちょっと見し合った関係なだけだし、こいつらよりもお前たちと一緒に居る方が・・・。」
「でも久しぶりの再会なのでしょう?いいじゃない、一緒に飲んで行ったら!今後はいつこの王都に来るのか分からないんだから、今晩は元同僚さんととことん今までの事を語り合ってきたらいいわ。」
母がはっきりとそう言うと父の顔色は一気に血色の悪く変化した。純粋な優しさなのか、浮かび上がる笑みで見送ろうとする母に対して、父はそれ以上何も言えなかった。
うわぁ・・・めっちゃいい笑顔ではっきりと言うなぁ。明らかに嫌っているのを分かって何で・・・んっ?・・・もしかしてママ、パパがこの2人を嫌っていることに気付いていないの!?えぇー、このやり取りを見ていたら分かるでしょ普通ッ!・・・うわぁ、ママのこの表情、多分当たっているわぁ。
「いや俺は別にこいつらと一緒に居たいわけじゃ・・・。」
父が最後まで言い切る前にギミーとギモーは再び父に抱きついた。ギラギラと輝かせた眼、最大まで上がった口角、2人は母の言葉を聞いて歓喜していた。
「・・・今の聞いたオネエ様?」
「ええ、はっきりと。奥さんから許可を貰ったわ・・・行きましょうか?タ・ユ・ウ・リ・・・ちゃん!」
「ぅうわああああぁぁぁぁ止めろぉぉぉぉ!!」
父はそのままギミーとギモーに連行されて行った。成す術もなく父は明かりの少ない裏路地に入り、あっと言う間に濃い顔の2人と共に暗闇の中へと消えて行った。父の姿が私たちの視界から完全に消えたと同時に叫び声が響き渡る。
「助けてぇぇぇぇ!!」
私はその場で連れて行かれた父に合掌をする。今世初のホラーな出来事が見れた。
「もうパパったら、久しぶりの再会にあんなに楽しそうにして。本当にここに来てよかったわね、カナタ。」
「・・・。うん、そうだね!」
母は良い笑顔で私にそう話しかけた。もう今さら言ってももう遅いから私はあえて何も言わなかった、
「カナタちゃ~ん、そんな所で何をしているの?」
「あっちに楽しそうなお店があったよ!3人でやってみようよ!」
少し離れた所からケマくんとコルルちゃんが誘ってきた。どうやら祭りの屋台に夢中になり、私たちのやり取りを見ていなかったようだ。むしろ2人にあの光景を見られなくてよかったと思うべきだろう。
「うん、今行く!行こう、ママ!」
「はいはい。」
私は母の手を握り、誘ってくれた2人の下へ駆け寄った。今晩は目一杯楽しもう。ここにいない父の分まで私たちが楽しもう。
◇
祭りを十分に楽しんだ私たちは眠気に襲われて、渋々と宿屋に戻り就寝した。そして次の日の朝、そんな私たちに遅れて父が帰って来た。その時の父の姿は見るも無残だった。全身の服に無数のキスマーク、一体何があったというほどびりびりに引き裂かれた衣服、泥酔のせいなのかそれとも予想以上の惨劇を見たせいなのかその眼もとは涙目である。そんな父の帰還に私も母も絶句する。哀れに感じてしまったのか、私は思わず父に向かって合唱してしまう。
不自然な点があれば、是非ご指摘してください。




